強制競売決定 どうなる旭川アークヒルズビル

 「東京の企業が取得」と報道されたさんろくの飲食店ビル「アークヒルズビル」だが、実は6月2日に旭川地裁から強制競売開始決定が下されていた。債権者は、アコムの子会社で三菱UFJグループ「アイ・アール債権回収㈱」(東京都)。同じく「プリンス・ドリーム・カンパニー㈲」(旭川市)所有の「プリコタワーⅡ」も強制競売開始決定となっている。

アコム子会社
 アークヒルズビルは、さんろくのど真ん中、3条6丁目332番地1に建つ地下1階地上8階建ての飲食店ビル。
 もともとの所有者は「有限会社プリンス観光」で、2002年1月に「プリンス・ドリーム・カンパニー観光有限会社」(旭川市永山7条7丁目)に所有権が移転している。
 ドリーム・カンパニーは2000年8月に飲食店経営、不動産の賃貸業、ホテル経営、駐車場の経営を目的に設立され、代表取締役は松本教之氏。松本氏は、クラブやバー、スナック、居酒屋などを多店舗展開しさんろくを席捲(せっけん)したプリンス観光山崎博幸代表の下で幹部として活躍してきた。
 山崎代表の右腕ともいえるその松本氏所有のアークヒルズを、東京の企業が取得したとの報道が6月中旬に飛び出した。買い手は東証上場の不動産投資会社「㈱ランドネット」。
 ところが、アークヒルズは売却報道に先立つ6月2日に旭川地裁から「強制競売開始決定」を下されていたのだ。いわゆる差押えだ。申し立て債権者は、消費者金融アコムの子会社で三菱UFJファイナンシャルグループの「アイ・アール債権回収㈱」。債権買い取り、債権回収受託を業としている。

「売却してない」
 建物登記を見ると、留萌信金などの抵当権がついている。また、登記の「所有権に関する事項」には、09年と10年に旭川市が、11年には財務省の差押えがあったことが記されている(いずれも数ヵ月後に差押え登記は抹消)。
 通常、不動産を任意売却(自分の意思で売却)する際には、債務者と債権者が交渉して抵当権を外した後で、売買交渉・契約となる。買い手が東京の上場不動産投資企業だというのだから、当然、抵当権を外すというプロセスを経て買い取ったと思われる。しかし実際には、金融機関などから委託を受けまたは債権を譲り受けて債権の管理回収を行うサービサー(アイ・アール)がアークヒルズの債権者となっていて抵当権を行使。旭川地裁が「強制競売開始決定」を下した。
 実は「アークヒルズが東京の業者に売られた」との情報は5月下旬に出てきていた。「プリンス観光の山崎さんと東京の業者の間で話がまとまり、売買代金は1億800万円と決まった。手付金も支払われた」というものだった。
 事実なのかどうか、確認のため記者(本田)が5月30日に山崎氏の携帯に連絡を入れた。アークヒルズ売却に関する取材の電話だと知って驚いた様子だったが、山崎氏は次のように話した。
 「売却したとだれに聞いたのか。(言えないと答えると)ビル売却の話も確かにあったが、私が病気でずっと旭川医大に入院していて話は進んでいない、売却していない。今後売却の話がまとまったならあなたに必ず伝える」。
 こんな風に「売却が成立し手付金も支払われた」という話を完全否定した。そして、(今の段階で)記事にすることのないように─と釘を刺された。

取下げ手続き
 強制競売開始が決定されたのは、山崎氏と話した3日後の6月2日だった。同じ日に、やはりドリームカンパニーが所有する4条6丁目の地下2階地上6階建ての飲食店ビル「プリコタワーⅡ」も強制競売開始決定となった。債権者は同じくサービサーのアイ・アール。
 代表の松本氏に話を聞くため、携帯と事務所に何度も電話を入れたものの連絡は取れなかったが、6月22日に山崎氏と携帯で話をすることができた。
 「売却されたのは事実か」「ビル差押えにどう対応するのか」との質問に対する山崎氏の返答はこうだった。
 「こういう金額ならいいかなということにはなっていたが、しかし正式な売買契約は結んでいない。ああいうこと(ネットの不動産投資物件サイトへの掲載)は向こうが勝手にやったことだ。競売開始決定になっているが、弁護士を立てて取り下げ手続きをする。入居している飲食店には今後、経緯を説明する予定だ」
 債権者が競売を申し立て、裁判所が競売による債権の回収(担保物件の現金化)を許可した段階が「強制競売開始決定」だ。その後、不動産鑑定士が入って現況調査、査定を行い、入札可能な期間の通知、入札の公告(情報の外部公開)を経て入札開始、開札(結果発表)と進む。
 競売開始決定を取り下げることができるのは申し立て債権者のみだ。競売を取り下げてもらうには、債権者と交渉しなければならない。
 締切日の7月10日、山崎氏にもう一度連絡を入れると「札幌の弁護士に依頼して交渉している。取り下げてもらえると思っている」との返答だったが、先行きは不透明だ。
 さんろくの飲食店経営者はこう話す─「コロナ感染拡大の強烈パンチで全国の飲食街が苦しんでいる。札幌すすきのでさえ衰退が顕著で、さんろくもかつての賑わいはすっかり消えてしまった。長い間、さんろくを引っ張ってきたのは山崎さん率いるプリンス観光で、アークヒルズビルはその象徴のようなもの。何とか正常な状態で再出発してもらいたい」
 そう切望するのは、飲食業界だけでない。経済界が、また旭川市民の多くが成り行きを注視している。

この記事は月刊北海道経済2023年08月号に掲載されています。
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