深川市立病院の深い闇

 深川市立病院の放射線技師・男性Aさん(47)が、職場におけるパワハラを理由に訓告処分を受け、その後、同病院の事務職への不当な異動を命じられた。この一件の背景には同病院放射線課職員による業者との癒着疑惑があったため、共産党議員が市議会で取り上げるほどの大きな問題となったが、追及を受けた行政側は逃げの一手で真摯な対応が見られなかったため、問題の全容解明は年明け後に引き継がれることになった。

怒りに燃えるベテラン議員
 深川市立病院放射線課の不可解な問題が表面化したのは昨年12月8日に開会した定例市議会の初日、北名照美議員(77)による一般質問からだった。北名議員は共産党深川市 委員長を務める一方で通算10期、市議に当選しているベテラン議員。議会では一人会派だが市民からの相談件数も多く、頼りがいのある議員として期待され、高齢にムチ打って活動している。
 その北名議員が今回の一連の問題の主人公ともいえる市立病院勤務の男性放射線技師Aさんから相談を受けたのは昨年11月。北名議員は、聞けば聞くほどAさんへの同情もさることながら、市立病院内で起きていた組織ぐるみの不当処分に怒りが込み上げてきた。
 北名議員が行った議会質問と本誌記者がAさんから直接聞いた話を総合すると問題の全容はおおよそ以下のようなことになる。

観戦チケット手配できますか?
 まず、一昨年の5月から6月にかけて、市立病院のネットワークシステムを使ったメールで診療放射線課のS課長と、病院の取引企業であるF電機営業本部のN氏との間で次のようなやり取りがあった。ことの発端となったのはこのメールの中身なのである。
【2019年5月24日12:18、F電機N様】
 日頃よりお世話になっています。深川市立病院放射線課のSです。
 以前、お持ちいただいた日本ハム戦につきまして、当スタッフが、観戦したいとのことですが、空き状況はどうでしょうか?7月20日㈯対ロッテです。
 可能でございましたら、2名から4名(ペアシート1席か2席)でお願いいたしたく連絡をさせていただきました。また、費用はかかりますでしょうか?
 大変お忙しいところ申し訳ありませんが、連絡をお願いいたします。

【2019年6月11日15:57 N 日ハム観戦について 深川市立病院診療放射線課 S様】
 いつもお世話になっております。F電機のNです。この度は回答が遅くなりまして申し訳ございませんでした。
 大変申し訳ございませんが、ご依頼いただきました7月20日㈯対ロッテ戦ですが、申し込みしていたのですが取れませんでした。
 費用につきましては無料にてチケット手配させていただきます。
 この度は対応できませんでしたが、別日にて予定がございましたら改めてご連絡いただければと思います。
 どうぞよろしくお願いいたします。

Aさんの告発で2人が訓告処分
 F電機は日ハムのオフィシャルスポンサー。観戦チケットの手配も比較的容易にできるのだろう。このメールのやり取りから判断できるのは、これが初めての〝お願い〟ではなさそうということと、「また、費用はかかりますでしょうか?」との言い回しには、以前にはタダでもらったことがあるとの含みも感じられる。
 今回はチケットの手配はできなったが、別の機会があれば「費用につきましては無料にてチケット手配させていただきます」とF電機が書き添えていることから想像すれば、案外こうしたことが常態化していたのではないかとも考えられる。
 チケット料金は一人2000円程度だとして、例えば4名でも1万円あればお釣りがくる。今時決して高額とは言えないが、金額の多い少ないではない。公的機関が取り引き業者とこういったやり取りをすること自体がすでに公務員の倫理規定に違反している行為なのである。
 野球観戦チケットの手配を業者に依頼した内容のメールは病院内の人なら簡単に見ることができる。放射線技師のAさんもこのメールのやり取りに気付いた。正義感の強いAさんは、プリンターで印刷していた〝証拠〟を見せ、病院の責任者である吉田博昭事務部長に会議の場で報告した。
 報告を受けた吉田事務長はその後、「関係職員及び利害関係者などすべての関係者から事情調査し、事実関係を十分確認したうえで、その結果に基づき厳正に対処した」(議会答弁より)という流れになり、業者とメールのやり取りをしていた放射線課のS課長とⅠ課長補佐の二人が訓告処分を受けることになった。
 訓告は国家公務員法や地方公務員法が定めている懲戒処分(免職・停職・減給・戒告)とは異なり、法律上の処罰にならない比較的軽い実務上の処分で、昇給や昇格には影響がない。公務員の中では最も軽い処分である。
 しかしどうやらこの時の内部措置が、告発者Aさんに対する組織的?な報復につながっていったように見受けられるのである。

