三栄運輸が旭川コガタグループ入り

 旭川コガタグループ(湯野信一代表)が三栄運輸㈱、そのグループ企業である三栄物流㈱の全株式と経営権を獲得した。三栄運輸グループはこれまで創業社長が率いてきたが、親族内で経営を引き継ぐ人物が見つからなかったことから、創業時からのつながりがある旭川小型運輸㈱を中核とする旭川コガタグループへの売却を決め、交渉がまとまった。両者は同じトラック運送会社とはいえ、主要な顧客や強みをもつ事業、営業エリアの重なりが少なく、今回のM&Aを通じて相乗効果を発揮することが期待される。

経営好調だが…
 三栄運輸の歴史は高橋徳松前社長(77歳)が個人名義で農業機械を専門にした輸送事業をトラック1台で始めた1968年に遡る。1977年に特定貨物運送事業として有限会社高橋産業を設立し、1983年に一般区域貨物運送事業として現在の三栄運輸株式会社を引き継ぎ、農業機械、一般雑貨の輸送を主な事業として当時認可台数十台からスタートした。もともと農業機械の運搬に強かったことから、現在もカナモト、アクティオ、片桐機械、ヰセキ北海道など多くの建設機械リース会社、農機具関連会社との取引が多い。これらの顧客の求めに応じて、市内永山北2条11丁目の本社のほか、札幌支店(北広島市)、函館支店(七飯町)、石狩営業所(石狩新港)などの拠点を展開している。ほかに苫小牧市に子会社の三栄物流がある。鉄骨資材、農業用資材、農業用機械、農産物なども主要な運送品目。レッカー、除雪、倉庫貸出といった周辺事業も営んでいる。
 高橋氏の下で三栄グループは順調に経営規模を拡大してきた。同社のウェブページによれば、所有する車両は大小さまざまのトラック、重機などを合わせて全道で124両に達し、別に三栄物流名義で24両を所有している。
 この業界の経営状態は総じて厳しい。時間外労働の上限規制による深刻なドライバー不足、燃料価格・車両価格の高騰などの要因が重なり、業界からは「自主的な努力はもう限界」との悲鳴も聞こえる。しかし、三栄グループは経営悪化に直面しているわけではなく、毎年安定した収益を計上している。三栄運輸本体の2024年3月期当期利益は概算で1億3300万円程度に達する。
 安定した収益を支えてきたのが「ドライバーファースト」「従業員ファースト」の経営方針。トラック運送会社は装置産業だが、早くから「人」が重要になると見越していた。同社のウェブページには「安全・品質を守り抜くために最も大切なことは、働く従業員全員が安心して働けるゆとりある労働環境をつくること、まさに『働き方改革』の実行にあります」との高橋氏のコメントが掲げられている。
 ではなぜ、高橋氏は三栄運輸の経営を他者に委ねることになったのか。高橋氏の子息は取締役を務めていたが、後継社長になることを望まなかったことが、今回のM&Aの出発点になった。といっても内紛などがあったわけではなく、退社する子息は早々と取引先にあいさつをすませ、円滑な経営の引継ぎに協力している。

M&Aで豊富な経験
 経営が順調な三栄グループが、その気になれば、本州の大手企業に高値で売ることもできたはず。実際、上川地方のトラック運送会社の中には、数年前、本州の大手企業の傘下に入ったところもある。しかし、そうすれば社長は親会社から送り込まれ、役員も安泰ではいられない。合併の形態次第では地方税を東京や大阪に納めることになる。そこで三栄運輸は、同じ旭川市内の旭川コガタグループにM&Aを持ち掛けた。三栄運輸の設立や事業許可取得の際、旭川小型運輸の先代社長、湯野重作氏が高橋氏を手助けした縁があった。
 こうしたM&Aは専門業者の仲介で進むことが多いが、旭川コガタグループは独自に調査を行い、買収を決めた。これまでに㈱旭川一般廃棄物処理社(廃棄物運搬処理)、旭川物流(トラック運送)、道輪工業(タイヤ販売)、谷口商会(同)などを傘下に入れ、いずれも経営は堅調。M&Aについて社内に十分なノウハウを蓄積しており、経営内容の査定に詳しいスタッフも抱えているためだ。
 三栄グループの健全な経営に注目した旭川コガタグループは、三栄を傘下に収めることを決め全株式を取得。8月26日に開かれた三栄運輸、三栄物流の臨時株主総会で、湯野代表が両社の代表取締役に就任した。高橋氏は三栄運輸の取締役会長として当面は会社にとどまる。

相乗効果に期待
 このM&Aを通じて、旭川コガタグループは概算で従業員500人、車両400台を抱える業界の一大勢力となる。湯野信一代表は「三栄運輸は顧客も営業エリアも旭川小型運輸と重なりが少なく、M&Aを通じて相乗効果を発揮できると期待している」と語ると同時に、「今後も有望な案件があればM&Aに取り組みたい」と意欲を示す。
 経営者不在による「黒字廃業」が、企業の抱えるリスクとして注目を集めている。旭川コガタグループによる三栄運輸の合併は、新旧オーナー、従業員、顧客のいずれにとっても理想的なケース。経営好調な段階での思い切った決断がM&Aの実現を後押したことは、経営者不在に悩むこの地域のほかの企業にとっても参考になるのではないか。

この記事は月刊北海道経済2024年11月号に掲載しています。
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