学童保育でシダックスと29億独占契約

 西川将人旭川市長が就任以来、市政の目玉に掲げてきた子育て支援。その中核である放課後児童クラブの運営がこの4月1日からシダックス系の企業に委託されている。大型施設の管理、情報システムの保守運用など、行政が担う仕事の一部を民間に委託する場面が増えているが、今回は5年間で総額約29億円という「大型契約」。サービス品質の低下やスタッフの雇用不安を懸念する声もあるが、新年度から約3100人の子供にどんなサービスが提供されるのかが注目される。

共働き両親に不可欠のしくみ
 市内の企業に勤める40代の男性は、3人の子供のうち小学生の1人を、その子が通う小学校と同じ敷地内にある放課後児童クラブに預けている。「うちは共働き。2人の兄が中学校から下校する際、末っ子も迎えに行ってくれるので放課後児童クラブへの依存度はそれほど高くはないが、それでも不可欠。放課後児童クラブがなければ、夫婦のどちらかが学校まで迎えに行かなければならず、共働きは難しい」。
 子育て支援といえば、対象年齢がより低い保育園やこども園に注目が集まりがちだが、親の働いている小学生を受け入れる放課後児童クラブも重要な柱だ。2020年度は市内80ヵ所に設置され、その定員枠は3103人に達する。旭川市では2016年度まで「留守家庭児童会」と呼んでいた。自治体ごとに呼び方はまちまちだが、一般的な通称は「学童保育」となっている。
 旭川市の場合、対象は小学生1~6年で、労働、妊娠、出産、疾病、同居親族の介護などの理由で保護者が不在であることが条件。学校の授業がある日は下校時から18時30分まで、土曜日や夏休みなど長期休業期間などは朝8時から18時30分まで子を預かる(日・祝、年末年始などは休み)。保護者が払う運営負担金は月4000円で、減免制度がある。
 放課後児童クラブは、小学校の建物の内部や校外にある付近の建物に設置される。希望者が多い小学校については複数設置され、最も多い永山南小学校ではその数は4つに達する。4月1日現在、定員が最も多いのは66人、最も少ないのは20人となっている。
 各クラブの指導者は4人以上。主事と主事補が各1人で支援員(旭川市の嘱託職員)が2人以上となっている。ただし、主事は対象校(子供が通う小学校)の校長、主事補は教頭が兼任することから、実質的に子どもと向き合うのは支援員ということになる。

量的拡充から質的向上に
 なぜ、これまで市が嘱託職員を派遣して直接運営してきた放課後児童クラブを、民間企業に委託しなければならないのか。「公募型プロポーザル」の実施要領には、その理由が記されている。要約するなら「従来量的拡充に取り組んできた結果、待機児童ゼロを実現し、支援員の拡充も進めてきたが、近年は現場への指導や研修などで十分な対応が難しくなり、良質なサービスの向上、支援員の資質向上が困難になっているから」ということになる。
 そこで市は放課後児童クラブの運営を民間に委託する公募型プロポーザルを実施。市内の放課後児童クラブのうち、すでに社会福祉法人に運営を委託していた所を除く76ヵ所を東部・南西部・北西部・北東部の4ブロックに分割し、それぞれについて受託業者を募集した。昨年10月21日に審査会を開催したところ4ブロックすべてについてシダックスの子会社であるシダックス大新東ヒューマンサービス㈱が最も高い評価を獲得。11月6日に旭川市子育て支援部こども育成課とシ社の間で見積もり合わせを行い、北西部7億261万円、北東部7億9501万円、東部7億5143万円、南西部6億7478万円(いずれも5年間の総額)で随意契約を結んだ。総額は29億2200万円。総額を5年間で割れば年間6億円近く。委託する業務の質が異なることから単純比較はできないが、大雪アリーナの旭川振興公社に対する業務委託料も年間1億5700万円に過ぎない。放課後児童クラブの運営業務委託が旭川市にとり極めて規模が大きいものであることは確かだ。
 なお、プロポーザルにはシ社だけでなく、北東部でもう1社、北西部で1社、南西部で2社、東部で3社が参加して競合するかたちとなったが、評価点でシ社とはかなりの差があり、4ブロックともにシ社が独占することになった。

