札幌駅で新幹線用ホーム不足、旭川延伸困難に

 3月末までに決着する見通しの札幌駅新幹線ホームの位置。旭川市民の関心は低いが、注目すべきは現在検討の対象となっている2つの案ともに、ホーム数が(2編成の列車が同時に停車し、乗降できる)2線だということ。全国の主要な新幹線駅はいずれも4線以上だが、札幌駅はスペースの関係で異例の2線体制となりそう。その時点で、国が新幹線網の青写真に描いていた「旭川延伸」の可能性がなくなる。

今年度内に位置決定
 北海道新幹線のホームを札幌駅のどこに建設するかを巡って、激しい論議が戦わされている。二転三転を経て、現在有力視されているのは、札幌駅の構内に新幹線のホームも設ける「現駅案」と、東側、つまり旭川方向に創成川をまたぐかたちで新しいホームを設置する「大東案」だ。かねて浮上した地下化案は高い工事費用を理由に検討の対象から外された。
 2016年3月に函館北斗までの延伸が実現し、ようやく北海道に上陸した新幹線は、2030年度末に札幌に乗り入れることになっている。昨年10月の新青森─函館北斗間の乗車率は36%に低迷しているが、これはあらかじめ予想された数字。北海道新幹線が威力を発揮するのは札幌延伸後であり、それまでの14年間はいわば「助走期間」だ。
 函館北斗─札幌間ではすでに土木工事が始まっており、21本のトンネルのうち昨年10月までに着工したのは8本。掘削率が60%を超えたトンネルもある。
 新小樽(仮称)近くで地下トンネルにもぐる新幹線は、長さ21㌔の「札樽トンネル」を通って、桑園と札幌の中間付近で地上に出たあとで札幌駅に達する。ただし、札幌駅のどこに新幹線のホームを設けるのかが決まっていない。国から示されたホーム位置決定のタイムリミットは2017年度末だ。

2案ともホームは2線
 改めて、これまでに浮上した案を振り返れば、まず現在の1番線、2番線、つまり最も南側にある2線のホームを在来線用から新幹線用に転換するのが「現駅案」。問題は、このプランだと在来線のホームが減り、運転本数にも影響が及ぶということだ。一時浮上した「地下案」は、駅南側で東西方向に伸びる北5条通の下を掘って新幹線の駅を設けるという内容だったが、費用が現駅案の倍、1000億円に達することがわかり、候補から外れた。
 もう一つのアイディアが「東案」。1番線と、その南側に新設する0番線を新幹線に当てるという内容だが、この方法だとホームの一部が札幌駅の上にそびえるJRタワーに食い込むため、この高層ビルの耐震工事に300億円が必要となり、現実味は薄いとされていた。
 そしていま注目を集めているのが「東案」を修正した「大東案」。東案よりもさらに東側、つまり旭川方向に、創成川と国道5号をまたぐかたちで新しいホームを設置し、連絡橋で在来線のホームと結ぶ構想だ。
 現在、検討が続けられているのは現駅案と大東案の二つ。両者の長短を比較すれば、前者ではJR在来線や地下鉄との乗り換えがスムーズである反面、ホームの幅を十分に広く取れず、混雑時に不安がある。在来線の運行本数への影響もある。後者は乗り換えのために乗客が長い距離を移動しなければならないのが欠点だ。
 本誌の読者からは「札幌の話など、旭川には関係ない」という声が聞こえてきそうだが、実は札幌駅での新幹線ホームの設置状況は、旭川延伸の可能性を大きく左右する。札幌以北に新幹線を伸ばすためには、最低でも4線のホームが必要だが、現駅案と大東案はいずれもホームが2線。どちらが選ばれるにせよ、その時点で新幹線の北の終着駅は札幌に固定されてしまう可能性が高い。

