死亡者なぜか急増 新型コロナが間接的に影響?

 471人─今年5月に死亡した旭川市民の数は、インフルエンザが流行する冬以外の時期としては異例の人数だ。旭川市の発表によれば、同じ月の新型コロナウイルスによる死者数は3人しかいなかった。他の感染症や事故などは報告されておらず、前後の月との100人以上の差は、専門家が認識していない間接的なコロナの影響によってひきおこされた可能性がある。

毎年の死亡数は出生数の2.5倍
 高齢化社会は多死社会でもある。旭川市内の死亡数は2013(平成15)年には3894人だったが、増加を続けており、2021年には4736人が亡くなった。同年の出生数は1841人。生まれる人の実に2.5倍の人が死亡するのだから、人口が減るのも無理はない。さらなる高齢化社会の到来で、年間の死亡数が5000人の大台に達する時代がすぐそこに来ている。
 今となっては遠い過去の話に聞こえるが、かつては出生数のほうが死亡数よりも多かった。旭川で2本の折れ線グラフが交差したのは2003年。それからも出生数を増やすための有効な政策は打ち出されず、差は広がるばかりだ。
 こうした市内の人口を巡る動きに、注目すべき現象が起きたのは今年5月のこと。月間死亡数が471人に達したのだ。4月の367人、6月の365人とは100人以上の開きがある。
 月別の死亡数は、12月や1月に増える傾向にある。例年の冬ならインフルエンザが流行したり、心臓疾患が増えたりするためだ。他の月はほぼ同じ。月別で集計すれば、例年の5月の平均死亡数は他の月と比べて多いわけではない。が、今年だけは5月の死亡数がなぜか471人に達した。前の月の367人、次の月の365人も決して少ないわけではないが、5月の突出ぶりが目立つ。
 ちなみに、月間死亡数がさらに多かったのは、複数の病院で大規模なクラスターが発生した2020年12月の483人、インフルエンザの感染例が比較的多かった2020年1月の500人。今年5月はこれらの月に匹敵するレベルだったことになる。

「コロナ死者」拡大解釈のはず
 すぐに思い浮かぶ原因は新型コロナウイルスの感染拡大だ。旭川市は毎日、新たな感染者数やクラスター発生数などをウェブページで発表しているが、それによれば5月1日時点の累計死者数は141人、5月30日時点では144人で、今年5月の1ヵ月間で3人しか増えていないから、市が認識している新型コロナウイルスに伴う死者数だけでは100人以上の開きを到底説明できない。一方で、他の病気による死亡、病気以外の死亡(自殺や事故など)が今年5月にとくに多かったとのデータもない。
 新型コロナの死者数については、以前は定義が明確でなく、過少、または過多の数字が独り歩きしているのではないかとの指摘があった。このため厚生労働省は2020年6月の通達で、死因が老衰や他の病気だったとしても、事前の検査でコロナ感染が判明していれば新型コロナの死者としてカウントするよう求めた。しかし、この基準に従えば重い病気を患っている人も、たまたま新型コロナに感染した直後に死亡すると新型コロナの死者としてカウントされることになり、統計が現実からかい離してしまうとの声もある。
 これとは逆に、新型コロナ感染の間接的な影響を受けて死亡する人が一定数いて、その影響が行政に認識されていない可能性が残っている。
 間接的な要因の一例に挙げられるのが、自殺者の増加。パンデミックの影響を受けているのは明らかだが、発病はもちろん感染もしていないから、新型コロナの死者に算入されないものの、深刻な社会問題であることは明らか。2020年4月から翌21年12月にかけて日本全国で自殺した人の超過死亡は男女合わせて3033人に達し、30~39歳の女性では増加率が33%に達したとの推定を、旭川医科大学の吉岡英治准教授や北海道大学の研究者らのグループが論文で明らかにしている。
 このほか新型コロナへの感染を恐れて必要な受診を控えたり、医療機関が手術を延期したことも、他の病気による死亡を増やすことにつながったとみられる。全国的には、がんの検査が遅れ、進行した状態で見つかるケースが増えたとの報道もあった。
 その一方で、新型コロナの流行が始まってから手洗いが徹底されるようになった結果、インフルエンザに感染・死亡する人が減るなど、新型コロナウイルスのパンデミックに他の疾病の死者を減らす作用があったことも確かだ。

コロナの超過死亡旭川でも拡大?
 新型コロナを含め、大規模な感染症の流行(パンデミック)はすべての感染者、患者、死者を把握するのが難しい。そこで用いられるのが「超過死亡」という考え方。過去のデータや人口統計をもとに予測される死者の数から実際の死者の数を引いた数、つまり「パンデミックさえ起らなければ死ななかったはずの人」の数だ。世界保健機関では2020~21年の新型コロナによる超過死亡が1490万人に達したとの推計を今年5月に発表している。
 超過死亡の集計には複雑な計算方法が用いられるため、前述した今年5月の死亡数と、平均的な月の差がそのまま超過死亡となるわけではないが、今後のコロナ対策のためにも突然の死亡者増加の原因が何なのか、今年8月末時点で旭川市が把握している「159人」以外にも新型コロナの間接的な影響のために亡くなった市民がどれだけいるのかを把握する必要がある。
 なお、今年5月に471人に達した死者数は、6月が365人、7月が372人と平均的な水準で推移。しかし8月は446人とやや大幅な増加を示した。今後の人口動態に注目が集まる。

この記事は2022年11月号に掲載されています
この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!