札幌国税局が6月末に公表した2015年度(15年7月~16年6月)の税務署別法人所得で、旭川地区(旭川中、旭川東税務署管轄)が苫小牧地区に抜かれ5位に転落した。人口で道内第2位の規模でありながら、苫小牧に抜かれ上位の札幌や帯広、函館との差は広がるばかりで、「事業所数は多いが企業規模が小さく、内向きな姿勢が成長を妨げている」と、地域経済の今後を悲観する経済人も多い。
一事業所当たりの所得が低い
札幌国税局が6月末に公表した15年度(15年7月~16年6月)の税務署別法人所得によると、石狩市や北広島市などを合わせた札幌地区(5税務署)が5655億円でトップ。2位は新得町や清水町などを合わせた帯広税務署管轄が607億円。3位は北斗市などを合わせた函館税務署管轄で450億円。4位が白老町や安平町などを合わせた苫小牧税務署管轄で376億円。5位に転落した旭川地区(旭川中、旭川東の2税務署)は、管轄する周辺8町を合わせ364億円となった。ちなみに、6位は釧路地区の260億円。道内全体の法人所得は9206億円で、加算税を含む税額の合計は1928億円だった。
法人総所得額から道内各地区の比率を見ると、札幌が61%と断トツで、帯広6・6%、函館4・9%、苫小牧4・1%、旭川4・0%と続く。よく言われている札幌一極集中の傾向は、法人所得の分布を見ても明らかだ。
一方、事業所数で見ると法人所得額上位5地区は以下の通り。札幌が1万8310社。帯広2375社、函館2504社、苫小牧1655社、旭川2811社。1社あたりの法人所得は、札幌が3088万円。帯広2555万円、函館1797万円、苫小牧2271万円、旭川1294万円となる。ここでも札幌が1位となるのは、事業所数が多いだけでなく企業規模も大きいことを現している。帯広も大規模農業を営む農家が多いことなどから高い数字となっている。
所得総額では4位の苫小牧が1社あたりでは帯広に次いで3位となるのは、トヨタ系や湾港関係の規模が大きい企業が多いためで、逆に旭川や函館は規模が小さい企業が多いことがわかる。
中途半端な人口規模が災い
上位5地区を人口別に見ると、札幌地区が194万人、帯広地区20万人、函館地区36万人、苫小牧地区22万人、旭川地区40万人。大都市圏の札幌地区を除くと、旭川地区が道内2番目の人口規模を誇っているが、法人所得で見ると帯広地区や函館地区に大きく水を開けられている。
この地域のある経済人は、旭川地区の弱さを次のように解説する。
「歴史的背景から見ると、旭川は北海道の北の拠点として農水産物の集積地として栄えた。それが一時は36万人規模の都市として存在し、その中だけで商売が成り立っていた。
その影響からか、大都市圏の札幌や道外へ進出する企業が少なく、旭川という狭いエリアの中だけで営業活動が行われてきた。そのため、内向きで閉鎖的な地区として周りから見られている」
市外から旭川へ営業をかける札幌のメーカーも次のように旭川の閉鎖性を指摘する。
「旭川は事業所数が多いにもかかわらず、小規模の企業が多く市外とつながりが薄い。そのため、旭川から外へ営業をかけるにしても人材がいない。M&Aによる企業規模の拡大にも消極的で、地元でこつこつと事業をすればいいという考え方が根強く残っている。
旭川は古くから上川百万石といわれるほど農業が盛んで、木工業も品質のいい製品が作られている。国内のみならず海外にも通用するモノがいくつもあるにもかかわらず、外へ打って出ようとする気概に乏しい。
一方、市外から旭川へ進出しようと営業をかけても、ほとんど相手にされない閉鎖的なところがある。旭川独特のルールのようなものがあり、外から見ると理解できないことがある」
打開策は外への発信力
法人所得2位の帯広地区は一次産業で見ると、稲作に適さない土壌のため古くから畑作や酪農、畜産業が中心になっている。国の農業政策の中心的な存在である稲作がほとんどないため、国に頼らず自力で開拓してきたという自負が帯広地区の農家には根付いている。
そのため、旭川地区の半分しかない人口規模でありながら、生産高は変わらない、言い換えれば帯広は旭川の倍の能力を持った農家が多いことになる。しかも、高い利益が取れる農産物を生産し、稲作のように相場に左右され国の補助金頼みという体質から脱却している。
上川管内のある有力農家は、「国に守られてきた稲作農家は努力が足りない。このままでは帯広を中心とする十勝の農家にさらに遅れを取ることになる」と警鐘を鳴らす。
一方、旭川を抜いて4位に浮上した苫小牧地区は、トヨタ系の企業が進出し、港が整備され港湾関連の企業が活気付いている。道内でも中心的な物流拠点として今後の発展も見込まれる。
では旭川地区が発展するためには何が足りないのか。得意とする木工関係や充実した医療体制、豊かな自然を生かした観光事業を持っている。
これらはいずれも、外へ発信する力がなければ生かすことができない。閉鎖的な気質を見直し外へ打って出る気概を持った人材を育成することが望まれる。
この記事は月刊北海道経済2017年10月号に掲載されています。