マニアが開設目指す「旭川自然史博物館」

 旭川市神楽岡。プラタナス並木に面した1軒の民家に「旭川自然史博物館」の文字が掲げられている。「館長」は星野彰さん(68)。「3年以上の時間をかけて準備を整え、ここで昆虫標本などの展示を行いたい」と語る。博物館構想の実現は小学生のころから興じてきた昆虫採集の集大成とも言える一大事業だ。

私財投じる
 「旭川自然史博物館」はまだ一般開放されていないが、記者が取材に訪れた日、テーブルの上には虫ピンで固定された昆虫をきれいに並べたケースがずらりと展示されていた。甲虫、チョウ、ガ…。海外産の昆虫は日本のそれとは違う独特の色や模様が特徴的だ。キングサイズのガはヨナグニサン。その名の通り「与那国島産」だ。中南米産のカブトムシは国内のものより一回り大きく、彩りも派手だ。
 博物館といえば公設公営が当たり前。私立の博物館や美術館もあるが、その背後には大企業のオーナーがついているもの。旭川自然史博物館は、星野さんの仲間が支援を申し出てはいるものの、基本的には私財を投じた施設だ。なぜ東京生まれで、現在も東京の多摩地区に自宅がある星野さんは、この神楽岡に博物館を開こうとしているのか。その理由を、星野さんは少年時代に遡って語り始めた。
 「最初の昆虫採集は小学生のころ。(東京西部の)高尾山を訪れたとき、初めてアサギマダラを捕まえました。これが私のチョウ採集の原点です」
 一時期昆虫を追いかけ回していた男の子も、やがては他に興味の対象を見つけるものだが、一部の人は昆虫に熱中し続ける。星野さんはまさにそんなタイプだった。慶応大学では「自然史科学研究会」に所属し、卒業して商社に就職したあとも休みの大半を昆虫、とくにチョウの採集に費やした。「昔は東南アジアなど南方系のチョウが好きだったのですが、銀座の和光で開かれた展示会で日本のチョウを見て、こんなにも美しいものが国内にいるのかと驚きました」
 1980年ごろからは、北海道、とくに網走管内丸瀬布町(現在の遠軽町の一部)に生息するチョウの一種、オオイチモンジに魅せられた。コンピュータ・メーカーに転職したあとも年間10回以上は来道して森に入った。町民の温かい人柄も気に入った。旭川空港がジェット化されてからは旭川を昆虫採集の拠点とした。
 自身のオオイチモンジのコレクションについて星野さんは「価値あるものを多数所有している」と胸を張る。その一部は自ら採集したものだが、珍しいチョウの採集は限られた季節、限られた場所でしかできないことから他に仕事を持っている人にはほぼ不可能であり、コレクターは専門家が捕獲したものを購入することが多い。オオイチモンジは欧州にも分布していることから、星野さんは度々欧州を訪れて、各国のマニアとも交流したり、珍しい標本を手に入れたりしている。

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この続きは月刊北海道経済2017年8月号でお読み下さい。
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