旭川トヨタ自動車㈱(西川弘二社長)のナンバー取り付け・封印をめぐる不正。国交大臣が記者会見で言及して以来、5ヵ月間にわたり全国の自動車販売会社を対象に行っていた調査の結果が判明。4項目の問題すべてに該当する旭川トヨタなど4社について、封印取り付け委託が解除された。同社は引き続き西川社長が指揮してガバナンス強化に取り組むとしているが、再度の問題発覚で、早くも雲行きが怪しくなっている。

新たに判明した「新車無封印」も
本誌9月号で既報の通り、旭川トヨタ自動車の西川弘二社長が、国土交通省旭川運輸支局で開かれた聴聞の場に姿を表さなかったのは8月7日のこと。その2日後の8月9日、国土交通省が封印取付け受託者の不適切な取扱いに関する対応等について報道発表を行った。注目の旭川トヨタへの処分は、「封印取付けの委託解除」だった。しかも「解除後2年間は委託不可」。国土交通省から旭川トヨタにようやく「鉄槌」が下された。
自動車の「IDカード」とも言えるナンバーは、車体に取り付けた後で、みだりに取り外しや交換ができないよう、封印を行うことになっている。民間の事業者も、国土交通省からの委託を受けてこの作業を行うことができるが、どの工場で行うのか、誰が作業を行うのかが決まっている。また、封印に必要な部品「封印冠」は、通常の方法で外せば壊れてしまう。再利用ができず、そのたびに国交省の出先機関から取得した新品を使うのがルールだ。
こうした正規の手順に旭川トヨタが違反しているとの情報を受け、国交省が調査を開始したのは昨年のこと。当初注目されたのは封印冠の再利用だった。12月から調査が始まり、3月22日には国土交通大臣が記者会見で同社を名指しして「自動車登録制度の根幹を揺るがす、断じて許されない行為」と指摘したのは記憶に新しい。ところが、その後は国交省から何も発表がなかった。8月の報道発表まで5ヵ月近い時間がかかったのは、旭川トヨタの問題をきっかけに全国の自動車販売店を対象に同様の不正がないかどうか調査をしていたためだ。
9日の報道発表には、既知の問題である「①使用済み封印の再利用」の他に、「②届出をしていない事業場での封印取付け行為」「③あらかじめ選任されていない者による封印取付け行為」「④新規登録をした自動車への封印取付けの未実施」(後述)という4点の問題点が指摘されている。①0④すべての問題があった業者(イ)は全国で4社あり、この中に旭川トヨタが入っている。他の3社はいずれも中部運輸局管内のトヨタ系販売会社。4社については封印取付けの委託が解除され、解除後2年間は委託不可となる。
(イ)以外で、①が確認された業者(ロ)は24社あり、国交省が発表したリストを見ると、中部・九州運輸局管内の企業が目立ち、北海道・東北運輸局管内の業者は1社もなかった。(ロ)の業者に対しては封印取付けの委託が6ヵ月間にわたり停止される。
(イ)(ロ)以外で②③④のいずれかが確認された業者(ハ)は123社で、再発防止策の策定及びその実施の徹底の指導が行われる。(ハ)については、業者名や所在地が公表されなかった。
つまり、①0④すべてに該当する東日本の企業は旭川トヨタただ一つということになる。
この発表を受け、旭川トヨタは自社のウェブページに8月9日付で「お詫び」を掲載した。
「社長は多忙なので」
一連の問題について、本誌は今年3月に旭川トヨタ本社を訪れて取材して記事を5月号に掲載したが、その記事を読んだ読者から「選任されていない技術者による、届け出のない場所での取り付け」(報道発表の②と③に該当)が判明。改めて同社に文書で取材を申し込んだが、まったく反応がなかった経緯がある。
今回の処分を受けて再度の取材を申し込むと、意外にも反応があった。本誌からの質問と旭川トヨタからの文書による返答は以下の通り。
Q1 本誌は西川社長への取材を希望している。なぜ西川社長は取材に応じないのか。
A1 お客様、取引先、関係官公庁の信頼を損なう事態を改めてお詫びしたい。社長の西川を中心に、社内ガバナンスのしくみと体制を見直して取り組むことに邁進している。店舗訪問や全社員との個別面談の推進などに多忙を極めている。理解をお願いしたい。
Q2 なぜ聴聞の場に西川社長は来なかったのか。
A2 聴聞は弁明の場であり、4月末に書面で旭川運輸支局に回答した通りであり、弁明する内容はなかったため、8月2日に支局に書面で欠席の旨、連絡した。
Q3 委託解除を受けて、改めて旭川トヨタの考えは?