カラオケ事業からすでに撤退
 さて、シダックスと言えば市民の間ではカラオケ店の運営業者として有名。旭川市内でもかつては3条通7丁目と永山2条7丁目でも店舗を経営していた(いずれも撤退し、現在は別の業者がカラオケ店を経営している)。
 シダックスのもともとの本業は社員食堂の受託運営だが、2000年代初頭には野球部の活動で知名度を急激に高めた。先日他界した野村克也氏をゼネラルマネージャー兼監督に招へいし、都市対抗野球で準優勝を果たした実績もある。カラオケ事業には90年代に参入して全国展開したものの、業界の競争激化で赤字が膨らみ、18年にカラオケ事業を丸ごとライバルのB&V(カラオケ館)に売却した。野球部も廃部されて久しい。
 シダックスがカラオケに代わる新しい事業の柱として力を入れるのが、行政関連のサービス。学校給食業務は出発点となった社員食堂の受託運営と共通点も多い。もう一つが、約15年前から手掛けている放課後児童クラブ、児童館、子育て支援センターなどの運営受託。道内では他に苫小牧市、小清水町、本州以南では東京都練馬区、横浜市、千葉市、新潟市、東大阪市など各地で同業務を請け負っている。
 シダックスの子会社である大新東ヒューマンサービスは北海道支店の下に旭川営業所を設置。所長の下にエリアマネージャー1人、その下に各ブロックの統括責任者を1人ずつ置く。当面は混乱を避けるために、従来のそれぞれの放課後児童クラブの活動を継続していくが、市とも協議しながら新しいプログラムを取り入れていくという。

市職員減らしが本当の狙い?
 一般的に、市が手掛けてきた事業を民間に委託する際、最大の狙いはコスト削減にある。しかし、放課後児童クラブに関する限り、その効果は短期的には薄い。市こども育成係では、従来の体制を続けた場合と民間委託した場合の出費を比較して、当面は委託の方がコストがかさみ、契約期間の最終年度(2024年度)で、委託したほうが500万円割安になると試算している。もっとも、その後も民間委託を続ける場合には、長期的なコスト削減効果が期待できる。
 しかし、市には別の狙いがあるのではないかとの疑問を示すのは、旭川市議の石川厚子氏(日本共産党)。昨年6月の市議会定例会で石川氏は、「会計年度任用職員制度の適用となる前に民間委託をしてしまおうという魂胆が透けて見える」と指摘した。
 会計年度任用職員制度とは、この4月1日から導入された自治体職員の新しい制度。地方自治体で非正規職員が増加を続け、正規職員との賃金面などの格差が拡大、「官製ワーキングプア」の増加を招いているとの批判を受け、地方公務員法、地方自治法の改正を経てスタートした新しいしくみだ。これまで臨時職任用、一般職非常勤だった職員は、多くが「会計年度任用職員」となり、一定の条件の下で、期末手当、退職金などの支給対象に組み入れられることになる。約360人に達する放課後児童クラブの支援員を、新制度発足の前に市の常勤職員から外すことが狙いだったのではないかとの疑問を石川氏は抱く。
 市はこうした指摘を否定。支援員の今後の雇用についても、「本人が希望すれば全員がシ社に雇用される」と説明する。
 利用者の親にとっての関心事はコストや雇用継続よりも、新体制の下で子供たちにどんなサービスが提供されるのかだ。シダックス大新東ヒューマンサービスの旭川営業所では今後の新たな取り組みの例について「各現場で遊べるスポーツ鬼ごっこのレクチャーを行いたい。このほか全国的な人形劇団による訪問も計画している」などと説明する。
 シダックスの参入で放課後児童クラブは変わるのか、変わらないのか。多くの親たちが「5年で29億円の大型契約」の効果に注目している。

表紙2005
この記事は月刊北海道経済2020年05月号に掲載されています。
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