東川にない3つの「道」といえば、上水道(地下水が豊富なため必要がない)、国道、そして鉄道。正確には、1970年代までは路面電車で旭川と結ばれていた。いまも町内に残る東川駅の後や、周囲の倉庫を活用してにぎわいを創出することを目指すプロジェクトが動き出した。

価値再認識され
2年前の8月、栃木県宇都宮市で路面電車「宇都宮芳賀ライトレール線」(14.6キロ)が開業した。日本国内での路面電車新規路線開設は75年ぶりだ。CO2排出量がバスやマイカーより少なく、本格的な鉄道・地下鉄よりも工事費が安く、乗り降りまでの移動距離が短い路面電車は、いまや都市交通の期待の星。札幌では市電の区間が2015年12月に延長されて西4丁目、すすきの間に新たにレールが敷かれ、「ループ化」が実現した。
一方、旭川では旭川電気軌道が運行していた路面電車が1972年の末、つまり半世紀以上前に廃止された。いまではなぜバス会社の社名に「電気軌道」の4文字が含まれているのかわからない人も多いかもしれない。
戦時中、旭川市内と東川町では旭川電気軌道と、同社も設立に参加した旭川市街軌道が路面電車事業を営んでいた。前者は東旭川線、東川線、後者は一条線、四条線、師団線を敷設した。いずれも戦後のクルマ社会到来と、設備補修費用の増大で継続が難しくなり続々とバス転換。東旭川線、東川線は1972年の大みそかに廃止された。
その東川線は、旅客輸送はもちろん、農作物や肥料など農業資材の輸送という重要な役割を担っていた。旭川電気軌道には電気機関車がなく、通常の路面電車で貨車をけん引していた。
インバウンドを含め、多くの観光客でにぎわう東川町だが、現在はほぼ完全なクルマ社会。道の駅ひがしかわ「道草館」や付近の施設の駐車場では道外ナンバーや、レンタカー、キャンピングカーの姿も目立つ。いまも町内の東川町郷土館内にには、かつて旭川電気軌道で活躍した路面電車が1両保存されているが、かつてこの道に鉄路を伸びていたことを旅人たちは想像もしないのではないか。
しかし、よく見れば鉄路の遺構は他にも町内に残っている。かつて東川駅があった場所にはいまも草むらの中にプラットフォームが残り、周囲に並ぶ10棟の倉庫は、路面電車に載せられる前の農作物などを貯蔵していた。立派な「東川駅跡」の石碑には路面電車の歴史について簡潔に記されている。
8棟改修2棟新設
すでにハード、ソフト両面で数多くの観光資源を持つ東川町が、いま注目するのがこれらの路面電車遺構。「旧東川駅跡再開発プロジェクト基本構想」によれば、旧東川駅を町での暮らしを体験する入口、新たな人や知識との出会いの場とし、新たな活動を創出することを目指す。現在は「基本構想検討段階」と位置付けられている。
再開発の中核となるのが、昭和27年から昭和52年にかけて建てられた倉庫。調査の結果、10棟のうち2棟は比較的新しいにもかかわらず劣化が著しいことから撤去する方針。残る8棟は木造、レンガ造、ブロック造+鉄筋コンクリート造だが、ぞれぞれ建物内部から鉄骨フレームで補強して十分な耐震強度を確保する。撤去する2棟の跡地には新設する2棟を設ける。
中心的な建物となる新設A棟は面積730平方メートル。内部で路面電車を1両展示する。イメージパースによれば、床から屋根まで届く大型のガラス窓をプラットホームが貫き、屋外から屋内へ伸びている。
駅跡には役割ごとに4種類のスペースを設ける。その内容とそれぞれの主な役割は……
▽多目的スペース=町内外の来訪者との交流や協働を促進する屋内外での町民や事業者によるイベント開催、町民の創造性を刺激する目的とした国内外の作家との交流、ワークショップなどの機会の提供
▽展示スペース=現在郷土館に収蔵されている鉄道車両や各種史料等、町の歴史を知ることができる展示、このプロジェクト実現に至るまでの東川駅の歴史を知ることができる展示、織田コレクション等、まちが所有する文化財の展示
▽ワークスペース=多様なニーズに応えた、様々な学びの場の創出及び人材育成(デザインスクール、木工などの体験講座、ワークショップ、講演会、音楽演奏等)
▽商業スペース=家具・木工クラフトや農産物等、町内特産品の販売、農業を成長産業とするための生産販売や販売戦略事業の実施、オフィシャルパートナーとの連携等による商品販売、町内特産品の飲食
─などとなっている。
事業費圧縮なるか
総事業費の試算額は49億6000万円。このうち既存倉庫の改修額が30億円余りを占めるが、これを建物を新築した場合の事業費、14億8900万円まで圧縮することで、総事業費を35億円に抑えることを目指す。
いまのところまとまっているのは基礎調査のみ。関係者懇談会を経て、正式な基本構想を来年3月までにまとめることを想定しているものの、スケジュールは流動的だ。
かつての倉庫を観光施設・商業施設として蘇らせる取り組みとしては、旭川市内でも大雪地ビール館、ザ・サン蔵人、他のまちでは函館の金森赤レンガ倉庫などいくつも実例がある。一方、鉄道遺構もマニアの間では人気があり、道北では廃止されて久しい国鉄名寄本線跡を訪れるファンもいる。両方の要素を持つ「旧東川駅跡再開発プロジェクト」。50年以上鉄路を持たなかったまちの取り組みが、全国的な注目を集めそうだ。

