ファッションビル「オクノ」の行方

「9月閉館」との情報が走り回ったファッションビル「オクノ」(旭川市3条7丁目、石原嘉孝社長)。全32のテナントのうち3分の2は撤退するものの、婦人服や飲食店など10店が3フロアに集約され当面の営業継続が決まった。数年後に閉館・解体され複合商業施設に生まれ変わる構想があるが、ビル解体費は6億円にのぼる見込みで、2条買物公園の「マルカツ」同様に先行きは不透明だ。

ファッション発信
 今年4月中旬、「マルカツが今秋10月で閉店する」との情報がテナント関係者から各方面へ流れた。所有する遠藤管財(札幌)の遠藤大介代表は、本誌などマスコミに対し「老朽化で水漏れのトラブルが発生し、(数年先と考えていた)閉店を前倒しすることとした。閉店時期は未定だ」と説明した。
 「時期は未定」とのことだが、 年内には閉じ、その後解体されるものと思われる。
 買物公園は90年代以降衰退が顕著で、2009年の丸井今井旭川店閉店に続き、12年には旭川エスタ、14年にはエクス(旧丸井マルサ)と、大型商業施設が閉館し、16年には西武も撤退し旭川店を閉じた。そうした荒波の中でもマルカツは、経営母体は変わりながらも、前身の松村呉服店・丸勝百貨店からほぼ100年続いてきた。それだけに、「旭川発祥の百貨店も無くなるのか」と残念に感じる市民が多いのだが、マルカツ閉店報道から1ヵ月しかたたない5月中旬、今度は「オクノが9月で閉店する」とのショッキングな情報がオクノのテナント関係者から飛び出した。
 「そうごデパート旭川店」として1973年に開業し、85年に現商号に変更したオクノは地上8階地下2階建て。婦人服の人気テナントや紳士服のオーダーメード専門店などがそろい、80年代後半から90年代はファッション文化の発信地として人気を集めた。またオクノ前は旭川でナンバー1の〝待ち合わせスポット〟でもあった。
 所有・運営会社の㈱オクノの90年代前半の売上高は約45億円で推移していた。

コロナ追い打ち
 2000年に入ってから集客力、売上高は下降線をたどるが、11年の丸井、16年の西武閉店で一部有力テナントがオクノに移ったこともあって〝復活への兆し〟も見られた。しかし15年の「イオンモール旭川駅前」開業によるダメージは大きかった。イオン開業に際し石原代表は本誌インタビューにこたえ、巨大な相手イオンをライオンに例えて「コロシアムの中で(オクノが)独りライオンと戦うようなもの」と話している。
 企業信用調査機関によると、ここ数年オクノはテナント入居率の低下により不動産賃料が減少し、さらに新型コロナウイルス感染拡大がこれに追い打ちをかけた。「2度にわたる緊急事態宣言発令で休館を余儀なくされ、テナント撤退も続いた。売上高は90年代のピークから大幅に落ち込んでいる」(信用調査会社)。
 オクノの石原代表も「コロナ被害は甚大」とし、昨年21年の売上高は「ピーク時の2割弱にあたる約7億8000万円」としている。
 マルカツに先立ち、今年9月でオクノは閉館してしまうのか? 閉館した場合跡地の再開発を考えているのか? 石原代表にいくつか疑問をぶつけてみた。
 「〝閉館〟という情報だけ先行し、9月でオクノはなくなると受け止めている市民も多いようだが、10月1日以降も営業は続ける。現在32あるテナントのうち、約3分の2が9月で撤退するが、残る約10のテナントで〝縮小営業〟となる。北海道新聞に急きょ案内広告(前ページ掲載)を出したように、1階に飲食店とアパレル、5階に矯正歯科など、6階に旭川カムイミンタラDMOなどが残り、3フロアに凝縮しての営業となる」と、全館閉館ではないことを強調する。
 ただ、個別の店舗との交渉は現在進行中のようで、どの店舗が残りどこが撤退するかの詳細は5月末の段階では決まっていない。

先進性失われた
 3フロアという変則的な営業を決断した経緯、また将来的なオクノ運営については次のように語ってくれた。
 石原 コロナがやはりこたえた。街に人はこない。商品は売れず、テナントの撤退が続いた。
 これはオクノだけの問題ではなく、日本中のファッション、アパレル系が大打撃を受けガタガタになってしまった。例えば大手のワールドだが、50ほどのブランドを扱っていたのが半分になり、人員も同じように半減した。新規に出店するどころか逆にテナントとして入っていた店の退店の連続で、引くことが仕事みたいになってしまった。
 この先も、ベーシックな価格帯のユニクロなどは生き残るのだろうが、中価格帯以上は、北海道なら札幌だけでいい、東北ならば仙台だけ、実店舗はそこだけであとはネットで購入してくれという考えに変わった。地方都市でファッションをやることが難しくなってきてしまった。
 前身のそうごデパートは、日本初のファッションビルだったが、ファッションが持っていた時代の先進性、時代を変革していく力がなくなったんだと思う。今それに近いのはSNSではないだろうか。一人ひとりが情報を発信して時代を動かしている。オクノもいろんなことを仕掛けてきたが、僕から発信することがなくなった。

補助金視野に…
 石原 建物自体の問題もある。
 築49年たって、耐震は不合格だ。エレベーターとエスカレータも老朽化し、エレベーターはアナログからデジタルに変えたが2基で数千万円の工事費がかかった。エスカレーターは昔のまま、ガタガタいっているがどうにか調整しながら使用している。なおすとすればやはり数千万円の資金が必要になる。
 電源設備も耐用年数が限界となっており、業者からいつパンクしてもおかしくないと忠告されているし、また配管設備も問題を抱え水漏れ事故も実際に発生している。そうした建物の老朽化で、メンテ費用がかかり、その捻出に追いまくられてきたというのがここ数年の実情だ。
 コロナと老朽化の下で、何か新しい答えを出さなければならないと思案してきた。
 新しい街の機能を持ったビルへの建て替えはできないかと、都市再開発プランで実績のある市内の設計事務所にも相談した。国の補助金を活用するなどして複合商業施設を建設するという〝出口〟も見えた感じがする。
 地権者は私が代表を務めるオクノも含め6人いるが、実際に再開発計画が動き出すことがあれば〝石原さんに任せる〟との了承を得ている。ただ、解体費が6億円に達する。その捻出が可能なものかどうか。
 早ければ3年後の25年に全館閉館し解体、再開発に取り組みたいと希望しているが、具体的なことは何も決まっていない。国からの補助金も視野に入れ、再開発の方法をこれから探っていこうという段階だ。

実現には曲折
 「老舗大型店がなくなれば地域は一段と衰退する。官民共同で思い切った再開発をして中心部に人が集まる施設をつくってほしい」─そんな思いを抱く市民は多い。オクノ跡地の大型商業施設実現に期待したいものだ。
 ただ、石原氏も指摘しているように、解体費6億円は大きな壁だ。先に閉館が決まった2条買物公園のマルカツは、オーナーの遠藤管財・遠藤大介氏が「マルカツの名を残した25階超の複合商業施設建設」の壮大なプランを語っているが、やはり解体費で数億円、25階超ビル建設工事費には100億円近い巨費が必要。2条買物公園、3条買物公園の再開発始動にはかなりの時間が必要で、また曲折がありそうだ。

表紙2208
この記事は月刊北海道経済2022年08月号に掲載されています。
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