パワハラで訓告 事務職への異動
 放射線課の課長と課長補佐が訓告処分を受けてから1年が過ぎたころの昨年9月24日、今度は告発者のAさんがいわれのない訓告処分を受けることになった。
 処分の理由は「部下にパワハラをはたらいた」とするもので、それと同時にAさんには市立病院内の事務職への異動が発令された。異動を命じたのは吉田事務長とT診療技術部長で、理由は「診療放射線課の職場環境を改善するため」であり、パワハラ問題とは切り分けて考えてほしいとも言われた。
 Aさんは1996年に診療放射線技師として市立病院に採用され、それから25年間、一貫して技師の業務を担ってきた。突然「事務職への異動を命じる」と言われても納得できる話ではない。
 強い衝撃と不安や不眠など精神的症状が発症したことから9月下旬には職場へ出られる状況でなくなり、10月1日の異動発令日からは3ヵ月間の療養休暇に入っている。
 Aさんは、自分が上司の公務員の倫理規定違反を告発したことにより職場の一部から反発を招き、思い当たることもないH主査とO技師へのパワハラを理由に訓告の処分を受け、同時に自分を追い込むために事務部への異動を命じた組織的な嫌がらせ、報復措置だと感じている。

業務上の注意がパワハラと認定
 実際、パワハラなどありえない。確かにAさんは勝気な性格であることは自分でも認めている。しかしそれは正義感の裏返しでもある。上司とはいえ、取引業者とプロ野球観戦チケットの〝おねだり〟をメールでやり取りしていたとすれば、目をつぶって見過ごすわけにはいかない。
 パワハラだと指摘された一件についても、業者との癒着疑惑で訓告を受けることになったS課長とⅠ課長補佐を擁護しようとしたH主査に対し、同主査が市立病院野球部監督時代に職員互助会からの補助金を2重帳簿を作ってごまかしているのではないかということを注意し「襟を正しなさい」と指導したことがハラスメントだとされたようで、とても納得できるものではない。
 もう一つ、パワハラと認定されたO技師補の件についても同じ。もともと自分に反感を持っていたと思われるO技師補が業務中に私語が多かったのを咎め、「業務態度を改めるように注意してほしい」と上職に相談したことが度々あった。しかし上職がO技師補を指導した様子もなく、逆にAさんによるO技師補へのパワハラということになってしまった。
 正義感や業務上の指導や注意が訓告、異動となってしまうようでは道理に合わない。客観的にどう見ても、市立病院がAさんに取った一連の行為は、組織的な内部告発者つぶしとしか考えようがない。

公平委員会にも労組にも見放され
 しかも、訓告処分にも事務部への異動にも納得できないAさんが10月7日に深川市公平委員会へ提出した異動の撤回を求める「措置請求書」や、パワハラ認定や異動の取り消しを求める「不服申立書」は、本人の事情聴取も行われないまま却下された。
 却下の理由については、異動については「任命権者の責任と権限において職員の定数や職務の内容、職員の経歴・能力等を総合的に考慮して行われた人事権の行使であり、給料の変更もなく、措置請求の対象とはならない」とあり、訓告処分については「法律上の権利義務関係に直接的に変動をもたらさない」として、一般的には解釈の難しい言い回しで、公平委員会の江下憲彰委員長から突き返された。
 地方公共団体の公平委員会は、職員の勤務条件に関する措置の要求や職員に対する不利益処分を審査し、必要な措置を講ずることを職務とする行政委員会で、あくまでも〝公平〟でなければならないのだが、申立人から一言も聴取しないで結論を出すことが、本当に公平委員会の名に値するものなのか。
 Aさんはまた、人事異動が不当なものだとして深川市職員労働組合にも文書で助けを求めている。同組合執行部がどういう議論をしたのかわからないが、11月2日付で届いた回答には「人事異動につきましては、市当局の管理運営事項となりますので、当組合が同意や承諾をする内容ではありません」とあり、およそ労働組合らしからぬ冷たい対応に徹している。
 どうやらAさんは、市立病院にも公平委員会にも労働組合にも見放された格好だ。

