カムイスキーリゾート構想 水不足で見直し不可避か

 今年1月ごろから華々しく報道されたカムイスキーリンクス付近でのスキーリゾート開発構想。「ニセコや富良野に続く道内第3のウィンターリゾートが誕生するのか」と注目が集まったが、建設予定地は昔から慢性的な水不足に悩んでいたエリア。関係者は5月の時点で、8月に「地下水調査の結果が出る」と語っており、その結果がそろそろ出たはずなのだが、本誌の再度の問い合わせには無反応。水の問題が構想に及ぼす悪影響が懸念される。

至近距離に高値
 「北海道グローバルは、カムイゴンドラに隣接するスキーイン・スキーアウトの土地30.7ヘクタールを取得し、四季を通じて楽しめるマスタープラン型ヴィレッジの開発を進めています。このエリアは、初心者向けの『ネクストステップ』コースに面しており、ヴィレッジ全体がスキーイン・スキーアウト可能なアクセスを提供します。また、エリア全体がスキーイン対応であり、戦略的に配置されるTバーリフトによって、ヴィレッジ全体からスキーアウトも可能となる設計です。このヴィレッジは、日本の美意識にインスパイアされた建築デザインを特徴とし、白樺や松の木々に囲まれた幻想的な森の中に、自然と調和する形で構築されます。施設には、ホテル、アパートメント、温泉、アンチエイジング施設およびコミュニティ、レストラン、ショップ、そして1500区画の宅地・ヴィラ用地が含まれる予定です…」
 今年1月、大々的に報じられたカムイスキーリンクス直結のスキーリゾート構想。北海道グローバルの代表を務めるのが著名なプロスキーヤー、三浦雄一郎氏の子息、三浦豪太氏ということもあり、広く注目を集めた。
 冒頭の文章はウェブページに記された説明からの抜粋だ。構想が描かれたイメージ画像には、スキーコースのすぐ横からの斜面に多くのコテージや、ホテルと思しき建物が整然と並んでいる。
 こうした構想やイメージには十分な信ぴょう性があった。ニセコでも富良野でも、スキーリゾート型の不動産物件は高値で取引されている。以前の別の不動産業者に対する取材で、富良野のスキー場のすぐ下にある中古住宅に、一般的な取引の相場とかけ離れた値段がついているのを指摘した記者に、担当者が答えた理由が印象に残る。
 「海外の富裕層は、家にお金を出すんじゃない。スキー場まで、スキーの板を履いたまま行ける『極近距離』に高いお金を出すんだ」。
 ニセコや富良野に続き、「次はこの旭川でも」との期待が、このまちの建設業や観光業を中心に高まったのも無理はない。
 8月下旬、記者はリゾートの建設予定地、神居町西丘を訪ねた。人の姿は見えなかったが、重機が1台あり、作業用の小屋に解体工事についての掲示があった。かつてこのエリアで果樹園を営んでいた前地主の住宅や農家を取り壊したらしい。単なる青写真でなく、構想の具体化に向けた動きがあることがわかる。

既存の井戸で水減る
 ところが、この構想には不安要素がある。それは「水」だ。およそ、人間が活動するのに水は欠かせない。富裕層がスキーで冷えた身体を風呂で温めるためにも大量の湯が必要。だが、本誌が調べた限り、この地域でリゾートの運営に必要な水を十分に確保できる見通しは立っていない。
 道内各地の地下水の状況に詳しい人物が語る。「地層の関係で、台場から南西側では慢性的に水が足りない。台場にある2つのゴルフ場が地下水の確保や芝の維持に苦労しているのもそれが理由だ」
 旭川市内は比較的水量が豊富な地域だが、市の中心部から水道管を通して神居町西丘まで水を運ぶしくみにはなっていない。このため神居地区簡易水道は、西神居浄水場(1996年供用開始)からくみ上げられる地下水に頼っている。同浄水場から、神居古潭、豊里、西丘などのエリアに住む116人に、年間約2万立方メートル(2023年度)が給水されている。
 ところが、地下水の量は一定ではない。さまざまな要素のために減少したり、枯渇することもある。西神居浄水場ではスキーリゾート構想の浮上前から、揚水量が徐々に減少していた。まだ地域への給水はできているものの、今後さらに減る可能性に備えて、旭川市水道局は民間業者に委託して昨年から2ヵ所で試掘を行った。地下水のメカニズムは複雑で、水量が減った井戸のすぐ近くを掘っても、水脈に当たるか当たらないかで揚水量は大きく異なる。
 「試掘の結果を受け、候補地の選定は終わった。今後どうするのかは未定だ」(市水道局上下水道部)。
 この試掘はリゾートを意識したものではないが、カムイスキーリゾートが建設されれば、地域の住民だけでなく、新しい住人や宿泊者にも大量の水を供給しなければならなくなる。「水道局上水道課はあくまでも施設の維持管理部門なので、そういった検討は行っていない。今後、市長部局と検討することになるのではないか」(同)。
 水と並ぶハードルが都市計画関連の申請。宅地開発行為の許可、宅地造成等規制法の許可などの申請受付窓口となる地域振興部都市計画課によれば「北海道グローバルの関係者が相談には来ており、指導は行ったが、まだ正式な申請は出ていない」。つまり、旭川市として水の確保について北海道グローバルをサポートしている部署はないということになる。

