〝コロナ給付金不正〟報道に激怒 東国幹衆院議員「すべて話す」

 東国幹衆議院議員の名前が、地元の有権者にとっては喜ばしくないかたちで「全国的」になった。週刊新潮9月1日号の記事によれば、東氏が所有する会社の元社長が新型コロナウイルス関連の家賃支援給付金をだまし取った疑いで道警が捜査を行っており、関与した人物を含め事情聴取を受けているというのだ。本誌の取材に応じた東氏は、「経営は任せきりにしており、不正に私個人はまったく関与していない」と強調。疑惑の中心にいる元社長の行為の悪質性を考えれば、東氏とその会社はまんまと利用されたようだが、東氏の後援者からは「襟を正すように」といった厳しい注文も出ている。

「当選のイメージ湧かなかった」
 焦点となっている会社は国土建設㈱(札幌市白石区北郷5条3丁目、資本金2600万円、田口貴光社長)。1966年に前オーナーが個人事業として創業。72年に㈱東山工務店として法人化、91年に㈱東山伸友建設に社名を変更した。東氏はまだ道議を務めていた2020年8月下旬から今年5月にかけて前オーナーからこの企業の株式を段階的に取得。現在はすべての株式を東氏が持つ。
 東氏が後援会で衆院選への出馬を表明したのは2020年8月2日の話。なぜこの時期に建設会社のオーナーになろうとしたのか。東氏が経緯を説明する。
 「現職の佐々木隆博氏が相手でも、一部で国政挑戦が予測されていた西川将人旭川市長(当時)が相手でも、正直、当選するイメージが湧かなかった。後任道議の補選に出馬する人も選考され、衆院選に敗れたら道議会に戻るという選択肢もなかった。衆院選を華々しく戦って敗れ、政界を去るのもいいかという気持ちになっていたが、そのためには生活を支えていく術が必要だった」
 東氏は同年の1月、前オーナーから「転売先を探してくれないか」との相談を受けていた。いくつか打診してみたが売却話は具体化しなかった。東氏は政界引退の可能性に備えて建設会社を実質的に取得するとともに「国土建設」に社名を変更した。
 が、衆院選を戦うまで、社長に就任するわけにはいかない。このため人づてに紹介された人物を新社長に据えた。しかし、経営手法をめぐる見解の相違から、この社長は昨年1月末に退任した。後任社長に東氏が据えたのは、知人から紹介されたK氏だった。K氏は不動産会社を営む資産家であり、「金銭的に余裕があればおかしなことはしないだろう」と、東氏は考えた。

資料を見ながら事件について説明する東氏

虚偽の土地賃貸借契約をもとに
 ところが、そのK氏は「おかしなこと」に就任直後から手を染めることになる。週刊新潮の報道によれば、国土建設は、K氏が仁木町に所有する1万4000坪の土地の一部を借りたことにして、コロナ関連の家賃支援給付金を申請し、昨年2月2日に実際に数百万円の給付を受けた。しかし、東氏によればこの土地を国土建設が借りていた事実はない。書類は虚偽で、K社長の下で国土建設はいったんは不正な給付金を受給をしてしまったことになる。
 就任から2ヵ月余り経った3月31日、報酬や経営方針をめぐる東氏との対立からK氏は国土建設を去った。代表権はK氏から東氏(代表取締役会長)に移った。相次ぐ社長の辞任で「外部からの紹介ではだめだ」と痛感した東氏は、自らの旭川市議会議員選挙を手伝ってくれたときからの友人である田口貴光氏を富良野の建設会社から招いて新社長に据えた(今年7月31日付けで東氏は代表権を返上、田口氏に代表権が移っている)。
 今年6月、その田口氏は融資の相談をするために北海信用金庫北都支店を訪れたが、国土建設内部の金の流れに注目していた支店長から意外な話を聞いた。「家賃支援給付金の受給に不審な点がある」。報告を受けて初めて給付金について知った東氏はすぐに返還するよう指示を出した。窓口の中小企業庁に返還を申し出たが、事務手続きに時間がかかり、還付が完結したのは今年8月10日ごろだった。
 週刊新潮の報道の通り、K氏や申請に必要な書類の偽造に関わった人物数人が道警の事情聴取を受けている。これらの数人については逮捕が近いと、本誌が取材した事情通も語る。一方、東氏や国土建設は事情聴取も家宅捜索も受けていない。
 K氏の行為の悪質性を示すのが、無関係な印鑑の使用だ。家賃支援給付を受けるには、過去に結んだ賃貸借契約書が必要なのだが、賃貸人はK氏の企業だから印鑑を用意できても、賃借人の印鑑は社名を変更した関係で確保できなかった。このため賃貸借契約書の賃借人の欄には、「札幌小包逓送」なる全く別の企業の印鑑が押されていた。
 週刊新潮の記事には▽貸主の男性のところに東氏が来て会社の代表印を押した▽「給付金の600万円が入ってきたら半分は選挙に使うつもり」などと東氏が語った─などの記載があるが、前述の通り押されていたのは別の会社の印鑑であり、東氏が会社印を押した事実はない。こうした状況は週刊新潮の記者に東氏から伝えられたが、記事では触れられていない。東氏は「貸主の男性を訪問した事実もない」と強調する。

給付翌日に300万引き出し
 家賃補助給付金が振り込まれたのは昨年2月2日。翌3日、K氏は明確な理由なく300万円を会社口座から引き出している。今年8月、国土建設はK氏に対して、横領行為の疑いがあり、刑事上、民事上の責任を追求すると警告する通知書を送付したが、K氏は入院している模様で反応はない。
 東氏は「中学校や高速道路の作業員詰め所の受注などで国土建設の経営は好調。利益が出ており、不正を働く理由はまったくなかった」とも強調する。そもそも、東氏が議員活動の傍ら企業経営にも乗り出さなければこうした報道に名前が出ることもなかったはずだが、「議員の仕事は将来どうなるかわからない。議員年金も廃止されてしまった」として、今後も国土建設を所有しつづける方針を示す。
 所属する派閥の長でもある茂木敏光自民党幹事長への報告と、東国幹後援会への報告はいずれも終わっているという。後援会からは「不正に関わっていないとわかり安心した」との声が上がる一方で、「襟を正すように」「隙を作らないように」といった厳しい注文もついた。
 コロナをめぐる給付金については、全国で摘発が相次いでいる。昨年12月には給付金を詐取した経産省の元キャリア官僚2人に実刑判決と執行猶予付き有罪判決が言い渡され、今年8月末には大阪府寝屋川市議が逮捕された。コロナの打撃を受けて困窮する個人や事業者を迅速に救済することを目指した給付金制度の盲点に乗じた悪質な犯罪だ。K氏らもこうした盲点を突こうとしたのだろうか。
 国会議員のバッジには不正な利益を追求するために「利用価値」があると考える人がいるのも事実。衆院道6区の代表になった今、東氏にはこれまで以上に慎重な判断と行動が求められているのではないか。

この記事は月刊北海道経済2022年10月号に掲載されています
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