コロナ禍が招く「大廃業時代」

 市民に親しまれた「旭川健康ランド」が閉館。タクシー会社「すずらん交通」は、業績回復が見込めないとして従業員54人を解雇し休業に入った。名寄市の「村上自動車」も11月末日で従業員を解雇し廃業した。新型コロナウイルス感染拡大で経済活動が停滞し、休廃業が相次いでいる。「大廃業時代が迫っている」との、企業信用調査機関の予測が不気味だ。

利用者回復せず
 30年にわたって親しまれた旭川市春光の「旭川健康ランド」が11月いっぱいで閉店した。近隣住民、町内会、企業の利用も多かっただけに惜しむ声は多い。「浴槽がいくつもあり泉質もいろいろで、中では漢方薬湯が私はとくに気に入っていた。休憩施設もゆったりしていて食事のメニューは豊富で美味しかった。閉店は本当に残念だ」(60代の男性市民)
 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、旭川健康ランドは4月に一時休館し、5月になって営業時間や館内サービスを制限して再開。7月からは24時間営業に戻した。落ち込んだ利用者は回復傾向にあったが、浴場だけの利用が多く、主力の宴会や宿泊客は戻らなかった。設備の更新時期を迎えていたこともあって運営する㈱アサヒHLでは「営業継続は厳しい」と閉館を決断した。11月末で営業を終了し、従業員約50人は解雇となった。

旭川健康ランド

 市内銭湯の経営者が話す。「コロナで経済活動が停滞し業績が落ち込んでいる企業や商店が多い。経済的な不安から風呂代も節約傾向で、市内の銭湯の利用者は2割強減っている。知り合いの大型温浴施設のスタッフに聞いたところでは〝コロナ前に比べて来場者は3割位減っている〟とのことで、銭湯同様に経営は苦しくなっている。永山にある温浴施設『大雪乃湯』も年明け1月に閉館するようだ」
 コロナ感染拡大の影響はタクシー業界にも及ぶ。旭川市春光にある老舗のタクシー会社「すずらん交通」は11月16日、従業員54人に対し同日付で解雇通知書を送付した。
 タクシー37台を運行していた同社は、新型コロナウイルス感染拡大の影響から売り上げが大幅に減り5月から休業していたが、経営が成り立つ売り上げ数字への回復が見込めないと、従業員の解雇を決断した。ただし、再開も視野に入れ「廃業ではなく、しばらくの間休業」としている。
 新型コロナ感染拡大が本格化した2月下旬以降、旭川市内のタクシー事業者は売り上げ減に悩んでいる。個人タクシーの運転手は「4月が底で夏以降回復してきた。以前の7割程度まで戻った感じがしていたが、11月に入って吉田病院、厚生病院とクラスターが発生したことで乗客が再び減少。さんろくなど夜間の利用は特に減った」と苦渋の表情で話す。
 北海道運輸局によると、コロナによる利用者減少で廃業した道内のタクシー事業者は11月中旬現在で法人2社、福祉タクシー2社、個人1人。また、休業している法人は5社で、個人は41人に達している。

忘年会消える?
 道北一の歓楽街、さんろくは師走に入って忘年会などでにぎわいを見せ始める時期だが、週末になっても人影は少ない。
 飲食店の女性経営者はこう嘆く。「GoToなどの影響もあって夏以降、少しずつ客足は戻っていた。10月に入って旭川でも新規感染者が増え、新聞やテレビで報じられると客足がピタッと途絶え、数日たつとボツボツ戻るくり返し。しかし11月以降は一気にさんろくを訪れる人がいなくなった。飲み会を禁止している会社も多いようで、会社員が顔を出さなくなった。高齢のお客さんは感染を怖がって飲みにこない。〝今年は忘年会をする会社はない〟 とも言われているし、年の瀬を乗り越えて来年も営業を続けていられるかとても不安だ」
 企業の信用調査を行う「東京商工リサーチ」が11月19日に全国の企業を対象に緊急の「忘・新年会に関するアンケート」を実施した。
 有効回答は1万0059社で、そのうち何と9割の企業が「忘・新年会は開催しない予定」と答えた。
 北海道を少し詳しくみると、有効回答は589社。「昨年開催し今年も開催」としたのは6.79%にあたる40社にとどまり、。「昨年は開催したが今年は行わない」が71.14%、419社に達し、「昨年も今年も開催しない」が21.90%の129社もあった。
 「昨年開催、今年不開催」「昨年も今年も開催しない」を合わせると実に93%、548社に達する。緊急アンケートの結果からは、コロナ感染拡大が続く今年は、師走の風物詩・忘年会が歓楽街から消滅してしまう、飲食店経営者にとって空恐ろしい事態が予想されるといえそうだ。
 女性経営者が続ける。「いっそのこと、国や道が休業支援金を伴う休業要請をしてくれた方が助かる。年末年始は飲食店にとって最大の稼ぎ時だが、収入はなくなり支援は得られないとなればさんろくで閉店、倒産が相次ぐ」。

経営マインド下降
 道北の企業倒産は2011年9月から9年余り、ひと桁台で推移してきている。経営規模が縮小する状況下で、積極的な投資を避けて身の丈にあった企業経営が続き、金融機関もこれを支えてきた。
 新型コロナウイルスが猛威を振るう状況下でも、政府の資金繰り支援策があることで多くの企業が踏みとどまっているが、しかし、倒産として集計されない休廃業・解散は、全国で今年1月から10月までの間に4万3800件をカウントした。すでに昨年の4万3300件を超えており、近年最多の18年4万6700件をも上回っている。旅行や飲食業が目立つが、小売業や建設業も増えてきた。
 旭川健康ランドが廃業した11月末日、名寄市の老舗自動車整備業「村上自動車工業」も事業をストップさせた。無借金経営で健全性を維持してきたが、コロナ感染拡大で新車市場・中古車市場共に縮小が見込まれることから「余力のあるうちの事業休止」に至った。コロナ終息が見えず、経営者が事業を続ける意欲を失う〝コロナ廃業〟の増加〟が危惧される。

表紙2101
この記事は月刊北海道経済2021年01月号に掲載されています。
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