正念場迎えた「公立ものづくり大学」

 東海大学旭川キャンパスの閉鎖決定を受けて2011年に市民有志が掲げた「公立ものづくり大学」構想。それから4年が経過したが、まだ計画は具体化していない。この間にも地方の国立大学では「地域」の名を冠した学部が相次いで誕生。いずれも少子高齢化や地場産業の衰退などが深刻化する中、地域が抱える課題の解決に貢献できる人材の育成をめざすものだ。「先を越された」とため息まじりの声がささやかれるようになっており、旭川市によるリーダーシップの発揮が求められる。

遅れるコンサル選定
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 これまで地道な活動を続けてきたのが「旭川に公立『ものづくり大学』の開設を目指す市民の会」。2011年に結成され、市役所や経済界への働きかけを開始。12年には4万3000人の署名を集めた。背中を押された市は13年度、調査・検討をスタートさせた。
 ところがこれ以降、公立大学設立に向けた動きはスローダウン。今年4月の時点では、市が旭川大と市民の会と協議してある程度の方向性を決め、8月からプロポーザル方式で高等教育機関の設置に関わる専門のコンサルタントを公募する予定だったが、調整が進まず足踏みしたままとなっている。市民の会の関係者からは「全国的にみて早い取り組みだったのに、先を越されてしまった。何という決断力と行動力のなさ」といった嘆きも聞こえてくる。
 「先を越された」というのは、地方創生ブームの波に乗った全国での相次ぐ地域関連新学部設置を指している。今春設置された高知大の地域協働学部をはじめ、来年度には交通弱者などの高齢化問題を研究テーマとする宇都宮大の地域デザイン科学部、地場産業の振興とグローバル化を研究する福井大の国際地域学部、有田焼など陶磁器産業の人材を育成する佐賀大の芸術地域デザイン学部、畜産、農業、観光の活性化を目指す宮崎大地域資源創成学部が設置される。
 高知大に新設された地域協働学部のモットーは現場重視。専門科目の4割強にあたる約600時間を中山間地域を中心とする地域実習にあてる。四国でも耕作放棄地が増える一方であるため、学生たちのユニークな発想を取り入れ「土にまみれて」を信条に、住民と協力しながら地域課題と向き合う。佐賀大の新学部はデザインやマネジメントも学びながら、技術革新や販路開拓に携わることができる人材を育成するという。
 これに対し旭川では、この4年間の運動で中心的な役割を果たしてきた長原實氏が10月、志半ばで他界。長原氏亡き後、市民の会では伊藤友一氏が会長代行に就き、運動を引き継いだ。

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この続きは月刊北海道経済2015年12月号でお読みください。
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