旭川発着の列車が追い越しできない
 東京駅10線、新大阪駅8線、博多駅6線、金沢駅4線、新青森駅4線。主要な駅の新幹線用ホームの数だ。新幹線網の最南端に位置し、延伸の可能性がない鹿児島中央駅でさえ、4線のホームを新幹線に割り振っている。
 どの主要駅でも、新幹線には4線以上のホームがあるが、札幌駅では2線しかないために、混雑や出発の遅れが発生する可能性がある。札幌の場合、多くの荷物を抱えた観光客が多く、さらに外国人の比率も高いため、乗り降りに比較的長い時間がかかると予想されることも不安要素だ。
 ましてや、ホーム2線の札幌駅から旭川に延伸するのは事実上不可能。旭川まで新幹線のレールが伸びたとしても、大半の列車は札幌発着で、札幌駅のホームに列車がしばらく停止することになる。札幌駅に4線の新幹線ホームがあれば旭川発着の列車は開いているホームに停車して、札幌発着の列車をやり過ごすことができる。それこそが全国の主要な駅で新幹線のホームを4線以上確保している理由なのだが、2線だと不可能になってしまう。
 札幌以北に延伸しないとしても、2線のホームは明らかに容量不足。なぜそんなことになってしまったのかと言えば、それは新幹線ホームを作るのに最適の土地に大丸、ステラプレイス、JRタワーなどの駅ビルを建ててしまったためだ。

駅前再開発でスペース不足
 札幌駅が高架化されたのは今から30年前の1988年のこと。すでに北海道新幹線が札幌まで伸びることは決定しており、高架化に伴い生じる駅南側の空き地が新幹線用に活用されるはずだった。ところがいつの間にかこの土地で札幌駅南口再開発事業が推進され、大丸、ステラプレイス、JRタワーが建ってしまった。この土地の活用方法をめぐる札幌市やJR北海道の判断は、現在に至る札幌駅周辺の商圏の賑わいぶりを見れば「正解」だったが、同時に旭川への新幹線延伸は困難になった。1993年、南口再開発が決定した時点で、旭川市民の与り知らぬところで、旭川延伸も大きな影響を受けていたことになる。
 札幌駅内における新幹線ホームの場所を巡っては、札幌市、北海道、JR北海道、国などが綱引きを広げているが、関心を集めているのは乗客の利便性、工事費、駅周辺の賑わいに及ぼす影響など。札幌以北への延伸の可能性を考え、拡張性を確保すべきだとの主張は聞こえてこない。
 しかし、国が描いた新幹線網の青写真には、しっかりと「旭川延伸」のビジョンが描かれている。全国新幹線鉄道整備法にもとづき1972年に行われた運輸省告示(いわゆる基本計画)によれば、北海道新幹線は青森を起点とし、函館や札幌を経由して旭川を終点にすると明記されている。しかし、道内の経済界が掲げる札幌延伸の早期実現という一大目標の前に、「旭川延伸」の四文字は霞む。旭川・道北の経済界の目下の関心事はJR北が「単独では維持困難」とした宗谷線(名寄以北)、石北線、富良野線の維持で、新幹線延伸を考える余裕はない。
 話を札幌駅新幹線ホームの現駅案、大東案に戻せば、現駅案だとホーム増設の可能性は皆無。比較的スペースに余裕があるとみられる大東案でも、2線のホームを囲むかたちで周辺の再開発事業が推進され、ビルが建ってしまうと、やはり旭川延伸の可能性はなくなる。
 このように、札幌駅での新幹線ホームの設置状況は旭川延伸の可否を大きく左右するのだが、旭川市民の関心は低い。ある市民は語る。「札幌延伸だってかなり先の話。旭川になんて来ない」。また、旭川延伸の前には巨額の工事費をどう調達するのか、旭川─札幌間の在来線の収益に悪影響を及ぼさないのかなど、数々の課題をクリアーしなければならない。
 しかし、新幹線のレールが札幌に届くよりも十年以上早く夢を諦めなければならないとしたら、そして、何から何まで札幌中心という現実に異を唱える人がいないとすれば、旭川を包む無力感を象徴する残念な話だ。

表紙1804
この記事は月刊北海道経済2018年4月号に掲載されています。
この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!