酒蔵や醤油の醸造所、手づくり味噌工場などが市内に点在する旭川は、古くから醸造業が盛んだ。伝統的な醸造技術で品質の高い製品を製造しているが、24年11月、高砂酒造と日本醤油工業がコラボし、酒粕と醤油を使った商品を開発した。市では、醸造・発酵文化に着目した観光促進の検討を進めており、旭川の醸造業を支えてきた老舗によるコラボは、醸造文化を盛り上げていきそうだ。

盛んな醸造業
明治時代から続く長い歴史を持つ酒蔵をはじめ、醤油の醸造所や、手づくりの味噌工場がある旭川は、規模は小さいものの、「醸造の街」と言っても過言ではないほど、醸造場が盛んに行われてきた。
醸造文化を支えてきたのが、大雪山連峰の伏流水。例えば、市内の酒蔵ではこの伏流水を仕込み水に使い、高品質の酒を生産し続けている。
また、高品質の米も醸造業に欠かせない要素のひとつ。酒づくりでは、地元で生産した酒米を使用し、味噌づくりに欠かせない米麹に使用する米も地元産だ。冷涼な気候も醸造業が栄えている理由のひとつだ。温度が氷点下となる冬は、空気中に雑菌が繁殖しにくく、安定した環境で発酵や醸造を行えることも、寒冷地ならではのメリットといえる。
節目記念しコラボ
今回、コラボ商品の開発でタッグを組んだのは、高砂酒造(宮﨑徹社長)と、日本醤油工業(茂木浩介社長)。高砂酒造の創業は1899年。旭川で4番目に創業した「小檜山酒造」が前身だ。1909年に建てられた製造工場は、現在は直売店として活用され、定番酒や蔵元限定酒・酒粕加工品等の販売が行われている。
日本醤油工業は1944年の創業。もともとは明治初期に旭川に定住した鈴木亀蔵が笠原兄弟とともに現在の場所に清酒会社を興したのが始まりで、国の施策などを理由に醤油製造に転換した。共に長い歴史と伝統を誇る老舗だ。
同じ醸造業で、比較的近距離に位置することから、かねてから交流があり、直売所で互いの商品を販売し、新規の顧客開拓に貢献してきた。
異業種の企業と連携し、様々なコラボ商品を開発してきた共通点があるが、両社がコラボをしたことはなかった。2024年は高砂酒造が125周年、日本醤油工業が80周年となり、節目を祝って両社の特徴を活かしたオリジナル商品の制作に取り組むこととなった。
このコラボ開発のプロジェクトは23年12月に始動。1年後の24年12月の発売を目指し、酒粕と醤油を使った商品開発に乗り出した。
寒い季節に合う商品を模索し、意見が一致したのが「鍋つゆ」。鍋つゆであれば、野菜や肉、魚などの食材だけではなく、酒粕からビタミンB類などの豊富な栄養を摂取することができる点に着目をした。さらに、野菜炒めなどの調味料として使用したり、また魚や肉を漬ける際にも活用できるように、市販の鍋つゆに多いストレートタイプではなく、濃縮タイプを手がけることとなった。
酒粕の配合バランス
課題となったのが酒粕の配分バランス。香りに強い特徴があるため、数パーセントという細かい刻みで分量を変更し、日本醤油工業の工場で何度も試作検討を重ねた。
酒粕の配分が決まり、商品が完成したのが24年秋。日本醤油工業の醤油をベースに、かつお節、昆布、チキン、ホタテなどのエキスで深みを出し、そこに酒粕を加えることで濃厚なコクが生まれ、芳醇な香りが漂う鍋つゆの開発に成功した。11月21日と22日に日本醤油工業の工場で詰作業が行われ、同月29日から高砂酒造の直売店とオンラインショップ、日本醤油工業の直売所などで販売されている。
発酵文化にはずみ
評判は上々で、早速商品を購入したという市内在住の50代女性は、「酒粕の香りが好きで、商品を購入しました。酒粕と醤油の香りがマッチし、体がとても温まりました。具材の肉もいつも食べる鍋のものよりも柔らかく感じました」と笑顔で話す。
旭川市では、「醸造・発酵」を観光コンテンツとして活用出来るかどうかの検討を進めており、市内の関連事業者が集まり、24年秋に会合を初開催。12月には2回目が予定されている。
全国では、醸造所を観光資源として活用する動きが進んでおり、今回の老舗醸造業2社によるコラボによって、旭川での取り組みが加速することが期待されている。高砂酒造企画部の中山仁美係長は、「醸造・発酵関係の事業者による会合が始まり、一堂に集まる機会がこれまでなかったので、旭川の醸造・発酵文化が盛り上がるきっかけになれば」と話す。
旭川が誇る2つの醸造業がコラボして開発したユニークな商品。多くの市民や観光客が手に取り、アツアツの鍋を食しながら、旭川の醸造文化について思いを馳せる機会になってもらいたい。