水資源保全地域
 西丘や神居古潭では地層の関係で地下水を確保するのが難しい。では北海道グローバルが独自に井戸を掘って、十分な水を確保できればいいかというと、それも疑問だ。
 外国人が貴重な水源地を売買しているとの報道が(真偽はともかく)注目を集めたことを受け、北海道は2012年に「水資源の保全に関する条例」を定めた。この条例には、市町村長からの提案に基づく水資源保全地域の指定、権利移転3ヵ月前までの売主から知事への届出提出、届出者への助言(適正な土地利用を誘導)、届出義務違反等に係る勧告・公表などが盛り込まれている。
 北海道グローバルが今年4月に所有権を獲得した西丘の土地の少なくとも一部は、条例に基づき指定された「旭川市西神居地区水資源保全地域」(229万平方メートル)に含まれている。不動産開発に詳しい人物は、北海道グローバルは保全地域に含まれていることを知らずに購入したのではないかとの見方を示すが、そうだとすると時系列的に説明がつかない。西丘の土地のうち1筆、6万5272平方メートルの所有権移転が登記されたのは今年4月17日のこと。その3ヵ月前には届け出が提出されていなければならず、常識的に考えて、少なくとも届け出の時点では「水資源保全地域」の内部にあることを把握していたことになる。
 北海道グローバルは、水確保のメドが立ったと判断して土地を入手したのだろうか。

「8月まで待って」
 本誌は今年5月、ウェブページを通じて同社に取材を申し込んだ。三浦豪太氏から記者の携帯に連絡があった。
 「いま旭川市と交渉しているところ。記事にされると旭川市などに迷惑がかかる。現地で地下水調査を行っており、その結果が8月には出る。それまで待ってほしい」。この時、三浦氏がある情報を付け加えた。「(リゾート予定地)付近ではもう果樹園を経営している農家がほとんどないことを確認している」
 記者は8月下旬になるのを待ってから、三浦氏に計画の現状などを尋ねるメールを入れた。直後、三浦氏から英語の名前と携帯電話の番号だけが記されたメールが戻ってきた。この番号に連絡するようにという意味だと解釈した記者は電話をかけたが、電話の向こうの三浦氏は状況を理解できていない様子。何らかの間違いで記者からのメールに意図しないまま返信したということらしい。記者は連絡するよう求めて、電話を切った。その後反応がないことから、もう一度電話を入れ、留守電に伝言を残したが、締め切りまでに反応はなかった。なお、旭川市の側は都市計画について三浦氏サイドと交渉(指導)していることは認めたものの、肝心の水について話し合っている形跡はなく、「旭川市と交渉している」と語った三浦氏の真意は不明だ。
 「付近ではもう果樹園を経営している農家がほとんどない」との見解についても、実際には先述の通り西神居浄水場でくみ上げられる地下水が神居古潭、豊里、西丘などのエリアに住む116人に給水されている。予定地の周囲から果樹園が消えたとしても、新リゾートで大量の水が必要になるとすれば、予定地からやや離れた西丘の南側や、神居古潭、豊里への給水は従来通り維持されるのかという疑問が残る。
 カムイスキーリンクスにほど近い果樹園の関係者に話を聞いた。「現場で解体工事が行われているのは見た。水の心配? それはない。外国人ならともかく、三浦さんは日本人で、お父さんはカムイスキーリンクスとも関わりがあった人なので、大丈夫だと思う。それで、住民説明会はいつ開かれるのだろう?」
 華々しいウィンターリゾート計画は、実現するのか、地下水の量に合わせて変更されるのか、それとも…。

この記事は月刊北海道経済2025年10月号に掲載されています。
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