旭川医大吉田晃敏氏 本誌に激白50分間!

 旭川医大では次期学長予定者の選考が粛々と進んだが、形式的には吉田晃敏氏がいまも学長を務めている。これまで約半年間、ほぼ完全な沈黙を守ってきたその吉田氏が本誌の電話取材に応じた。これまで溜めてきた思いを吐き出すかのように、約50分間にわたり語った。(記事は12月9日現在)

半年ぶりの反応
 12月2日夜、記者の携帯電話が鳴った。画面に表示された発信者名は「吉田学長 旭川医大」。吉田氏は約半年前に辞意を表明して以来、沈黙を守ってきた。次期学長予定者に選ばれた西川祐司氏が記者会見を開いたのは前日のこと。記者はこの半年間、何度か吉田氏へのコンタクトを試みたが、反応はなかった。同日の昼に電話を入れてメッセージを残したものの、半ば諦めていたため、吉田氏からのコールバックには驚いた。
 「吉田ですが」
 元気な口調に記者は思わず尋ねた。
 「久しぶりです。お元気ですか」
 「元気ですよ。めちゃくちゃ元気です」
 記者は十数年前から何度も吉田氏に取材している。まず近況を尋ねようとしたのだが、吉田氏のほうから切り出した。
 「学長選考について聞きたいんじゃないの?」
 そこから50分間、吉田氏はおそらくこの半年間、心の中にためていたであろう思いを吐き出すように本誌に語り続けた。以下はその概要だ。
 ─学長選考の結果が出たがどう思うか。
 吉田 あの僅差で学長を決定してしまうのは無謀。上位2人の間で決選投票をすべきだった。再投票をしなかったのは民主主義的でない。周囲からは「なぜ決選投票しないのか」と尋ねられるが、私は学長選考会議の委員ではないのでしょうがない。
 西川氏は副学長だったが、あの人は基礎研究で顕微鏡を覗いていた人。学問の世界では秀でているかもしれないが、大学の経営者として、小さなことから大きなことまで手を打つ能力があるかは疑問だ(以下、西川氏について厳しい言葉が続いたが、学長選考会議で西川氏が果たした役割が評価に影響していると思われること、西川氏を副学長に選んだのが他ならぬ吉田氏であることから、詳しくは触れない)。
 私が学長を務めた15年間、いろいろなことがあった。巨額の赤字を出したこともあったし、情報システムをめぐる訴訟に負けたこともあった。しかし、どれも乗り越えて、経営を安定させた。それが学長の仕事。経営能力は研究能力とは別の話だ。
 ─西川氏の記者会見を見たか。
 テレビや新聞で見た。吉田体制をまったく否定していた。これでは民主党と自民党の間で起きたような「政権交代」ではなく、従来のあり方をすべて否定する革命のようなものだ。

「地域医療に関わる」
 ─本誌を含め、多くの人が吉田氏に連絡を取ろうとしたが、反応がなかった。個人の近況を教えてほしい。孤立していたのではないか。
 とんでもない。大学教授、経済界、政界、多くの人がいまも支えてくれている。旭川医大の学長は15年間もやったのだからもう満足。これからは地域医療に関わりたい。眼科だけでなく、医療全体の話。いま地域医療は大きな課題を抱えている。具体的構想は近日中に明らかにする。
 ─酒や睡眠薬の問題は克服したのか。
 (笑って)辞表を出したらストレスが無くなったので酒は飲まなくなった。学長に選ばれた瞬間から15年間、強いストレスにさらされてきた。後任の学長も同じだと思う。
 ─注目を集めることが多かったが実は孤独だったのでは。
 もちろん孤独。学長に華やかさなんてなにもない。
 ─いまも時々キャンパスに姿を見せているとのことだが。
 私は辞表を提出したが、受理されていないからまだ学長。私の考えで迎えた「国際医療人枠」の学生の今後を考えないといけないし、また私個人の仕事もあるので、時々は大学に行っている。
 ─文部科学省の調査には応じているのか。
 もちろん応じている。「旭川医大はどうあるべきか」といった文科省の問いに答えている。私は「中央直結型」。学長になる前から東京の研究者や学者と関係を築いてきた。これから医大を率いていく人たちにこうした人脈がどれだけ大切なのかわかっているのか。
 ─北大医学部を含む他の大学との統合の可能性についてはどう思うか。
 正直に言えば、北大学長を名和豊春氏が務めていた頃(編集注=2017~2018年在任)、統合に向けて音頭を取るよう依頼されたことがある。私も賛成したが、まずは北大医学部と旭川医大にそれぞれどんな得意分野があるのか見極める必要があると考えていた。
また、私は八竹学長時代、他大学との統合に向けた交渉を任されており、北見工大には何度も通った。結局実現しなかったのは「旭川と北見では離れすぎている」との反対論のためだが、いま北見工大、帯広畜大、小樽商大が一つの国立大学法人を設立して統合しようとしている。当時の反対論はナンセンスだった。
 ─吉田氏も統合には反対だったはずだが。
 それは、首脳部で検討した結果、大学としては統合に反対ということになったから。文科省にもそう伝えたが、私は好条件なら合併もありうると考えている。

「独立」への関心薄れ
 吉田氏の一連の発言の中で最も注目すべきは、他大学との合併に反対ではなかったという点だろう。記者が医大の関係者や、医大を卒業した開業医に話を聞いても、統合やむなしと考える人が多く、強く反対する人は少数派。過去数年間に行われた医局再編で、かつて所属した医局が消滅した医師の中には、その時点で母校の今後への関心が薄れた人もいる。西川体制のもとで存在価値を示せなければ、旭川医大が北大医学部または北見工大など3校連合との統合に進む可能性もある。
 電話取材の最後に、吉田氏は念を押した。「ぼくはまだ終わっていない。これははっきり書いておいてくれよ」

表紙2201
この記事は月刊北海道経済2022年01月号に掲載されています。