愛別に陽の目? 金脈探査プロジェクト

 カナダの金属資源探査上場企業、ジャパンゴールドコーポレーションと世界最大級の金採掘会社バリックゴールド(同国が本拠地)が戦略的提携の下で日本で現在進める金鉱床探鉱プロジェクト。鹿児島、石川、さらには北海道など全国6ヵ所で取り組んでいるが、この上川管内でも「愛別プロジェクト」と称して各種探査作業を進めている。

生田原には複数の金脈
 ジャパンゴールドコーポレーション(ジョン・プロウスト会長兼取締役CEO)とバリックゴールドコーポレーションは2020年2月に戦略的提携を締結。鹿児島県の溝辺をはじめ、鹿児島・熊本・宮崎県にまたがるえびの、石川県能登富来、北海道内では北見の天竜と白竜、そしてジャパンゴールドがオペレーターとして探鉱活動(費用はバリックゴールド負担)を実施するプロジェクトのエリアに選ばれたのが、上川管内の愛別、天龍、白竜プロジェクトだった。
 鹿児島の溝辺プロジェクトでは2022年9月に測線長が14・6キロにわたる物理探査を行った。500メートルにおよぶボーリングを3本、広い間隔で掘削したところ、金を含むアンチモン(鉛と非常に有用な合金を形成する)に富む熱水角礫の存在が明らかになった。えびのプロジェクトでは、長さが4キロメートルにわたる変質帯を対象に、測線長が9・4キロメートルにおよぶ物理探査を同年11月実施している。能登半島にある富来では21年4月、高品位の岩石試料が採取されている。
 北海道内ではジャパンゴールド㈱が単独で進めている生田原プロジェクトが注目株だ。隆尾地区で2021年2月に行ったボーリング掘削によって孔長20メートルで金脈(1トン当たりで6・3グラム)、孔長が0・45メートルで金脈(1トン当たり1395グラム)をとらえた。また追加で22年10月に7本のボーリングが掘削されている。旧採掘区の南100メートルに位置する箇所では高品位の金、深度200メートルには熱水角礫化流紋岩が分布し多数の縞状石英脈に切られていた。さらに佐呂間探査地では、6本のボーリングを掘削(同年同月)しており、高品位鉱石が確認された。北の王探査地では3本のボーリング掘削が行われ(同)、土壌地化学探査等を通じて一定の成果を得た。
 これらに対し愛別プロジェクトでは2022年10月に5×5平方キロメートルの範囲で鉱脈の発見を目的として2022年10月、詳細なマッピング(地表踏査)と、鉱脈が地表に露出した形の露頭試料の採取を行った。23年7月から10月ごろにかけては、地下の構造を調べる電磁探査を実施。今後、詳細な物理探査を行うべく現在、露頭試料として採取した石を粉末にして金の含有量を分析する作業をカナダやオーストラリアの調査機関に委託している段階という。ちなみに、物理探査には電気・電磁・磁気・重力探査の4つの種類があり、いずれも地下内部の構造を知るための探査法だ。

愛別町側には期待薄? 上川町側には可能性?
 ジャパンゴールドコーポレーションの100%子会社である「ジャパンゴールド㈱」(本社・東京)の大賀光太郎チーフエンジニアによると北海道内で一連の地質調査を開始したのは2015年から。そして翌年から地表踏査を行い、現時点で金鉱床探鉱プロジェクトそのものが最も進んでいるのが生田原だ。前述のようにボーリング作業を始め2024年末には試掘権が切れるため、それ以降、採掘権を取得するかどうか。2019年から行ってきたボーリングを通じて深度500メートルから700メートルまで掘削してきた。
 一方、今のところ微妙なのが愛別プロジェクト。2年ほど前から本格的な調査に着手し、2021年度から翌年度にかけて「土壌/川砂採集プログラム」で高品位の結果を得て〝ハイライト〟とも見られプロジェクト自体の拡大を図ったものの、ボーリングが可能な状況にまでは至っていない。
 愛別プロジェクトでは、愛別町に含まれる6つの鉱区と士別市内の3鉱区からなる「愛別」探査地、上川町を主体に天竜鉱床も含まれる「愛別東拡張」と呼ばれる探査地がある。それぞれ探査地は1鉱区、最大2・4×2・4平方キロメートルの正方形で9つからなる。ところが、かつて製錬所まであって国の政策で稼働していた愛別町内の旧徳星金山周辺の地表踏査では新たな鉱脈等は発見されておらず、むしろ上川側の方が地表踏査の結果は良い。
 大チーフエンジニアは指摘する。「最終的に金鉱脈はボーリングによって確認するため、ボーリング機材の設置箇所の確保が必要。その点では上川町側の調査区域の方が稜線部分に樹木も無く、クマザサに覆われ、高山植物等も無いことから、伐採の必要が無く、ボーリング機材の設置箇所の確保が容易だと考えています」。
 その上で上川町を主体とする愛別東拡張探査地については「あまり調査されていなかったために現在、重点的に調査しています」と大賀氏。今後、ボーリングを行うなど、発展的な方向に進めば、ヘリコプターを駆使して機材を運んだり調査員はモノレールで移動するといった手段も視野に入れ、金鉱床としての可能性を追求すべく探鉱プロジェクトを進めていく考えだ。