A3 指導を真摯に受け止め、法令を遵守した正しい仕事を通じて、社内ガバナンスのしくみと体制を見直して取り組んでいく(以下、お詫びの繰り返し)。
Q4 国交省の発表にある①~④の不正を旭川トヨタとして認識したのはいつか。
A4 ①(神楽岡にある整備拠点の)BPセンターでの封印再使用は今年2月、②③届け出事業場/担当者以外の施封については3月、④新規登録封印未実施は4月。
Q5 届け出をしていない事業場とはどこか。
A5 旭川、タムザ神居、永山、末広、東光、レクサス、富良野、稚内、枝幸、留萌、名寄、士別・深川・羽幌店。
Q6 選任されていない担当者とは誰か。
A6 主に営業スタッフが施封していた。
Q7 国交省発表の④
「新規登録をした自動車への封印取付けの未実施」とはどういうことか。
A7 希望ナンバーの場合、希望ナンバーが届いてから封印をしていた。正しくは、新規登録した自動車は、一度バンパーを取り付け・封印し、希望ナンバープレートが届いてから、再度取り付け・封印する必要があった。
Q8 ①~④の対象車両はそれぞれ何台か。
A8 回答は控える。
Q9 ①~④が始まったのはいつか。
A9 回答は控える。
Q10 どんな是正措置を講じるのか。
A10 封印取り付け委託解除後、行政書士による取り付け、または最寄りの自家用自動車協会、陸運支局指定の封印取り付け分室に車両をキャリアカーで搬送し、封印を行う。
Q11 旭川市内で乗用車をキャリアカーで搬送するのにいくらかかるか。
A11 顧客に請求することはない。
Q11では質問の真意が伝わっていない。本誌が問いたかったのは、旭川トヨタがキャリアカーでの搬送のために負担するコストだが、業界関係者から「市内なら1台2000円程度のはず」の説明があった。大きなコスト増にはならないようだ。
2週間でまたお詫び
要は、西川社長には引責辞任のつもりなどさらさらなく、今後も社長として長期政権を続けていくようだが、これほど大きな騒動を引き起こしておいて、社長の座に居座れるものなのだろうか。
「おそらく、そうなるだろう」と事情通はため息をつく。理由は二つある。まず、8年以上続く「西川時代」の中で、トップに異を唱えられる人はもう社内に残っていない。次に、傷ついた信用や企業のイメージを除けば、実質的な害がほとんどない。委託解除で発生するコストは、前述したキャリアカー料金くらいのもの。会社経営の打撃にはなっておらず、現経営陣にとっては「どこ吹く風」との見方もある。
しかし、ガバナンス確立が円滑に進むのかどうかは疑わしい。旭川トヨタによる8月9日付けの「お詫び」から2週間後、別の「お詫び」が掲載された。それによれば、3月1日から同社は車両をキャリアカーで自家用自動車協会の封印取付け所などに搬送して封印を受けているのだが、旭川トヨタの補助要員2人が「38台の封印取付け申請作業時にナンバー未封印状態で、旭川運輸支局から向かいの自家用協会までの公道を横断」していたのだという。
本当に西川社長の下で改革が進むのかどうか、注目しつづける必要がありそうだ。
