藤本壮介氏 3つの計画が進行中

 東神楽町出身の世界的な建築家、藤本壮介氏が参加する3つの計画がいま、東神楽町と旭川市で進められている。いずれも既成概念を覆す建物となりそう。藤本氏が大阪・関西万博で重責を担うこともあり、この地域に注目が集まるきっかけとなりそうだ。

風景と共に弔う
 藤本壮介氏の傑作のリストに新しい作品が加わった。フランス南部、モンペリエの集合住宅「l’Arbre Blanc」。地上17階の建物からあらゆる方向にバルコニーが突き出し、名称が意味すうる「白い木」のようにも見える。
 現地の自治体は7年前に建築遺産となるタワーの建設を決定。コンペで選ばれた業者が藤本氏に協力を依頼。約3年の工事を経て昨年5月に竣工したこの建物の独特の外観は、「センセーショナル」と評された。
 藤本氏は東神楽町出身。1971年に生まれ、旭川東高を経て東京大学で建築を学んだ。現在では「日本の中堅建築家のトップ」との呼び声も高く、その名は世界でも有名だ。
 いま、その藤本氏が参加するプロジェクトが3つ、東神楽町と旭川市で進行している。第一に、東神楽町の町役場、図書館、診療所、文化ホール(新設)などを円形の回廊で連結する「複合施設」。回廊の外側には環状の並木も設けられる予定。
 2つ目は、東神楽町が東川町、美瑛町と形成する大雪葬祭場組合の大雪葬祭場整備事業。築40年間が経過した現在の施設を建て替える事業だ。施設の基本設計・実施設計について公募型プロポーザルの募集が行われ、その結果が8月28日に発表された。応募した3者の中から選ばれたのは㈱藤本壮介建築設計事務所(東京都)と㈱アイエイ研究所設計(旭川市)などの共同体だった。
 公開されている提案書によれば、藤本事務所などのチームは「建築ボリュームを最小限にし、各部屋の開口部から風土に根差した樹木や花々の大小の庭、眺望とプライバシーを守る伸びやかな丘が広がる。遠景には大雪山や十勝岳連峰など(中略)町のどこにいても見守ってくれる風景とともに弔う構成とする」デザインを提案した。
 提案書上の画像では、直線的な建物と、道路からの視線を遮る緩やかな丘が向き合っている。一昔前の「焼き場」の陰鬱な印象はない。葬祭場は2022年度の着工、翌年の稼働を予定している。

地球に優しい動物病院
 3つ目は、緑の森どうぶつ病院豊岡病院(豊岡5条5丁目)の建て替え。このプロジェクトで藤本氏はデザイン監修・設計指導の役割を担い、設計と施工は㈱橋本川島コーポレーションが担当する。
 緑の森どうぶつ病院の企画室長、本田リエ氏にとり、初めて知った藤本氏の作品「球泉洞休暇村バンガロー」(2008年)は衝撃的だった。「final wooden house」(最後の木造建築)と名付けられたその建物は350ミリ角の杉材を積み重ねた四角い建物。壁のところどころには角材が切り取られてできた開口部がある。内部にはイスにもベッドにもテーブルにも使える階段状の空間が広がる。開口部からは周囲の森や球磨川の流れが見える。
 「当時、東京では六本木ヒルズやお台場の欲望を満たす建物がもてはやされていました。快適を追求するのではない、『家とは何か』を問いかけるような藤本さんの作品を見たとき、涙が自然に流れました」
 現在は旭川市の旭神(センター病院)、大町、札幌市中央区に拠点を展開する緑の森どうぶつ病院だが、出発点となったのは1997年、他の獣医師からの「富沢獣医科病院」の事業継承だった。その後、「緑の森どうぶつ病院」に名称を変更。2003年に旭神病院がオープンしてから、豊岡の拠点は「豊岡病院」として診療を継続してきた。
 しかし、建物が老朽化したことから改築を決断。本田リエ氏は今年5月に藤本事務所に連絡を取り協力を要請。これまで交渉を重ね、藤本氏の参加が決定した。
 本田氏からは、開放感があり、犬と猫の診察室を別々にする、環境に優しい木造建築とするなどの要望が藤本氏サイドに伝えられた。一連の要望を受けて藤本事務所がまとめた案は独創的。まず目を引くのは道路に面した側に設けられた温室のような空間。木の枠にはガラスがはめ込まれているが、外からは建物内部が、内部からは外が見渡せる。この空間に待合室、受付、犬用診察室、猫用診察室などが設けられる。その奥の壁と屋根で囲まれた部分にはトイレ、X線室、スタッフルームなどがある。
 藤本作品の多くを特徴づけるのが、建物の内と外の関係性。建築物は内と外が明確に区別するのが一般的だが、藤本氏は開口部などを通じ両者を巧みに連続させてきた。「final wooden house」や大雪葬祭場の延長線上に、豊岡病院もあると言えそうだ。
 「私たちはいま、地球や社会にもやさしい動物病院を目指してSDGs(持続可能な開発目標)を推進しています。ペットたちが望む心地よい場所とは、コンクリート製でもビニール製でもないはず。新しい豊岡病院は、『どうぶつがどうぶつらしくある場所』を目指します」(本田リエ氏)
 新しい豊岡病院は現在の建物の解体後に着工。来年2月から3月にかけて完工する見通し(工事中も隣の建物で診療を継続する)。今後、詳細を詰めなければならない部分も残されており、設計変更の可能性もある。

丹下健三も担った重責
 今年7月、藤本氏は2025年大阪・関西万博の「会場デザインプロデューサー」に就任した。SNSを通じて「1970年大阪万博で丹下健三さんが務めた重責。人々の記憶に残るような新しい万博の風景を作り上げたいと思います」と抱負を語る。その藤本氏がほぼ同時並行で参加する3つのプロジェクトに、世界も注目している。

表紙2011
この記事は月刊北海道経済2021年11月号に掲載されています。