旧第一中が道産ブランド発信拠点に

 東旭川米原の旭川第一中学校の跡地を購入した京都グレインシステム(本社・京都市 田宮尚一社長)が今年4月、食品加工工場を稼働させた。体育館や校舎を大いに活用した工場には、米や大豆、ハトムギなど北海道で収穫された穀物が次々と運び込まれ、焙煎や蒸し乾燥、微粉砕、パフ化など様々な熱処理加工が行われている。国内にとどまらず、米国や中国、タイなど東南アジアの飲料・食品メーカーとも実績がある同社では、幅広いネットワークを活かし、北海道の食材を旭川から世界に発信していく計画だ。

9校舎が未定
 少子化が進む中、旭川では過去50年間で27もの小中高等学校が統廃合などで廃校となった。校舎が解体されて更地になっているものもあれば、地域の公民館の分館として使われているもの、社会福祉法人など民間に無償で貸し付けられて就労継続支援の事業所として活用されているものもある。その一方で、再活用のめどがつかずに放置されたものもあるのが実情だ。
 旭川市教育委員会によると、現在、活用のめどが立っていない学校は(カッコ内は廃校年)、神居古潭小・中学校(2007年)、千代ヶ岡中(08年)、雨紛中(09年)、北都商業高校(11年)、北都中(15年)、千代ヶ岡小(19年)、旭川第二小学校(20年)、旭川第二中学校(20年)の9校舎となっている。
 学校教育部教育政策課によると、利用者募集に関して毎年20件以上の問い合わせがあるものの、市の「校舎、体育館及び土地利用については一括売り払い、貸付を原則とし、3年以上事業を実施できる企業」という条件に見合うケースは少ないという。「施設の一部だけ活用を希望するケースや、予算面で折り合いがつかないこともある」と担当者は説明する。

モデルケース
 全国の自治体では、空き校舎を植物園や美術館として転換するなどユニークな手法が話題となっており、旭川でも廃校舎の有効活用は市が抱える課題の一つだ。
 市が空き校舎再活用のモデルケースとして期待するのが、旭川第一中学校跡地に誕生した食品加工工場。飲料や食品メーカー向けに、道内で収穫したハトムギや大豆、大麦、米など様々な穀物を飲料原料や食品原料へと加工するという、道内では珍しい中間加工の工場だ。
 運営するのは、飲料や食料などの素材を生産してメーカーに販売する「京都グレインシステム」(田宮尚一社長)。18年12月に旭川市と売買契約を締結し、改修工事を終わらせて、今年4月に稼働した。
 同社の創業は1991年。当初は山間で栽培した原料を使い、玄米や大麦を焙煎し、家庭で消費される玄米茶や麦茶の原料に加工するのが事業の柱だった。
 コンビニの普及とともに、ペットボトル入りのお茶の需要が高まることを予測した田宮社長は、茶葉の販売から、飲料メーカー向けに玄米茶や麦茶、ほうじ茶などの原料を提供するビジネスに大きくシフトすることを決断。米や麦、大豆などの穀物素材に焙煎や乾燥、微粉砕、パフ化などの熱処理加工を行い、飲料メーカーに提供を始めた。
 2000年代に入ると、きな粉や発芽玄米、雑穀パフなどを食品業界に提供し、さらに健康食品や漢方・医薬品メーカーとも取引を開始するなど事業を拡大。現在は、米加工品で200種類、大麦加工品は100種類以上を受注生産している。
 海外進出も積極的だ。海外事業部を開設し、中国に合弁会社や協力会社を持ち、中国や東南アジアにおけるネットワークも構築。烏龍茶やジャスミン茶などの中国茶の輸入だけではなく、その販路を活かして原料供給も積極的に行っている。

北海道ブランド発信
 旭川工場は、奈良、石川に続く国内3番目の食品加工施設。同社ではこれまで、北海道産の米を玄米茶の焙煎米へ加工したり、北海道大豆をきな粉に加工するなど多くの北海道産原料を扱ってきた。また、国内外で北海道ブランドの高い人気が続く中、原料供給の拠点として北海道での工場開設を検討。穀倉地帯でありながら交通インフラが整備され、また長年にわたる取り引きの実績がある食品メーカーが旭川に本社を構えていたことから、旭川を中心に上川エリアでの物件を探していた。
 田宮社長が着目したのが、市が18年6月に売却公募を始めた第一中学校跡地。敷地面積が1万3平方㍍、2階建て鉄筋コンクリートの建物は田園地帯の中に建てられ、豊かな自然の中に工場を開設してきた同社にとって、あらたな北の拠点として条件をクリアしたようで、取得のための手続きを進めた。同年8月29日に選定が行われ、12月に正式契約に至った。
 当初は20年4月の稼働を目指して、電気や水道などの整備をはじめ教室の内装などの改修工事に着手。しかし、新型コロナの感染が拡大したことで開設の時期をずらし、十分な準備期間を経て今年4月のスタートとなった。

