旭実高が挑む旧式コロナ復活

 高度経済成長時代、日本の自動車産業を代表する人気車種だったトヨタの「コロナ」。長年、野ざらしにされサビだらけとなった車両の復活プロジェクトに、この車種の誕生と同じ時期に創立し60周年を迎えた旭川実業高校のエンジニアサークルが挑むことになった。当時、コロナを量販した旭川トヨペットから技術指導を仰ぎながら、名車をよみがえらせる。

サビだらけのコロナ これ以上の教材はない
 現在、道内高校で唯一、自動車科を擁する旭川実業高校(相馬真吾校長)。
1960(昭和35)年の創立以来60年の歴史を刻んでいるが、その自動車実習工場に11月6日、無事搬入されたのがサビだらけのコロナだった。「えー、ウソでしょう?」「サビまくっててヤバイ感じ。けど、これはこれで味があっていいかも」「こんな状態だからこそ、新鮮といえば新鮮」…。
 エンジニアサークルの男子生徒たちはコロナを前に興味津々。目を輝かせながら、ボンネットを開けてエンジンルームをじっくり覗いたり、運転席に座りハンドルの感触を確かめたり。サビだけでなく、至る所にヘコミを見つけては「これなら直しがいがある」と苦笑する生徒の姿も。隅々にまで目を凝らして「これ以上、勉強になる教材はない」とメンバー全員が意気投合。その横で同科の青山亮介教諭が「私のわがままから始まったんです」とつぶやき、名車復活プロジェクトはこうして始まった。
 この3代目コロナは、1967年ごろ製造されたRT40型。三笠市内のある会社が所有していたが、使うあてがなく道路脇に野ざらしにされていた。ボディー全体サビだらけでヘコミが多くエンジンも全くかからない。
 だが、「自動車整備士を目指すエンジニアサークルの生徒たちにとっては、願ってもない教材になる」とコロナに目をつけたのが青山教諭。授業の実習では行えないだけに「わくわく、ドキドキ感が湧いてくる」とチャレンジに踏み切った。

10万㌔連続走行テスト 崖からの 落下にも耐える
 かつてトヨタが誇った〝伝説〟の3代目コロナ。先代の弱点を補強し改良版2R型エンジンを搭載して、東京五輪開幕直前の64年9月にデビューを果たした。発売後、開通したばかりの名神高速道路で「10万㌔連続走行テスト」を公開。最高速の140㌔もアピールしながら、日産が生み出した進化系のダットサン(ブルーバード)に挑み、「B・C戦争」と呼ばれた販売競争が加熱した。
 65年1月にはトップセラーの座を獲得。海外にも進出し、67年に8万台超が輸出されると、日本車の輸出台数の新記録を達成するほどの人気を集めた。以降、海外でも通用する初の乗用車として、68年に同じトヨタから登場した「カローラ」に首位を譲るまでコロナが独走。その性能と耐久性はファミリー層を中心に国内外で高く評価された。
 「崖の上から落としても壊れない、とPRしたテレビCMが話題を集め、高度経済成長期にトヨペットという会社をあそこまで大きくできたのは、コロナのおかげ。旭川トヨペットについても同様で、コロナ抜きに国産自動車は語れない」(旭川市内の自動車通)。そう語るほど自動車業界で一世を風靡した名車だ。

レストア作業は動画に 〝夏休み出勤〟あるかも
 RT40は教材としても魅力的だ。日本の自動車産業が飛躍的に成長した時代の車種ではあるが、現代の車種のように構造が複雑でなく、コンピュータ制御でもないため、自動車の基本的なしくみが学べる。このプロジェクトにあたっては、同科の川上訓弘教諭ほか旭川トヨペットのスタッフが「レストア」技術指導に携わっている。
 ちなみにレストアとは、老朽化などの理由により、劣化もしくは故障した物を修復し復活させること。青山教諭によると、「製造時期から年数がある程度経ったビンテージモデルなどを復活や保存したりすることを目的に修復・復元することなのです」。
 エンジニアサークルの伊藤優大君(3年)は、コロナを前に「車好きの絶滅危惧種。昔の車には顔から何まで味があった。卒業してからも2連休か3連休ぐらいあったら、手伝いに来ますよ」。そう言いながらコロナをじっくりと眺めていた。
 名車復活プロジェクトは2年ほどの時間をかけてレストア作業に取り組み、完成後には札幌モーターショーなどに出品し、旭川トヨペット本社に展示する予定だ。レストア作業の途中過程は動画配信サイト「ユーチューブ」同校公式チャンネルで配信。エンジニアサークルのメンバーは「どこまできれいに直せるか。〝夏休み出勤〟があるかも」と意欲満々だ。

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この記事は月刊北海道経済2021年01月号に掲載されています。
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