ウクライナ侵攻 旭川経済に影響じわり

 ロシア軍がウクライナに攻め入った。世界的な批判の声や厳しい経済制裁にもかかわらず、プーチン政権は攻勢を緩めておらず、死傷者の数は増える一方。和平への道筋はまったく見えない。北海道にとりロシアは「最も近い外国」だが、旭川市内の企業や経済活動にも影響が及び始めている。(記事は3月3日現在)

隠れた輸出品
 あまり知られていない旭川市の「輸出品」が自動車部品。整備のレベルが高い日本の中古車や中古部品は海外で人気があり、海のない旭川でも複数の企業が仕入れた中古車を分解、コンテナに積み込んで船で輸出してきた。かつてはマレーシア、ドバイ、極東ロシア(ウラジオストクとサハリン)が三大輸出先だったが、マレーシアとは価格交渉が折り合わず取引の規模が縮小し、ドバイと極東ロシアが主要輸出先となっていた。
 ウクライナへの軍事侵攻が始まったのは2月24日。それからしばらくは輸出継続の見通しが立っていて、コンテナへの積み込み作業を続けていた。ところが3月に入ると状況が一転して悪化。先行きがまったく見えないことから、すでにコンテナに積み込んでいた商品を外に出し、コンテナを返却することになった。
 輸出を妨げている要因は、苫小牧─横浜─ウラジオストクの航路の維持が難しくなっているということだ。いまのところ日本政府から部品輸出が経済制裁の対象に指定されているわけではないのだが、商品を顧客のいる国まで運ぶ手段がなければ、取引は成立しない。
 ある業界関係者は、取引のため日常的にウラジオストクやサハリンの取引相手と連絡しており、極東ロシアの経済の混乱ぶりを聞いている。ルーブルの急落の影響で部品は少なくとも30%値上がりする見通し。経済制裁で収入が減少すれば買い手がつかない恐れもあり、現地の商社の中には仕入れの中止を検討しているところもある。
 売り手側から見れば、商品代金が回収できるかどうか、不透明感が強まっている。代金前請けでリスクを回避したいところだが、輸出入の手続き上、それは難しいという。
 「先行きが読めない。良くなるにせよ、悪くなるにせよ、一日も早く状況がはっきりすることを望んでいる」とは業界関係者の弁。

当面ガスに影響なし
 北海道がまとめた道とロシアの貿易状況(2020年)によれば、道からロシアの輸出のうちかなりの部分を占めるのが中古車や自動車の部品。一方、輸入は海産物と鉱物資源がほとんど。より具体的な品目に注目すれば、鉱物資源は天然ガス、石炭、海産物はウニ、イクラ、冷凍エビ、冷凍カニ、冷凍イカなどが多い。
 ㈱キョクイチに電話取材したところ「扱っている海産物の大半は国産であり、影響は限定的」とのこと。しかし、日本全体でみれば2019年の日本のカニ輸入額649億円のうちロシア産は59・8%を占めていた。飲食店や一般家庭向けのカニの販売への影響が懸念される。
 ロシア産天然ガスの北海道への輸入額(2020年)は197億円で、石狩港にある北海道ガスのLNG陸揚げ施設ではサハリンで産出された天然ガスが陸揚げされている。サハリンのガス事業「サハリン2」には、日本から三井物産や三菱商事が参加しているが、英ロイヤルダッチシェルはすでに撤退を発表しており、三井・三菱も撤退を検討中と伝えられている。サハリンからのLNG輸入がストップしたり、値上がりしたりすれば、道央地区を中心に影響が広がるのは確実だ。なお、旭川ガスでは「ガス供給元との契約で仕入れ先などについては明らかにできない部分があるが、短期的な影響はない」と説明している。
 情勢の変化のおかげで大きな影響を受けずに済んだのが木材だ。厳寒の地で育つ極東ロシアの木は木目の狂いが少なく、高く評価されており、ロシアにとり日本はソ連時代から有力な原木の輸出先だった。しかし、中国企業の参入で乱伐と森林荒廃が進んだころから、ロシアで森林伐採が厳しく規制されるようになり、輸入量は大幅に減少。2020年の木材(木材製品・木炭含む)の輸入額は14億円あまりと、天然ガスや海産物に比べればごくわずかで、今後輸入が滞るとしても影響はほとんどないと予想される。

現地の情報錯綜
 サハリン最大の都市、ユジノサハリンスクは旭川市の友好都市。1967年に提携が実現し、2017年には提携50周年を迎え、さまざまな記念事業が行われた。それ以降も代表団の受け入れ、青少年交流が続けられ、2020年1月には青少年交流訪問団13人が派遣されている。一時期、旭川市にはロシア人職員も勤務し、交流に関する仕事を担当していた。コロナの影響で人的な交流はこの2年間、ほぼ休止状態となっているが、ウクライナ軍事侵攻が都市間交流にも影響を及ぼすのは避けられそうもない。また、稚内市はサハリン事務所を持っているが、ロシアの大手銀行が国際金融システムから排除されたことを受け、事務所維持の費用が送金できなくなり、事務所維持が困難になっている。
 極東ロシアとの関わりが深い人物によれば、現地のロシア人の中には電話で軍事侵攻を痛烈に批判する人もいれば、厳しく統制された現地での報道を信じられず、ただただ困惑している人も。経済制裁の打撃を最初に受けるのは一般庶民だ。
 日ロ交流に関わるすべての人が、犠牲がこれ以上増えず、事態が平和的解決に向かうことを切望している。

表紙2204
この記事は月刊北海道経済2022年04月号に掲載されています。
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