カムイスキーリゾート 簡易水道の約2倍の揚水想定

 本誌が、北海道グローバルによる「カムイスキーリゾートは地下水不足で見直し必至」と伝えたのは本誌10月号。その後、水は十分に確保できたとの反論が、計画の中心人物、三浦豪太氏(プロスキーヤー、故三浦雄一郎氏の子息)からメールで届いた。三浦氏は必要な水の5分の3を斜面を流れる沢から、残りを地下水から確保するというのだが、地下水の1日のくみ上げ量は現在の西神居簡易水道の2倍近く。水道局も「問題ない」との見解だが、十分な調査とは言えず、旭川市が今後、適切な判断を下すかどうかが注目される。

「多忙で連絡できず」
 10月号が書店に並んで数日後、それまで記者が何度か連絡しても無反応だった三浦氏からメールが届いた。その概要は以下の通りだ。
・かなりスキャンダラスなタイトルで正直驚いた。
・8月から現在に至るまで多忙で連絡できなかった。
・北海道水資源区域条例に関しては、土地の取引の際に事前に北海道に届け出を済ませて、それが受理されている。
・北海道グローバルは旭川市都市計画課と共にプロジェクトを進めており、合意に達している。
・昨年北海道グローバルが所得している土地での敷地の一角に水脈が存在する可能性があることを確認した。
・旭川市水道局には時間をかけて試掘した水の水量と水質の報告を行っている。
・試掘作業も試掘会社の合意が遅れていたが、試掘作業が(9月21日)から始まる。翌週に結果がわかる。
・地下水とは別に敷地内に沢水があり、貯水・濾過することで水を確保できる。

 しかし、三浦氏の説明から、リゾート施設がどれだけの水を必要としていて、どれだけの水が確保できたのかわからない。記者は10月20日、「水収支」を三浦氏に問い合わせた。同日のうちに、予想外に詳細な回答が三浦氏から図面付きで返ってきた。その概要は以下の通りだ。
◎確保した水の量
沢水 1日216トン
地下水 1日144トン
合計360トン
◎使用する水の量
100室のホテルで1日80トン、ホテル2棟で合計160トン
1戸建て 1日0.6トン、158棟で94.8トン
合計254トン
 毎日必要な水が254トン、それに対して360トンの水を確保できた。つまり、リゾートの経営に十分な水を確保できたというのが三浦氏の説明だ(本誌が調べたところ、水の必要量は、部屋数や物件数を考えれば常識的な範囲内だった)。なお、ここで言う沢水とは、北海道グローバルが取得した土地で湧き出している水であり、カムイスキーリンクスが使用している沢水とは別だという。

1日に144トン
 水がたっぷりあるなら大いに結構。十分な水を確保して、リゾートが完成し、ニセコや富良野で沸く外国人富裕層のリゾートブームが旭川にも押し寄せる。不動産価格は高騰し、ニセコのように「ラーメン1杯3000円」という夢のような時代が旭川にもやってくるとの「期待」が膨らむ。
 本当にそうだろうか。本誌は、依然として三浦氏の掲げる水収支には不透明な部分が多く、地下水に依存している神居古潭・西丘・豊里地区の住民約100人の生活に影響を及ぼす可能性が高いと考えている。注目すべきは、地下水から1日「144トン」を確保するという数字の規模だ。
 「旭川市の水道・下水道(令和7年度版)」によれば、西神居地区簡易水道は西神居地区の飲料水供給について、公衆衛生の向上及び生活環境の改善を図るため、1996年12月から給水を開始した。給水区域は神居町神居古潭、豊里と西丘の一部で、計画給水人口は500人、計画給水量は1日260トンとなっている。ただ、これは計画上の数字。人口減少で2024年度現在の給水人口は115人となっている。一方で年間取水量は2万9592立方メートルだった。1日平均で81立方メートルとの計算になる(以下では1立方メートルの水=1トンとみなす)。
 これに対して、北海道グローバルは前述の通り、「地下水で1日144トンの水を確保できる」と主張している。1日144トンなら1年365日で5万2560トンとなる。現状の西神居簡易水道の取水量よりもはるかに多い水を、リゾートは同じ「旭川市西神居地区水資源保全地域」の別の井戸からくみ上げようとしているのだ。リゾートが冬のみ稼働して、半年は地下水を必要としないとしても年間2万6000トン以上。数字を並べて西神居簡易水道の水源への影響を懸念するのは記者だけなのだろうか。
 三浦氏は、リゾート側の井戸で試験的な揚水を行い、簡易水道に影響がなかったことを確認したと強調する。旭川市水道局も本誌の電話取材に対し「カムイスキーリゾート側で1日分の水量を試験的にくみ上げた10月17日には影響がなかった」と説明する。リゾートのために大量の水をくみ上げれば、影響があるのではとの本誌の問いに、水道局の担当者は答えた。「水脈が同じであれば、揚水試験でわかるが、影響はなかった」。水脈が違う以上、リゾート側が予定している大量の揚水にも問題はなく、1日の試験でも十分というのが水道局の見解だ。
 注目すべきは、リゾート側の井戸と西神居簡易水道の井戸の距離(離れているほどすぐには影響が出ない)だが、三浦氏は井戸の詳細な位置を明らかにしていない。

