コンサート会場で「ワクチン危険」の荒唐無稽ビラ

旭川市内でも3月のうちに医療従事者への新型コロナワクチンの接種が始まる見通し。高齢者を対象にした接種も順次始まることになっている。一方で少数ながらワクチンの安全性に不安を抱く人も存在し、中にはワクチンの危険性を訴える「実力行使」に訴えた人もいる。新型コロナの犠牲者増加を抑えるためには、ワクチン以外に方法がないのも事実。科学者や医師だけでなく、感染のリスクがあるすべての人が合理的な判断が求められていると言えそうだ。

科学的な知見は無視
 2月20日夜、市内の音楽家が大雪クリスタルホールでコンサートを開いた。入場制限で感染リスクを最小限に抑えた上での開催だったが、思わぬ乱入者が現れた。ロビーに主催者でも観客でもない人物が入り、「コロナのワクチンは危険!」などと書かれたA4サイズのビラを配ったのだ。そばにいた人には困惑の空気が広がったものの、この人物は気にする様子もなくビラを配り続けたという。
 問題のチラシはパソコンとプリンタで作成したものとみられ、「どうか、打たないで!特に医療従事者の方!!」との見出しも踊る。常識では理解不能な内容も多く、「ウィルスが『感染する』唯一の方法がワクチンなのです」との記載もある。
 チラシには作成した人、配った人の名前は書いていないが「このチラシは社会貢献のため無償で作成しました」とある。本人は善意のつもりでも、「地獄への道は善意で舗装されている」との格言を思い出さずにはいられない。

トランプ氏も懐疑派
 新型コロナに限らず、ワクチンの危険性をことさらに強調して接種を受けないよう呼びかけるワクチン反対派は世界中にいるが、彼らは大きな矛盾を抱えている。ワクチンがなければ、いま生きている人のうちかなりの部分が病気で早死にしていたはずで、ワクチン反対派やその家族もワクチンの恩恵に与っているということだ。
 今野大力(詩人)、新美南吉(作家、「ごん狐」)、樋口一葉(作家、「たけくらべ」)、高村智恵子(彫刻家・高村光太郎の妻)、竹久夢二(画家)、正岡子規(俳人)…。彼らには、肺結核で死亡したという共通点がある。BCGワクチンが発明されるまで、肺結核による死亡はありふれた死のかたちだった。いま肺結核で他界する人はほとんどいなくなったのは、ワクチンのおかげだ。ポリオ、天然痘、日本脳炎など、ワクチン接種で脅威が小さくなった病気はいくらでもある。これらの病気にかかる人が激減し、ワクチンの社会的な意義が見かけ上小さくなり、「ワクチンは危険だから打たないで」といった主張が一部で支持を集めるという皮肉な現象が起きている。
 ワクチン反対派は有名人の中にもいる。たとえば米国のトランプ前大統領。ツイッターなどで「接種を受けた子供が自閉症になっている」といった科学的根拠のない主張を展開した(にも関わらず、退任直前に新型コロナワクチンの接種を受けていたことが最近になり報じられた)。
 ワクチンに関する根拠のない情報が広がる背景にはネットの普及がある。1995年ごろまで、新聞や雑誌、テレビ、ラジオなど既存媒体を通じて情報を発信するのは敷居が高かったが、ネットの普及で「参入障壁」がなくなった。いまではスマホ一つでSNSに参加して誰でも世界に向けて独自の見解をアピールできる。大衆の恐怖心をあおるような過激な内容なら、一晩のうちに数万人、数十万人の読者や聴衆を集めることも珍しくない。
 ネットでは読む側、見る側が自分と同じ意見のコンテンツを選択することができる。ワクチンの危険性を指摘する情報には信奉者が群がり、彼らはますます深みにはまっていく。
 有名人の言説やネットを通じて流布する情報も影響しているのか、本誌が1月末に行ったアンケート調査でも新型コロナワクチンを打たないと答えた人は約15%、複数回答方式でその理由を尋ねたところ、62%が「効果があるかわからない」、76%が「副作用が怖い」を挙げた。

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この続きは月刊北海道経済2021年04月号でお読み下さい。
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