どうなる中心街オフィスビル

 24年春からすっかり明かりが消えたオフィスビルがある。旭川市3条通9丁目の「日本生命旭川ビル」だ。ビルの建て替えが決まり、内部にあった日本生命の営業拠点はすべて近くにある他のビルに移転した。昭和40年代ごろから旭川市の中心街で続々と完成したオフィスビルの建て替えが決まったのはこれが初のケース。他の主要なオフィスビルも築50年を超え、常識的には更新時期を迎えているはずだが、今後は不透明なまま。オーナーが変わった物件もあり、道北最大のオフィス街の今後が注目される。

支店支社が撤退
 12月の緑橋通りを夜5時前に歩いた。立ち並ぶオフィスビルの多くのフロアーで、照明が消えている。いまこれらのビルでは多くのスペースが「空室」となっている。
 旭川で大企業が支店や支社を構えていたころ、オフィスビルは地域経済で重要な役割を果たしていた。オフィスビルが軒を連ねるのが上川地方を代表する「ビジネス街」の緑橋通り。中でもグレードが高かったのが生命保険会社系のビルであり、日本生命、明治生命、住友生命の各ビルが並んでいた。一部はビルの大半を自社の営業拠点として、一部はビルのかなりの部分を社外に賃貸していた。
 ところが、明治生命と住友生命は緑橋通りに面していたビルをすでに売却。かつての明治生命旭川ビルは現在、旭川三条緑橋ビルに、住友生命旭川ビルはTKフロンティアビルとなっている。
 生保系に限らず、オフィスビルは苦戦が続く。主要な顧客となるはずの大手企業の支店や支社が、旭川から次々と撤退したためだ。高速道路網やネットワークの進歩で、いまや札幌の拠点のスタッフが旭川どころか稚内から紋別、北見に至るまで広大なエリアを担当していることがある。少子高齢化や経営者の高齢化で、地元企業のオフィスビルに対する需要も低下している。「地元企業の社員は大半がマイカー出勤。駐車場のコストがかかる中心部でオフィスを構えるのは非現実的」と、ある経営者は指摘する。

建て替えを決定
 緑橋通りに面しているかつての三大大手生保系の一角、日本生命ビルもこの4月から明かりが消えた。ところが、このビルだけは事情が異なる。入居していた日本生命の営業拠点は、すぐ近くの旭川北洋ビル(4の9)内の3フロアーに分散して移転済だ。1970年築の日本生命旭川ビルは、同じ敷地での建て替えがすでに決まっている。
 建て替えを可能にした主要な要素は、ビルの使用状況。以前入居していた歯科医院を除いて、大部分のフロアーを自社使用していた。ビル建設から半世紀以上が経ち、これ以上使い続けるのは困難となったが、他のビルに移って賃貸料を払うよりも、建設費用を負担してでも建て替えたほうが長い目でみれば割りに合うとのそろばん勘定が成り立つ。賃貸が主体のビルなら、将来にわたってテナントを確保できるとは限らず、違った判断になっていたかもしれない。
 旭川市内では久しぶりのオフィスビル建設となるが、折からの人手不足や建築コストの影響で、解体工事着工は遅れている。関係者の話では、現在のスケジュールでは2027年夏ごろに新しいビルが完成の見通しだ。
 付近のオフィスビルの多くは建設から40~60年が経過しており、常識的には建て替えのタイミングを迎えている。たとえばかつて北海道拓殖銀行の旭川支店があり、拓銀破たんにより北洋銀行が取得した旭川北洋ビル(4の9、地上9階、地下2階、1万8734平方メートル)は1965年築、旭川道銀ビル(2の9、地上6階、地下1階、6481平方メートル)も1965年築、貸しビルではないが旭川信用金庫本店(4の8)は1969年築だ。比較的新しいものでも旭川三条緑橋ビル(3の9、旧明治生命旭川ビル、地上7階、地下1階、3896平方メートル)は1972年築、TKフロンティアビル(3の9、旧住友生命ビル、地上9階、地下1階、6022平方メートル)は1979年築だ。いずれも建て替えの計画は具体化していない。
 こうしたビルの経営の難しさを象徴するのが、1階路面店の減少。TKフロンティアビル1階には日本旅行が店を構えていたが、現在は空いている。旭川三条緑橋ビルの1階には7─11が出店したが、駐車場がなかったためか、閉店した。
 道外の企業が旭川市内で所有するオフィスビルが老朽化した後、必要な投資を行って更新や建て替え、取り壊しを行うのかどうかに注目が集まる。

新市庁舎も影響
 生保系オフィスビルについては、管理業者がネットで入居者を募集している。サイトで入居者を募集している物件のリストを眺めていると、駅から北に、東西に離れるにつれて稼働率が下がっていく傾向のように見える。たとえば朝日生命旭川ビル(4の9、地上9階地下1階、6248平方メートル、1979年築)。このビルに入居していた旭川市農業委員会や農政部が転出したことも影響して空室が増え、不動産業者のサイトによれば合計約800平方メートルについてテナントを募集している。
 建て替えの決まった日本生命旭川ビルは例外的なケース。大手企業が所有・管理する物件は古くなったとはいえまだ定期的なメンテナンスが加えられているが、旭川中心部のオフィスビルの中には、休眠状態にある物件や、必要なメンテナンスが行われていない物件も存在する。マンションや雑居ビルだけでなく、オフィスビルも「廃墟化」が心配だ。

この記事は月刊北海道経済2025年1月号に掲載されています。
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