大手ジャパンゴールドとバリックゴールド社
 かつて日本では比較的多く金が産出されマルコポーロが「東方見聞録」で〝黄金の国〟とも紹介していたことが知られる。今から約150年前までは北海道で金鉱床の発見が相次ぎ、鴻之舞、千歳、手稲、北の王など金鉱山が開発された。とりわけ鴻之舞金山は「東洋一の金山」と呼ばれた時期もあったが、金鉱山整備令(1943年)によって全国の金鉱山が全て閉山を余儀なくされることに。
 しかし、その後、時代の変化に伴い1981年、日本全土の地質構造調査を遂行していた金属鉱業事業団(現JOGMEC)が鹿児島県菱刈で世界でも高品位の金鉱床を発見。以来、住友金属鉱山㈱が世界的規模の菱刈鉱山の操業を85年から開始し、2022年現在年間約4トンの金を産出している。一方で2013年に施行された改正鉱業法により、海外資本でも試掘が可能になり参入を決めたのが、ジャパンゴールドコーポレーショングループだ。
 ジャパンゴールドコーポレーションの本社は、カナダのバンクーバー。トロントTSXベンチャー市場に2016年9月に上場し、連結純資産は約32億円に上る(21年)。世界ナンバーワン産金会社、米国ニューモントコーポレーションを株主に持つ。数多くの資源会社の設立と経営に携わるジョン・プロウスト会長を筆頭に、経験豊富な探鉱チームと経営陣、多様な海外鉱山開発プロジェクトに従事したアドバイザーなどで編成。大賀チーフエンジニア(工学博士)をはじめ、カナダ、オーストラリアなど8ヵ国のエンジニア、日本での経験を持つ探鉱、試錐(ボーリング)技師らが多く顔をそろえている。
 バリックゴールドコーポレーションと進める金鉱床探鉱プロジェクトでは、ジャパンゴールドが日本に保有する31ヵ所(合計24万ヘクタールにおよぶ鉱区を含む)のうち、29ヵ所についてはバリックゴールドが費用負担、ジャパンゴールドがオペレーターを担って探鉱活動を実施。ダイヤモンド・コア試錐機4台を自社保有する。中でもジャパンゴールド単独で行いボーリング掘削まで進んでいるのが鹿児島の大良・高峯鉱区と北海道の生田原プロジェクトだ。

北海道石が幸運呼ぶ?
 愛別プロジェクトにも可能性は残されている。前述したように天竜鉱床を含めて上川町側に探査グループは注目しており、今後の探査の成り行きが気になるところ。今では閉山と化した「徳星金山」の存在も無視はできない。2023年に発見された「北海道石」は愛別町と河東郡鹿追町の山林から採取したもの。愛別町の発見場所は古い鉱山跡とされるが産地保護の観点から公開されてはいない。この古い鉱山跡こそ徳星金山ではないのかととらえる見方も一部である。
 徳星金山に関して浅田政広旭川大学名誉教授は「北海道金鉱山史研究」の中でこう記している。「当時本邦第1位の産金会社であった日本鉱業は道内に北隆、大金、恵庭、大盛などの金山を擁して、その中で徳星は、北隆に次ぐ産金量を誇っていた。ピーク時の昭和12年、徳星は日本鉱業傘下の金山中、産金量で日本国内の7・9%を占めており、かなり重要な位置にあったことを物語っている」
 紫外線を照射すると、美しく蛍光する北海道石。そして最盛期の徳星金山付近には1500人以上の人々が住み、鉱山住宅をはじめ小学校や診療所が立ち並んでいたと浅田名誉教授の記述にはある。しかし「今はその跡形もない。ただ、往時を偲ばせる製錬所の巨大な石垣だけが自然の復元力に身をまかせ、深い山中に苔むすままに佇んでいる」と情緒的に綴っている。それでも浅田氏は「製錬所跡は立派な産業遺跡で観光資源でもあるのです」と強調する。
 カナダの探鉱業界大手同士が手を組み挑む金の産地を探るプロジェクト。その北海道編では生田原エリアが最有力視されているが、上川管内の愛別プロジェクトが陽の目を見ることはないものか。北海道石が愛別町内でも発見されたことを思う時、何か幸運を呼ぶようにも思えてならない。

この記事は月刊北海道経済2024年02月号に掲載されています。
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