処置は適正に終了しているが非公表
 では、市の対応はどうなのか。12月8日の市議会一般質問における北名議員の質問と理事者側(市立病院)の答弁をかいつまんで紹介してみる。
 北名議員 放射線課と業者とのメールのやり取りについて、どのような調査をし、どのような処分をしたのか。
 吉田事務部長 野球のチケットをめぐる件についは、当院で適正に対応して処置を終了している。その内容についてはこれまでの市の取り扱いに準じ、非公表として取り扱わなければならないと考えているので、答弁は控えさせていただく。
 当院としては関係職員及び利害関係者などすべての関係者から事情調査し、事実関係を十分確認したうえで、その結果に基づき厳正に対処しているのでご理解いただきたい。この件については市長にも報告済みの案件となっている。
 北名議員 Aさんのハラスメントによる訓告処分、事務部門への異動についてはどのように判断したものなのか。
 吉田事務部長 パワハラについては個人のプライバシーや、これまでの市の取り扱いに準じ、非公表とさせていただきたい。
 異動に関しては、診療技術部から事務部への異動だが、職種の変更を伴うものではなく、また、一定期間の異動と考えているので問題はないものと判断している。その違法性についても複数の弁護士に確認をするなどして決定したもの。これまでも看護部から職種を変更せず、事務部へ異動し、その職種能力を活かし業務遂行している職員の例は多数あり、適正な人事と考えている。
 今回の異動については事務部門の人員が不足しており、医療職としての専門知識を必要とする事務的業務を担う人材が必要であったもので、技術部門が脆弱化しないよう必要に応じて他の機関より職員の派遣を受けるなどして診療に支障が生じないよう対応しているところだ。

かみついた共産・北名議員
 何もかも適正に処置しており、その内容については非公開とすると突っぱねた市立病院の責任者である吉田事務部長。早川雅典副市長も同様の発言をしている。
 Aさんから相談を受け義憤に燃えた北名議員は質問の冒頭で次のようにかみついている。
 ─深川市職員の公務員倫理に関する規則というのがあってそこには「職員は常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自らが属する組織の私的利益のために用いてはならない」。そして禁止事項として「利害関係者から金銭物品、または不動産の贈与を受けてはならない」「利害関係者からまたは利害関係者の負担により無償で物品、または不動産の貸し付けを受けてはならない」。野球のチケットはまさにこの禁止事項そのものではないか。
 Aさんは、不正を指摘した、そのことに対する組織ぐるみの報復だと言っております。邪魔者は(消す)、誇りを持ってやってきた部署での仕事を奪う、そういうことではないかと言っており、私もそう考えます。こういうことが公務労働の現場で許されていいのか─
 そして再調査を求める北名議員に対しては「再調査については、われわれ内部で厳正に調査したが、改めて関与した職員から再度聞き取りをするなど、必要性があると認められれば対応していきたい」(吉田事務部長)と殊勝に答えるのが精いっぱいだった。
 しかし、事務部門への異動についてはあくまでも「職場環境の改善を図ることを通じて医療提供体制を確立し、住民の皆様に適切な医療を提供するために当院として判断した」と適正であったことを繰り返し述べるだけだった。

常任委員会で真相解明へ
 それにしても業者に野球チケットの購入を依頼し、明らかな公務員倫理規定に反した複数の職員が、訓告という甘い処分で終わったのはなぜなのか。
 早川雅典副市長は「野球観戦チケットにかかる案件は事業者や当該職員双方が、公務員倫理に反する行為であることに事前に気が付いており、実際にはチケットの授受は行われていない」と今回の件が〝未遂〟だったことが軽い処分の理由と答弁しているが、過去がどうだったかについては一切触れていない。
 9月下旬以降、自宅療養を続けるAさんは「私はハメられたようなもの。正々堂々とアクションを起こすつもりだが、審判がおかしい組織の中で戦うのだから、自分の精神が持つかどうか…」と複雑な表情で話している。
 一方、市議会の厚生文教常任委員会(定数7人)では昨年12月11日、Aさんに関わる一連の問題を所管事務調査に加えることを決議し、3月議会に向けて真相解明を急ぐ構えを見せている。
 同委員会のメンバーは委員長が松本雅祐氏(公明党)、副委員長が大前昭代氏(民主ク)、委員が北村薫氏(公正ク)、山本時雄氏(令和公明ク)、佐々木一夫氏(新政ク)、辻本智氏(一人会派)といった構成になっているが、Aさんに辛い思いを味あわせた労働組合と近い議員もいることから、真相解明にどれだけ真正面から取り組めるか。議会の良識が問われるところだ。

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この記事は月刊北海道経済2021年02月号に掲載されています。
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