旭川市中心部から神楽地区に向けて氷点橋を渡った左手にある結婚式場「クイーンズK」の跡。少子化、コロナ、結婚式を挙げるカップルの減少といった要素が重なり2024年1月に事業を停止し、その後は活用されないままの状態が続いていた。周辺住民は、荘厳な雰囲気の建物がそのまま廃墟になってしまう事態も心配していたが、菓子の老舗、壺屋が活用に手を挙げた。建物を工場、店舗、事務所として活用する計画。本社機能も現在の忠和から新店舗に移し、2027年の8月から9月ごろにかけてオープンする予定。南6条に面した「き花の杜」と並ぶ旗艦店となることが期待される。

忠和工場は半世紀
クイーンズKは㈱ジュリアンヌが旭川市神楽1条9丁目で運営していた結婚式場。少子化でカップルの数そのものが減り、そのなかで結婚式を挙げる男女がさらに減ったことから、コロナ禍前から業界関係者の間では業績が厳しい状態に陥っているとの見方が強まっていた。結婚式以外にも、企業の業績発表会などに活路を見出そうとしたが、減収を埋め合わせるには至らなかった。24年1月の事業停止の後、1月22日に破産手続き開始が決定している。
それから約2年。1929(昭和4)年創業の老舗、株式会社壺屋総本社(村本暁宣社長)が、この敷地と建物の活用に手を挙げた。11月26日夜に付近住民を集めて、説明会を開き、既存の建物をリノベーションして、新しい製造販売拠点を設ける構想を明らかにした。
新拠点設置の理由の一つが、現在本店機能を担う忠和「なゝ花窓館」で、建設から31年が経過したということ。現在商品の大半を生産している忠和の工場は、50年以上の歴史を持つ。新たな拠点の設立に向け候補地を探す過程で旧クイーンズKの建物と敷地が浮上した。なお、本社機能の移転後も、忠和では「なんらかのかたちで商いを続けていく」方針。
クイーンズK跡には現在、約1万2000平米の敷地に、4つの建物が残る。このうち氷点橋に最も近い建物は工場として、国道237号寄りの2棟は店舗、カフェとすることを考えている。その東側にある建物の2階には、現在チャペルがあるが、将来はさまざまな用途に活用する方針。
「チャペルはお菓子を食べるカフェのような空間としたい。現在、小中学校で合唱コンクールとか吹奏楽などのための場所が減っていると聞いている。地域の学校に使っていただくイベントスペースなどの機能を持ったエリアを考えている」(村本社長)
かつて壺屋は神楽地区に店を構えていた(現在はコープさっぽろ神楽店内)。「当時のように地域の方々といろいろなつながりをもっていきたい」(村本社長)。なお、新拠点の設立以降も既存の神楽店については存続を考えているという。
付近住民は歓迎
住民説明会は一般的に付近住民の不安を事前に解消して理解を得るのが目的。大規模な菓子の製造販売拠点の場合、クルマの出入りと騒音、匂いが問題となるが、クルマの出入りについては結婚式場時代よりも車両台数のピークが分散し、付近の道路のキャパシティには十分な余裕があり、付近交差点での渋滞などは発生しない見通し。匂いについては(といっても悪臭ではなく、スイーツならではの甘い香りだが)、最寄りの住宅まで届くことはないと見込んでいる。
「お菓子を食べると自然と笑顔になる。そんな幸せを作るのが私たちの仕事。き花の杜で毎年開く工場祭でも、先日の旭川菓子博もみんな笑顔で帰っていただいている。そんな光景をこの町に、この地域に作りたい」(村本社長)
新拠点設立に向けた動きは、実は2025年1月から始まっていた。事業計画・コンセプトの策定、各種行政手続きを経て、26年8月ごろに着工、27年5月までに工事を完了し、準備作業を経て8月から9月ごろのオープンを見込んでいる。
説明会に参加した住民からは、「誰も手をつけなかったところを、旭川が誇る壺屋さんが活用してくれることを、神楽の一住民としてうれしく思っている」といったポジティブな反応が目立った。昔から壺屋がこのエリアで店を営んできたことが信頼につながっている。
近年の菓子業界で、工場は単に商品を作る場所ではない。製造工程を見せることが宣伝になり、その地域に観光客を呼び寄せる看板となる。道内でも札幌圏や帯広圏のメーカーの工場には、団体観光客がバスで乗り付ける。壺屋ではき花の杜もこうした役割を果たしているが、新拠点でより本格的な工場見学が可能になれば、壺屋のブランドイメージの強化だけでなく、小豆、小麦粉、砂糖(ビート)などの優れた原料を持つ上川圏のスイーツの魅力を全国的にアピールするのに役立ちそうだ。

