税金は国民の義務。見返りが何らなくても果たさなければならないはずなのに、なぜか返礼品という「エサ」が導入され、有力な特産品を持つ自治体と持たない自治体の間で格差が拡大している「ふるさと納税」。政府はこの10月1日から、仲介サイトのポイント付与を禁止するなどの措置を講じた。短期的には多くの自治体が駆け込み需要に喜んでいるが、制度自体にさまざまな問題や不公平性が指摘されており、過度に依存するのは危ない。

約半分が各種費用
最近までテレビやインターネットで頻繁に流されていたふるさと納税の広告。肉、魚介類、果物などの返礼品が食欲そして寄付の意欲をそそるが、自治体が返礼品を調達するにはコストがかかる。こうした広告はネット上の仲介サイトがタレントを起用しつつ流している。仲介サイトにも手数料を払わなければならない。このため、ふるさと納税という制度を運営するのに、多額の費用がかかっている。
たとえば旭川市。2024年度には17万4779件、金額にして37億円の寄付(ふるさと納税の税収)があった。しかし、収入に対して21%が返礼品の調達、6%が返礼品の送付、4%が事務作業にかかった。コストの一切合切を合計すると比率は44%。実質的な税収は56%にとどまった。なお、ふるさと納税の仲介サイトに支払った金額は6億6000万円あまりに達した。
もっとも、旭川市だけが突出しているのではない。ふるさと納税を集めるのに力を入れる自治体は、どこでも似たり寄ったりだ。全国でみれば、同年度の寄付は5107億円。一方で、返礼品の調達、送付、事務作業に合計2394億円かかかっている。実質的な税収は2712億円、比率にして53%にとどまった計算になる。ポータルサイトに支払われたお金は合計720億円に達した。
なぜここまでふるさと納税が流行ったかといえば、返礼品が人気を集めたという面もあるが、最大の理由は所得税控除と住民税基本控除、住民税特例控除が受けられるということ。実際の控除額を計算する方法は複雑で、しかも年収や家族構成によって異なる。ただ、多くの人は「直接的な見返りがない税金を払うより、目に見える返礼品があるふるさと納税のほうがトク」と判断して、後者を選択している(まちづくりの方針や青少年育成などへの協力を求め、返礼品なしのふるさと納税を求める自治体もある)。
一方、全体でみれば控除のために、収入と同規模の所得税や住民税の減収があったと考えられる。結局、多くの自治体が参戦しているのは、自治体間の税金争奪戦だ。
これが個人間、企業間など民間の競争であれば、努力した人がそれに見合う対価を得るのは理解できる。しかしふるさと納税制度が競わせているのは、競争原理とはかけ離れたところにあるはずの税金。しかも、税収のほぼ半数を返礼品の調達や仲介業者への手数料に充てている。人口と税収が減少しているが有力な産品がある自治体が制度を歓迎しているのに対し、税収が安定し、返礼品に適した産品がない自治体(たとえば東京都)は、制度に批判的だ。収入が少ない世帯はふるさと納税のうまみがないということも、この制度への批判につながっている。
返礼品にアマゾン券
ふるさと納税制度が導入されたのは2008年。2006年、当時は第一次安倍政権で総務相を務めていた菅義偉元首相が創設を主導した。以来、さまざまな問題が指摘され、改革が行われてきた。
最大の問題は、ふるさとを応援する制度であるはずなのに、地場産業の支援にまったくつながらない商品が返礼品に使用されていたことだ。その典型が大阪府泉佐野市。アマゾンの商品券や高額な牛肉などを返礼品に指定することで、多額の寄付を集めた。政府は制度変更で過激な方法を封じようとしたが、泉佐野市は政府を提訴して勝訴。2024年も181億円の寄付を集めた。これは同市の市税収入に匹敵する額だ。しかし、現在では返礼品を寄付額30%以下の地場産品とすること、熟成肉と精米は自治体のある都道府県産に限定するなどのルールが定められている。
