吉田病院で何が起きたのか?

 いま、日本で最も有名な民間病院は「慶友会吉田病院」だろう。12月7日までに187人が新型コロナウイルスに感染。吉田良子理事長が行政や旭川医大を批判する異例の声明も全国的な注目を集め、前例のない自衛隊への災害派遣要請も決まった。しかし、旭川市内で有数の規模を誇る民間病院である吉田病院で、なぜここまで大規模なクラスターが発生したのか。不運な面もあったとはいえ、判断ミスや対応の不備で初動に失敗したのは確かだ。吉田病院の事例は、今後の感染症対策に貴重な教訓を残したともいえる。生々しい内部証言も得て、吉田病院での感染拡大の経緯を振り返る─。

理事長補佐は感染症の専門家
 慶友会吉田病院では、いまこの瞬間も医師・看護師を中心とするスタッフが、目の前にいる患者の命を救うために懸命な努力を続けている。最初の感染者が報告されたのは11月6日。以来、一度も休みを取れず、疲労困憊した体、極度に緊張した心理状態で働き続ける看護師もいる。
 外と人の出入りがある限り、新型コロナウイルスに感染するリスクをゼロにすることはできない。吉田病院のような大型の施設の場合、少人数の感染は時間の問題だったと言える。高齢の入院患者、しかも基礎疾患がある人が多いというこの病院の特性も影響した。しかし、本誌が取材した吉田病院外部の医師は例外なく、初動が完全な失敗だったとの見方を示し、「初動の段階で適切な対応ができていれば、吉田病院でも、その後の厚生病院でも、ここまでの事態にはならなかった」などと異口同音に語る。
 基幹病院ほどではないにせよ、吉田病院はコロナに対応する上で好条件も備えていた。まず、理事長補佐を務める呼吸器科の医師は現在も旭川医大の名誉教授を務め、呼吸器センター教授、感染制御部のトップを務めたこともあった。
 吉田病院には感染管理の認定看護師も在籍している。感染拡大防止のための専門的な知識や技術を備えたプロフェッショナルだ。こうした状況から吉田病院はコロナ対応に自信を持っていたのか、患者数に応じた補助金を政府から受給できる発熱外来を11月から開始していた。その準備に集中するあまり、病棟内の感染リスクへの対策を怠っていたのか、との疑問が沸く。

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この続きは月刊北海道経済2021年01月号でお読み下さい。
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