再調査委設置にいじめと死亡の因果関係諮問

旭川市内の公園で昨年3月、凍死体で見つかった市立中学2年の広瀬爽彩(さあや)さん(当時14)がいじめを受けていたとされる問題で、遺族の意向を受け今津寛介市長が設置する再調査委が12月22日、初会合を開く。いじめと死亡の因果関係などを諮問し、2023年内を目途に答申したい考えだ。冷たい雪の上に身を横たえた少女の思いを掬(すく)い、旭川市・社会全体で共有すべき課題を掘り起こすことができるか否かが焦点で、真相解明をいじめと自死の因果関係の有無に収れんした調査では、不十分な成果となりかねない。(記事は2022年12月12日現在)

尾木氏ら5人で構成
 旭川市は当初、再調査委を11月中に設置・初会合を開く予定だったが、委員の選任が難航した。再調査委は発達教育学や児童の精神・心理学、いじめ問題に精通した弁護士ら有識者5人で構成する。
 委員に内定しているのは伊東亜矢子(弁護士)、尾木直樹(教育評論家・法政大学名誉教授)、斎藤環(筑波大学医学医療系社会精神保健学教授・精神科医)、仲真紀子(理化学研究所理事・立命館大学総合心理学部教授)、野村武司(東京経済大学現代法学部教授・弁護士)の5氏。このうちもっとも著名なのが尾木氏(75)。中学教師・大学教員など計44年間教壇に立った経験を持つ。岐阜県可児市の「いじめ防止専門委員会」特別顧問、大津市の中学校いじめ問題で第三者委員会委員などを歴任した。
 今津市長は再調査委に▽いじめの事実関係の再検証▽認定されたいじめと死亡の関連性の再検証▽再検証を踏まえての再発防止策の評価─の3項目を柱に諮問する。
 再調査委の設置について、今津市長は11月にあった旭川市総合教育会議で、「もうこのような悲しい事態を二度と起こさないよういじめ防止対策の充実を図ることが私共に課せられた使命である」と述べ、第三者委の調査報告書を精査し、遺族の意向も考慮した結果、再調査が必要との認識をあらためて示した。
 再調査委を所管する子育て支援課も市総合教育会議で、第三者委員会の調査報告書について、「ご遺族の所見書の分析を踏まえ、十分な調査が尽くされていないと判断した」との見解を委員に伝えた。
 再調査委は、いじめ防止対策推進法のいじめの定義を明記した条文の一節、《心理的又は物理的な影響を与える行為》をどのように解釈するのかを教育・法律の観点から再評価し、第三者委員会のいじめの認定の再検証をする。第三者委員会が、いじめ行為と爽彩さんの精神的症状の因果関係、精神・心理的症状と死亡の因果関係について明らかにするだけの情報がなかったことを理由に不明としたが、遺族の要請を踏まえ、いじめと死亡の因果関係も再検証する。再検証の結果を踏まえて再発防止策の再評価、追加の提言なども視野におく。

旭川市総合教育会議であいさつする今津市長

いじめ再発防止策旭川モデル構築を
 総合教育会議では、再調査に関し、公平性・中立性を担保して調査をし、丁寧な説明・報告を行うようある委員が求めた。今津市長は、調査報告書で示された市教委・学校に対する厳しい内容を「重く受け止めている」と述べたうえで、市教委が示した再発防止策について「市長部局と連携をし、さらに旭川モデルの構築に向けた旭川市全体の取り組みとなるよう検討を進めていただきたい」と要望した。再調査の実施について、「公平・中立、丁寧な説明を市民、議会に行いながら、先の第三者委員会で明らかにならなかったいじめと死亡の因果関係について徹底した再調査がなされることを期待したい」と遺族の意向に寄り添う姿勢を鮮明にした。
 野﨑幸宏教育長は「教育委員会として調査報告書の内容を厳粛に受け止めている。深く反省しなければならない。今後二度と同様のことが起こることがないように教育委員会自らが抜本的に改める姿勢で学校と一丸となっていじめ防止対策に全力で取り組む。いじめ防止条例(仮称)は、再調査の動向を踏まえて内容やスケジュールについて必要に応じて再検討をしていきたい。旭川市の児童・生徒が安心して学校生活が送れるようにしたい」と決意を語った。
 市教委は、第三者委員会の調査報告書を踏まえ再発防止策を総合教育会議で説明した。調査報告書は、爽彩さんへのいじめを認定をしたうえで、学校・市教委に対して対応の不備を厳しく指摘している。
 いじめの認知に至らなかったことについて、市教委は第三者委員会が認定したいじめの事実6項目のうち5項目を爽彩さんが市内の川にひざ下までつかる事案が発生して間もない時点で把握したが、直接聴取をしないでほしい、という母親の意向を尊重して爽彩さんの被害を直接確認できなかったことを認知の遅れの一つの要因に挙げた。性に関する事案が含まれていることもあり、広く事案が社会に流布されることで爽彩さんが精神的苦痛を負い人格形成に影響が及ぶことを考慮し、積極的にいじめと認知することに躊躇・逡巡する背景事情もあった。
 こうした背景事情からいじめの認知が遅れたことを踏まえ▽専門的知識を携え、上部組織として学校を適切に管理する体制構築▽いじめを正しく理解するための研修の継続的開催─を再発防止策に挙げた。
 重大事態として対応しなかったことをガイドライン違反にとどまらず法律違反にもなるとの厳しい指摘について「本事案の発生時には、重大事態の調査を行う組織体制が整備されていなかった」と自省し、「いつ、誰が、どのような手順で調査するのかなどの具体的なマニュアルはなかった」と組織体制の不備を認めた。

今津市長、野﨑教育長らがテーブルを囲んだ旭川市総合教育会議

重大事態に備えマニュアル作成へ
 こうした苦い教訓を踏まえ市教委は、国が示す「いじめ重大事態の調査に関するガイドライン」に則って「旭川市いじめ重大事態対応マニュアル」(仮称)を策定する意向を示した。
 学校への指導がぜい弱だったことへの指摘について市教委は「主体性をもって取り組むべきであった」とし、そうならなかった要因として、当時の教育指導課内の業務分担としていじめ対応は生徒指導担当者の業務の一部にすぎなかった点を挙げ、再発防止策として専属的に対応する組織を市教委内に設置することを検討している。さらに、外部の専門家らによる支援体制が構築されていなかった反省を踏まえ、重大事態が起きた際に学校に専門的な助言・指示・直接的支援ができる緊急支援チームの創設も再発防止策に盛り込んだ。予算措置が必要なものは今後市長部局と協議し調整を図る。
 学校の対応についても検証し、校内のいじめ対策組織が形骸化していたとの第三者委員会の指摘を受け、いじめの▽把握▽報告▽事実確認▽学校全体での情報共有▽家庭との情報共有─のシステムを確立する。加えて、学校と市教委が連携し、いじめなどの不適応行動への早期の発見・対応ができるよう組織的システムの構築を目指す。
 転校先への引き継ぎが十分ではなかったと第三者委から指摘されたことを踏まえ、幼・小・中・高校における情報を統一した様式で記録し、進学・転校先に引き継いでいく情報共有システムを確立することも盛り込んだ。
 旭川市・市教委には痛ましい今事案から社会全体で共有すべき課題を丁寧に掘り起こし、教訓として未来を担う旭川っ子に生かしていくことが求められる。それが冷たい雪に身を横たえた爽彩さんへのせめてものレクイエムとなる。

この記事は月刊北海道経済2023年1月号に掲載されています
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