1日で「問題なし」
 しかし、揚水試験を行ったのはわずか1日だけ。季節的な変動も考慮に入れて、長期的な調査が必要だったのではないか。水道局はリゾート側の井戸でどれだけの水をくみ上げたのかを現場で確認しておらず、書面で報告が行われたというが、簡易水道への影響が起きた場合の深刻度も考えて、揚水作業に立ち会うべきではなかったのか。
 では、一般論として、地下水の大量のくみ上げが簡易水道に将来、影響を与えた場合、行政にはくみ上げを規制する手段はあるのだろうか。水道局の担当者は言う。「この地域では、一応ある」。担当者の念頭にはこのエリアなど全道各地の水資源保全地域の地下水利用に関して北海道が定めた北海道「水資源の保全に関する条例」があるようだ。
 ところが、この条例は地下水を保全するどころか、まったくの「ザル」だ。条文には「助言」「勧告」「勧告に従わない者は公表」といった言葉が並ぶが、地下水に悪影響を与えるような開発を規制したり中止を命じる権限はない。そもそも、この条例が水資源保全のために必要なエリアでの不動産取引を規制するために定めた制度は、売買3ヵ月前までの道への報告、売主を通じた買主への助言が中心であり、土地売買が成立する前にほぼ「勝負」がついている。いまから条例に基づき、土地開発者に行動を左右する力はない。
 皮肉なことに、この条例が制定された2012年当時は、外国、とくに中国人富裕層による森林の買い集めが社会問題化していた。しかし実際には、売りに出されていたのは開発の困難な、原野商法で利用されたような土地がほとんどだった。そしていま、外国人富裕層が顧客の中心とみられる具体的なプロジェクトが、水資源保全地域の真ん中で推進されているのに、行政が条例の力でブレーキをかけようした形跡はない。
 そもそも、水道局の担当者は「水脈が違うのを揚水試験で確認したので問題はない」との立場を取るが、水資源保全条例が対象エリアを定めているのは、エリアごとの管理が必要なためだ。水脈が違えば影響はないと言い切れるなら、条例も水脈ベースで地下水を保全することが可能なはずだ。
 カムイスキーリンクス付近で土地の開発を目指しているのは、北海道グローバルだけではない。水道局の説明が通るのであれば、他の地主も同様の方法で揚水試験を行ったと通知し、影響がなかったとのお墨付きを得て、大々的な地下水の活用ができることになってしまう。
 地下水については他にもいろいろな法律があるが、いずれも地盤沈下を引き起こす過剰なくみ上げや、地下水の汚染を防止するのが目的で、今回のようなケースは想定していない。温泉については既存泉源と新たな泉源の間の距離について既定した条例があるが、地下水については存在しない。

開発許可出すか
 最大の懸案だった水を確保できたという北海道グローバルの説明が本当だとしても、まだ一つ関門が残っている。それは旭川市都市計画課による、都市計画に基づく開発許可だ。開発許可の法的根拠である都市計画法はその33条で、いくつかの基準を満たしている場合には開発許可をしなければならないと定めており(つまり、基準を満たしていなければ開発許可をしなくて良い)、その中に「主として、自己の居住の用に供する住宅の建築の用に供する目的で行う開発行為以外の開発行為にあっては、水道その他の給水施設が、(中略)当該開発区域について想定される需要に支障を来さないような構造及び能力で適当に配置されるように設計が定められていること」との文言がある。水道・給水施設は開発許可の条件の一つということだ。旭川市が、北海道グローバルの水道・給水施設は十分と判断して開発を許可するかどうかに関心が集まる。
 本誌からの今後のスケジュールの問い合わせに対して、三浦氏は「(今年)12月に開発行為の申請、来年4月に開発行為の許可、5月に土木工事着工」と説明し、以下は未定としながらも「(来年)9月末工事完了、10月住宅一部着工、ホテルなどは未定」と説明する。
 仮に旭川市が開発を許可するとすれば、北海道グローバルが想定する水収支にお墨付きを与えるに等しく、市としても地域住民に対して大きな責任を負うことになるが、どんな判断が下されるのかに注目したい。
 歴史的にこのエリアは地層の関係で地下水がたまりにくい。だからこそ「水資源保護地域」に指定された。既存の簡易水道でも充分ではなく、昨年旭川市が民間業者に委託してボーリング調査を行ったのは、徐々に揚水量が減少していることを受け、将来にわたって安定した給水を続けるのが目的だった。
 地下水の「大口需要家」登場で、将来、簡易水道の水が不足したらどうするのか。リゾートと地域住民のどちらを優先するのか。旭川市の判断は、将来の住民の生活にとり大きな意味をもつ。

水不足なら廃墟
 最後に住民の声を紹介しよう。付近で農業を営む人物は今年4月25日に行われた住民説明会に参加した(本誌は10月号の記事で、住民説明会開催に期待する別の住民の声を紹介したが、この人は開催を知らなかった。三浦氏は、今後も必要に応じて開催すると説明している)。三浦氏の水に関する説明を信頼しているので、水についての不安は感じていないという。むしろ、リゾートの開発がこのエリアの発展に役立つ期待が大きいとのことだった。
 ただ、この人物が一つ付け加えたことがある。「観光地が廃墟化したとのニュースをしばしば目にするが、そうはなってほしくない」
 上川中部でも天人峡、層雲峡で人の姿が消えたホテルの廃墟が無惨な姿をさらし、一般庶民の血税も費やして取り壊されたばかりだ。
 水が十分に使えるリゾートなら、ニセコにはないカムイスキーリンクスのパウダースノーが世界の富裕層を引き寄せ、地域の経済発展の起爆剤になるかもしれない。一方、水が十分にない、もしくは地域住民への水供給を優先しなければならない状況になれば、無人の廃墟が神居山の斜面に連なるおそれがある。高速道路やJRの車窓から、そんな情景は誰も見たくないはずだ。

この記事は月刊北海道経済2025年12月号に掲載されています。
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