サツマイモプロジェクトに追い風

 病害で全国的な品薄を受けてJAあさひかわが新たな試みとして挑む「さつまいもブランド化プロジェクト」。温暖化にも伴い新たな産地としての期待が高まっているが、2023年の記録的猛暑で生育に必要な積算温度を優に超え、品質も甘みがのって良好だ。思わぬ追い風となり、プロジェクトに参加する生産者も作付面積も倍増している。

サツマイモ人気後押し、新たな産地として期待
 その病害とは「サツマイモ基腐れ病」のことだ。株の立ち枯れやイモ自体が腐敗する病害。感染は九州の鹿児島で発生し、勢いを増して関東地方にまで波及するほど広がりをみせた。サツマイモの主産地は鹿児島・茨城・千葉3県で全体の約7割を占めるが、国内で2018年に初めて確認されると収穫量が減少し全国的な品薄に見舞われた。さらに、昨今の気温上昇に伴いサツマイモの栽培が北海道でも可能になり、中でも新たな産地として需要の拡大が見込め伸びしろが期待されるのが、全道一の米の収量を誇るJAあさひかわだった。
 そこでJAあさひかわがサツマイモの供給先から受けた要望が「北海道でも原料を作ってくれないか」との切実な思い。特に芋焼酎の主力銘柄が十分な量の原料を確保できず、販売の一部休止に陥っていたことが背景にあった。JAあさひかわとしても状況を察知し、「収まる病害ではない」と判断。年間積算温度がサツマイモの生育基準の2400度を旭川市永山地区でも達することから(6~10月のデータ)、「どこまでやれるか分からないけれど、みんなでやってみようか」と営農企画部が一念発起した。
 2021年から試験的に栽培。22年にはJAが管轄する旭川市内9戸の生産者が人気サツマイモ品種「紅はるか」を栽培し反収約1440キロの出荷実績を上げた。別の品種「シルクスィート」は3戸で反収約1746キロの実績。良質な食味が特徴の「ゆきこまち」は篤農家1戸が栽培し、約50キロの出荷にこぎ着けた。いずれもサツマイモの栽培に着手したのは水稲農家がほとんどだ。
 そして23年になると、「さつまいもブランド化プロジェクト」と称して本格的に取り組むことになった。農業振興の意味でも付加価値につながるとしてJAあさひかわは将来的に作付面積を30ヘクタールにまで拡大し、販売額1億円を目指す。反収目標は2500キロ。JAあさひかわとしてもメインの事業に位置づけ、第四次ブームと呼ばれるサツマイモ人気を新たな産地としてどこまで押し上げることができるか、成り行きに注目が集まる。

今後の課題は苗の供給
 そんな中、経済産業省の北海道経済産業局から旭川市の「あさひかわ産さつまいも」が地域団体商標取得を視野に、ブランドの確立に向けた支援を受けることになった。JAあさひかわのサツマイモ生産者は23年には、前年の9戸から20戸に増え新たな顔ぶれとして野菜農家も。作付面積も133アールから314・5アールに倍増した。作付の内訳は、ねっとりした食感で一番人気の紅はるか224・5アール(前年は121アール)、シルクスィート90アール(前年には12アール)。ゆきこまちは苗の増殖のため作付されなかったが、記録的な猛暑が生産現場では追い風ともなった。
 全道的にもサツマイモの生産が増え、生産量は前年の620トンを大きく上回り1000トンを超える見通しだ。道外のスーパー、シンガポールやタイ、香港等への輸出といったホクレンが販路を積極的に開拓し増産を生産者に呼びかけたことが奏功。苫小牧にサツマイモの洗浄や選別を行う大規模集出荷施設を道内で初めて整備したことも明るい材料と言えそうだ。
 旭川では菓子製造販売の壺屋総本店が秋の定番商品「栗金時」の主原料を2023年から旭川産の紅はるかに切り替えた。栗金時は栗とサツマイモで作ったあんをシナモン風味の生地で焼き上げる香ばしい和菓子。十分に寝かせて糖度が13度もある紅はるかならではの豊かな味わいが楽しめる。JA永山女性部は天ぷらやソフトクリーム、サツマイモを粉末加工し商品開発し介護食や離乳食を模索する。干し芋を独自開発する個人商店などの試みもみられる。
 しかし、何といっても「今後の課題は苗の供給。農業改良普及センターと連携して増殖技術を向上させ生産体制を確立していきたい」とJAあさひかわ営農企画部。病害の対策を踏まえ、畝を高くすると同時に保温資材を張る農業機械も導入した。近く試食会と併せフェアや即売企画も開く予定だ。おさつスイーツたけなわの冬。栄養価が高い健康素材から、どんな旭川産スイーツが生まれるのか。その日は昼食をとらずに行くしかない。

この記事は月刊北海道経済2024年01月号に掲載されています。
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