2025年にはクマによる被害が各地で相次ぎ東北地方をはじめ、道内でも後を絶たない。特徴的なのが市街地中心部への出没で今後、どのようにクマと向き合い、安全な暮らしを確保するか。その道筋を考える必要があるが、鷹栖町の酪農家ではシカの被害に遭ったケースも。7ヘクタールに及ぶ牧草地が食い荒らされた。クマとの関連も要因とみられるようだ。

シカ被害に遭ったのは「鷹栖牛」新田ファーム
シカ被害に遭ったのは搾乳を主体にブランド肉「鷹栖牛」の加工販売を手がける鷹栖町の酪農家「㈱新田ファーム」所有の牧草地。通いの牛舎に隣接して広がり、草丈が本来なら2メートル以上伸びるデントコーンが、周辺の山際から侵入したシカが食い荒らし無残な状況にさらされた。被害面積はザッと東京ドーム5つ分。7ヘクタールの広範囲に及んだ。5月の下旬ごろから秋にかけて「トウキビの葉や実だけシカが採って食べるもんだから、草丈なんて20~30センチにしか伸びなかった」と新田ファーム取締役の新田健一さん。
新田さんは北海道酪農協会の上川支部副部長でもあり、元鷹栖町議会議長。今回の被害に関連しては「あくまで法人として」と強調する。この新田さん自身の酪農家としてだけではない多彩な視点から、シカ被害を切り口に興味深い見方を示している。
新田ファームの牧草地については「クマが寄り付くようになるとシカが来なくなる。20年ぐらい前から秋口になるとクマが現れ、デントコーンを座りながら食べるんだ。クマもペットに飼ったらいいかなと思うくらいにかわいい。鷹栖町内にはクマが4頭ほどいるが、シカだけではなくクマも適度に入って来れた方が環境的にもいいんだよ」。
生態系のバランスまで踏まえた見方でもあり、裏を返せば「シカを減らせばクマも減る」ととらえることができる。それ以上に知床などでは地元漁師とクマとの共存した関係が日常的に見られることも事実。「アイヌの人たちは上手に付き合ってきたのに」と新田さん。たしかに、人そのものの生活領域があまりに拡大しすぎてしまったことを棚上げにして「一方的にクマが悪いと決めつけた見方になっていないか」。
問題提起しながら新田さんは「人間が一番残酷かもしれない。生き物は共存してなんぼ。家畜を自分たちの都合で食べるだけ食べたり、結果的に自然界の中でうまくかみ合っていないのでは?」。クマは本来なら子を1頭しか産まない習性があるはずなのに、ここ最近は2頭ぐらい産むケースがみられ「それくらい養うほどのエサがあるから、エサを求めて歩いているのかもしれない」と指摘するのは新田さんが多彩な視点でとらえるから。
対策で「自衛隊の出動があってもいいのでは」
そうなってくるとクマの好物ともみられるドングリが生息場所から不足しているため、市街地にエサを求めてやってくるとの見方が必ずしも正解とは言えなくなる。ただ、人里に現れるクマの生態については、まだ研究がほとんど進んでいないとされるだけに生態を解き明かす一つの選択肢にもなり得るかもしれない。事実、元々木の実や穀類など植物性のものを食す習慣があったクマが肉食の傾向を持つに至った。その背景として「めったに食べなかった肉の味をクマが覚えて食べる習慣ができて、人間のこともエサとして認識するようになったのではないか」と新田さんはとらえる。
いずれにしてもクマの生態研究そのものが未知の領域であるため、これ以上、持論を展開しても空論に過ぎないが、無視できない経験則に基づく示唆に富んだ見方と言えなくもない。東京ドーム5つ分のデントコーン畑に座り元々エサ場にしていたクマたちに代わって現れたシカたち。クマは自らの腹時計に従って、〝けもの道〟から定刻に現れ、デントコーン畑に座ると深さ30センチほどの穴ができたそうだ。
どこか親近感が湧いてきそうなエピソードだが今回のシカ被害に対して今後の対策、酪農を営む法人として、新田さんが行政機関などに要望する内容というのが以下だ。シカの侵入を未然に防ぐ電気柵については、設置の際は助成が下りるが、更新の場合には補助金が当たらないため、多くの酪農家の間で大きな負担になっていることから、改善策を求めたい考え。
さらに旭川市の春光台にはシカが複数生息するだけでなく、陸上自衛隊第二師団敷地内でも見受けられることから、新田さんは「自衛隊の出動があってもいいのでは」と提案する。実際、過去には自衛隊が駆除したこともあったという。