食品加工工場に生まれ変わった旧第一中

 中学校の校舎がどのように食品加工の工場として活用されているのだろうか。見学をさせてもらうことにした。
 工場を案内してくれたのは田宮尚典専務。取材した日は外気温が30度という真夏日だったが、工場内は冷房設備はないものの、室温24度、湿度60%に保たれて快適だ。
 最初に案内されたのが体育館を改装した大型倉庫。18年のペーパン川の決壊で床下まで浸水したことから、木造の床をはがしてコンクリートに改装。穀物をスムーズに運び込むことができるように搬入口も新たに設置されている。
 倉庫の中には、JAたいせつが昨年度に収穫したハトムギ30トンを保管。さらに、脱皮機や集塵機、粉砕機、粉粒体を搬送する空気搬送機など、様々な機械が所狭しと並んでいる。試作中の機械も多く、床の上に部品が並んでいるものもある。
 田宮専務によると、別の穀物の加工のために使用していた機械をハトムギの加工用に転換するために試作をしている段階で、完成した機械は、空き教室に移動し、順次稼働をさせていくそうだ。
 「焙煎室」を見せてもらった。もともとは「美術・技術室」だったスペースで、今は焙煎機や乾燥機、蒸し器が設置されている。コーヒー豆を洗う洗浄機も設置されており、中国の消費者へ付加価値をアピールするため、大雪山の伏流水を使用してコーヒー豆を洗浄するそうだ。
 「理科室」を改装した「選別室」も案内してもらった。同社では工場稼働に伴い5名を現地採用しており、そのうち2名のスタッフが作業を行っていた。ハトムギは黒い皮に覆われており、原料として加工する前に選別作業が必要となる。
 選別室には「色彩選別機」と「もみすり機」という2台の機械が設置されていた。最初に「色彩選別機」にハトムギを投入し、白い粒子と黒い粒子に選別する。この段階では白い粒子の中に異物が混じることもあり、女性スタッフが手作業で取り除いている。
 しっかりと選別されたハトムギを男性スタッフが籾摺り用の機械に投入すると、研磨されて白くなったハトムギと、ヌカに選り分けられた。同社では4年前からJAたいせつや地元の食品メーカーと連携し、寒冷地では難しいと言われてきたハトムギの栽培に取り組んできた。昨年は30トンが収穫でき、今後の安定供給が見込めることから、旭川工場のメイン事業の一つとして取り組み、飲料や食品、化粧品メーカーに提案していく考えだという。
 「視聴覚室」を改装した商談室には、麦をはじめハトムギ、ビーツ、小豆など北海道の作物を加工したサンプルが用意されていた。工場開設以来、北海道産の原材料に関心を持つメーカーをはじめ、道内で穀物を手がける生産者からも問い合わせが相次いでいる。「農作物はその年の気候などによってタンパク質や水分値などが異なりますが、高い制御能力で均一で高品質な商品を提供できることが我々の強みです」(田宮専務)

小ロットも対応
 旭川工場では、北海道で生産された穀物を熱加工処理し、飲料や食品メーカー、さらには健康食品や化粧品メーカーにも商品を提供する事業を行っているが、加工品の開発に関心を抱く生産者もビジネスの対象としている。新規に参入する場合にも負担がかからないように100キログラムという小口の受注にも対応し、小ロット用の機械も揃える。
 また、食品ロス削減を目指す取り組みにも積極的だ。商談室のサンプルのひとつに、煮汁をとった後の小豆を乾燥させたものが並んでいる。本州のメーカーから煮汁をとった後のバイプロダクト(副産物)の有効活用について相談されて開発に取り組んだもので、現在は焙煎やパウダー状に粉砕し、飲料メーカーに提案しているという。
 さらに、コロナ禍で原材料の過剰在庫を抱える生産者や法人にも対応する考え。上の写真で田宮専務が手にしているのは中国・上海のコンビニエンスストアで販売されている麦茶。こちらは、コロナの影響で在庫過多になった道産二条大麦を麦茶加工し、上海へ輸出。現地で評判となり、今年は40トンの原料を販売する予定だ。
 「地元の生産者や企業が在庫として抱えている素材を加工して海外市場に持っていきます。北海道の原材料は日本だけではなく、海外でも高い人気を集めています。コロナの影響で外国人観光客が大幅に減少しました。インバウンドの購買力に期待はできず、売り方を変えていかなくてはなりません。北海道ブランドを海外市場に提案することで国内市場が活性化すると期待しています」と田宮専務は話す。
 元の教室の用途をいかして改修し、旭川第一中学校の面影を強く残している京都グレインシステムの旭川工場。北海道ブランドがここから国内はもちろん世界市場に発信されることで、地域経済が活性化されていくことを期待したい。

表紙2106
この記事は月刊北海道経済2021年08月号に掲載されています。
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