小2女子ゴルファーの急成長支えるインドア施設

「何年練習してもうまくならない」「壁に当たってしまった」。ゴルフに関してこうした嘆きを耳にすることがあるが、わずか1年半でみるみる上達した小2女子が酒井椛生(はな)さん。10月20日の全国大会出場を前に、椛生さんやその成長を周囲で支える大人たちの話を聞いた。

ハチに刺されても…
 「ゴルフは大人のスポーツ」との固定観念は、酒井椛生さん(付属小2年、8歳)には通用しない。昨年のシーズン開始から本格的にゴルフに取り組むようになり、まだ1年半の経験しかないが、今年4~9月に道内で開催されたジュニア大会の小学校低学年女子の部では7試合に出場してすべて1位。これとは別に、加森観光杯ジュニア競技会(7月30日、札幌テイネゴルフ倶楽部)では低学年男女の部2位(女子では1位)となり、全国大会出場権を得た。
 椛生さんを指導し、練習や大会にも付き添っている父親の安弘さんは、愛娘の強さの理由について「動じないことですね」と語る。まだ8歳。同じ年ごろの子はゴルフに熱中する余り、思ったように打てないと悔し涙を流し、動揺するものだが、椛生さんは冷静にプレーを続ける。あるエピソードが、小2とは思えない精神力を物語る。「プレーの途中、コース上でハチに背中を刺されてしまったのですが、最後までゴルフに集中していました」(安弘さん)
 急速な成長を後押しするのが、旭川市2条通3丁目にある会員制インドアゴルフ練習施設「AREA Golf Club」だ。通常は無人の施設で、利用者がスマホで予約し、発行される番号を入力して開錠。練習をしてから自分で後片付けし、施錠して帰るしくみ。が、記者が訪れた日は合同レッスン会が開かれており、椛生さんと2人の男子小学生が、同クラブに所属するPGA・A級ティーチングプロのティーチングプロの新妻昌之さんから指導を受けていた。
 大人にひけを取らない椛生さんの力強いスイングを、シミュレーションシステムの「トラックマン」が見つめている。ミサイルの追尾技術を活用してドップラー・レーダーやカメラでボールやクラブの動きを詳細に分析するこの装置からは、直接測定された数値や複数のデータをもとに算出される数値など28項目が瞬時に出力される。肉眼や本人の感覚ではわからない状況が浮かび上がることもある。

28項目のデータ
 新妻さんによれば、映像とデータに注目することで効率よく上達することができる。「コースや野外の練習場で実際に打ったボールが右方向に飛んだとします。その原因が、身体の向きにあるのか、クラブの動きにあるのか、クラブの面の角度にあるのかは、わかりません。トラックマンを使ってのレッスンであれば、データによりショットの数値情報から原因を究明して、そのデータを見てから身体の動きの原因を突き止め、プレイヤーと一緒にショットの映像を見て、改善点をコーチと一緒に見出せるので、効果的なレッスンをすることができます」。
 世界の一流プロも練習やスイングの調整に活用しているトラックマンはMLBのダルビッシュ有選手、北海道日本ハムファイターズの万波中正も活用している。
 現実とシミュレーションの差が小さくなった結果、トラックマンを備えた世界中の施設をネットでつないだゴルフトーナメントも開催されている。欧州では、日焼けや虫を嫌う女性ゴルファーがインドアゴルフを好む傾向もあるという。今後も技術進歩が進めば、インドア施設だけで十分になり、野外のゴルフ場は不要になるのではないか。
 新妻さんは否定的だ。「インドアのゴルフはある意味理想の空間ですが、ゴルフ場では雨が降る日も、風が吹く日もあります。ボールの下の草の状況はまちまちで、足元が傾いていることもあります。そうした状況にどう対応するのかも、ゴルフの面白さであり、腕の見せ所でもあります。インドアでは常に理想のスイングができるように練習し、屋外では変化する状況に対応できるよう練習する。どちらも大切です」

マナー教育も
 「AREA Golf Club」は、2条3丁目と、東光3条7丁目に練習施設を持つ。運営会社の社長である外﨑裕二さんが理事長となり、10月1日に設立されたのが、NPO法人「エリアゴルフジュニアクラブ」。ジュニア選手の育成や、ゴルフを通じた子どもたちの健全な育成を目標に掲げている。
 ゴルフは経済的な負担が大きい競技と思われがちだが、同NPOではジュニアを対象に、月1万円の低料金でAREAのインドア練習施設を回数制限なしで開放、会員は月1~2回の合同レッスン会で新妻さんなどから指導を受けられる。また、旭川ゴルフ倶楽部と提携しており、これらのコースではジュニア向けの低料金でコースが使用可能だ(多くのゴルフ場や練習場は、ジュニアを無料で受け入れたり、特別料金を設定するなどしている)。「旭川出身でプロゴルファーになった人は一人しかいません。ジュニアの世代からゴルファーを育て、多くのプロゴルファーを旭川の地から輩出したい」と、外﨑さんは目標を語る。
 NPOでは他に、スポーツマンシップの講習や大人のゴルファーとの交流、マナーの実践教育も行うことにしている。
 AREAのほか、旭川ゴルフ倶楽部や神楽山ゴルフガーデンで練習している椛生さんにゴルフの楽しさを尋ねた。「いい当たりしたら、スパーンと飛んでいくこと」。いまの目標は「全国大会で優勝して、将来プロゴルファーになることです」。
 全国大会とは、10月20日から福島県矢吹町で開かれる、「JLPGA第18回全国小学生ゴルフトーナメントインふくしま」のこと。過去、この大会で活躍した人の中には現在ツアーで活躍する女子プロゴルファーもおり、ジュニアゴルファーの登竜門にもなっている。この8月に札幌国際カントリークラブ島松コースで北海道ゴルフ連盟が開いたHondaジュニアゴルフ選手権にはゲストとして宮里藍さん、イ・ボミさんが参加。優勝した椛生さんは宮里さんからトロフィーを渡され、イ・ボミさんの手で椛生さんの首にメダルが下げられた。この経験もあって、椛生さんはプロという将来の目標を意識するようになったという。
 ジュニアだけでなく、大人のゴルファーたちも「もっとうまくなりたい」と願いながらAREAに通っている。道内のゴルフコースはどこもシーズン終了へと近づいており、間もなく深い雪で閉ざされるが、インドア施設での練習はこれからが本番だ。

この記事は2024年11月号に掲載しています。
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