そしてこの10月1日から導入されたのが、ふるさと納税仲介サイトからのポイント付与の禁止。従来の制度では、ふるさと納税での寄付額に見合ったポイントがサイトから利用者に付与されていた。一部の仲介サイトはアマゾンギフトカード、PontaやPayPayのポイントに変換して買物に利用することが可能だった。利用者からみれば納税して返礼品がもらえるだけでなく、さらに買物もお得にできる魅力的なしくみだが、ポイント付与に伴い発生するコストは、仲介サイトが自治体から徴収する手数料に上乗せされている。政府はこれがふるさと納税のコストがかさむ一因になっているとして禁止、サイト業者からは異論も出たが、結局予定通りに禁止された。
この禁止がふるさと納税制度のブレーキになったかといえば、短期的にはむしろ逆。後述の通り、旭川市を含む「1市8町」の中では積極的な取り組みが目立つ東川町によれば、ポイント禁止前の駆け込み需要があり、「例年の年末のような旺盛な注文があった」(経済振興課)という。返礼品は幅広いが、コメ不足が連日伝えられていることもあり、注文の7割近くは町産米だった。
旭川市へのふるさと納税も絶好調。今年4月からポイント制が禁止される9月末までに13億3300万円、率にして262%の増加となった。上半期の時点で前年度全体を上回ることがすでに確定している。
依存するのは危険
税収が伸び悩み、一方で福祉関連の支出増加や物価高によるコスト膨張で、地方自治体では総じて財政が苦しさを増している。ふるさと納税は増加が見込める数少ない収入源。このため多くの自治体がふるさと納税の活用に力を入れているものの、その取り組みと成果には大きなばらつきがある。表に、1市8町の一般会計の規模(2024年度当初予算案ベース)、人口(今年1月1日時点)、人口1人あたりの一般会計の金額、ふるさと納税制度からの収入(2024年度各種費用を差し引かないグロス額)、同収入(各種費用を差し引いたネット額)、人口1人あたりのふるさと納税制度からの収入(ネット額)、一般会計収入に占めるふるさと納税からの収入の比率を示した。
この表からは東川のふるさと納税における成果が突出していることがわかる。町の財政に占めるふるさと納税からの収入(グロス額)は16%に達する。住民1人あたりの収入額は29万9000円(グロス額)、各種費用を引いたネット額の収入も15万円近くに達する。町民一人ひとりの生活や、町の展開する事業に対して、この効果は大きい。
そもそも、東川は財政規模が人口規模の割に大きいのが特徴だ。一般会計の収入額は166億円。人口は隣接する東神楽を下回っているが、一般会計規模は2.4倍に達する。それだけ行政の活動も活発だが、それを支えるのがあの手この手で政府から引っ張ってくる各種の補助金、そしてふるさと納税からの収入だ。このほか、東神楽と当麻でも町の財政に占めるふるさと納税からの収入(グロス)の比率が1割を超えている。
だだ、東川町は今後のふるさと納税からの収入には慎重な見方を示す。「制度の変化や、(主力商品の)コメの値上がりで、今までのような大きな伸びは期待しにくい」(経済振興課)。一方の旭川市は「税額の控除、返礼品の受け取りというメリットは基本的に変わらない。根本的な制度の変更がなければ、寄付金が大きく減少することはないと考えている」(旭川市行政改革課)。
その旭川市では市の財政のうち2%をふるさと税収で支えている。市民1人あたりの収入は1万1700円だが、ここから各種費用を差し引けば、「手取り」は6499円。差額の5203円は返礼品の購入、仲介サイトへの手数料、輸送量などに消えている。通常の税制なら発生しないこうした費用を、赤子や老人を含め、市民1人あたり5203円ずつ負担していると考えれば、ふるさと納税制度に潜む問題がよくわかる。
指摘される一連の問題を抜本的に解消しない限り、関連業者と政府の間で今後もいたちごっこが続く可能性もある。税収減に直面する大都市圏を中心にこの制度への批判は根強く、ふるさと納税への過度な依存にはリスクが伴う。

