土のない畑からトマトを安定出荷

 寒冷な気候の旭川では、トマトの出荷は6月から10月までという短い期間に限られているが、東神楽町のロックドリームファクトリー(矢萩修代表取締役)では、「ロックウール栽培」という土を使わない独自の栽培法を確立し、地元産が品薄になる端境期にも安定した量を出荷している。今から30年ほど前、トマト栽培の経験がなかった矢萩社長が、「地元産トマトを年間を通じて提供したい」という思いを抱き、ゼロから取り組んだ挑戦だった。

土を使わない栽培法
 ロックドリームファクトリーは旭川の中心部から車で約20分の距離、東神楽町9号北4番地にある。敷地内には、高さ4メートル、奥行き約80メートル、広さ300坪の大型ビニールハウスが11棟並び、トマトをメインに野菜の栽培を行っている。
 土を使わず、「ロックウール」という天然の鉱物から作られた繊維を培地とした水耕養液栽培「ロックウール栽培」を導入。この栽培法は連作障害を回避して、培地交換を進めていく効率の高い栽培法だ。東神楽町でロックウール栽培を導入しているのは2軒だけで、この栽培法によってトマトを生産しているのは同園だけだ。
 経営する矢萩修さんは、祖父の代から続く農家の3代目だ。初代と先代の頃は米の栽培が中心で、葉物などの野菜も手がけていた。子供の頃から農作業を手伝い、家業を継ぐと決めていたが、大学を卒業すると、社会勉強のために旭川市内の青果仲卸会社に就職。5年ほど仲買の仕事をした後に就農し、父親と一緒に農業に励んだ。
 ロックウール栽培と出合ったのが20代後半。家族で米やアスパラ、ホウレンソウや小松菜、水菜などの葉物を手がけていたが、仲卸の仕事を経験したことで、消費者の目線に立った新たな農業の形を模索する中での出合いだった。
 ロックウール栽培は、従来の農業とは一線を画す栽培法。施設を使ってトマトを生産する事業として農協が主導した事業で、設備投資の負担が大きいため両親は反対をしたが矢萩さんは参入を決意した。
 これまで、土壌で作物を栽培してきた矢萩さんにとって見るもの全てが新鮮で、新たな挑戦に胸を躍らせていたが、トマトの栽培を手がけるのが初めてだったこともあり、軌道になるまでの数年間は試行錯誤を重ねた。生育状況が悪く、茎が細くて萎れてしまうことも多く、収量も思うように伸びなかった。
 しかし、品種を変更するなど工夫する中で生育状況が改善し、質の良いトマトが育つようになった。収量も安定し、最盛期の4、5月には、一日に約1トンを収穫できるまでになった。

気候変動の影響も
 ロックウール栽培では、年に2回、6月と11月に播種をする。
 20日から30日間かけて育てた苗をロックウールに鉢上げし、鉢上げから10日後にハウスに1本ずつ定植する。1つのハウスの中に6列ずつ培地が並び、総数にすると2100本のトマトの苗がある計算になる。1トマト専用のハウスは10棟あるため、定植は2万1000本の苗を手作業で行う重労働だ。
 定植から5日後、トマトの根を保温するためのシートを掛け、さらに定植から10日後には10センチにまで育った苗を麻糸で誘引する。折れないように慎重に行う必要がある気を遣う作業だ。
 光合成を促すため、収穫が終わるまで毎週続くのが芽かきの作業。定植してから2ヵ月半(夏場は1ヵ月半)で実がなり、実がしっかりと真っ赤に完熟するまで待ってから収穫するのが同園のこだわり。
 寒冷な気候の旭川では、トマトの出荷は、6月から10月までと短い期間に限られているが、同園の場合は、3月から11月までと長い。24年は例年とは異なり、11月半ばから12月にかけて高値の出荷が出来た。
 トマト栽培の楽しさについて矢萩さんは、「お客様に地元で収穫したトマトを早い時期から提供できることにやりがいを感じています。また、真っ赤に実った最初のトマトを、スタッフと一緒に笑顔で食べることが何よりの楽しみです」と話す。
 30年かけて確立したロックウール栽培によって経営は堅調だが、施設栽培ならではの課題もあるようだ。
 「地球温暖化が加速する中、化石燃料を使用して栽培を行うことに対してもどかしい気持ちを抱いています。廃油を使用していた時期もありましたが、燃料の価格が高騰し、なかなか廃油が手に入りづらくなっています。代替となる燃料を見つけることが当面の課題です」(矢萩さん)
 近年の気候変動もトマトの生育やスタッフの労働環境に影響を与えているそうだ。
 8月に37・8度を記録した2021年には、トマトの花が狂い咲きし、確実に着果させるために花落としの作業に追われたという。「温度が急激に上がったことでトマトが危機感をいだき、子孫を残すために花をたくさんつける狂い咲きという現象がこの年に初めて起こりました」
 真夏の体調管理も、数年来の課題。ハウスは天井とサイドの窓を空けてはいるものの空気がこもり、真夏には室内の温度が40度を超えることもあるという。猛暑日が続く中、スタッフは空調を備えた作業着を着ることで、猛暑を何とかしのいでいるそうだ。

規格外トマトの活用
 矢萩さんの農園では現在、ミニトマトの千果をはじめ中玉のフルティカ、大玉のハウスももたろう、五色トマト、アイコ(赤と黄色)というトマトの品種を栽培している。トマト栽培に使用している面積は1ヘクタールで、そのうちの90%をミニトマトが占める。今後はさらに、ミニトマト以外の様々な品種にも挑戦をする考えでいる。
 また、収穫時にヘタが取れたり、割れてしまうなどの規格外のトマトが全体の5、6%を占めており、こうしたハネ品を有効活用するために、実を乾燥させて、ドライトマトとして販売ができるように試作を行っている。
 同園のトマトは、直売所をはじめホクレンショップ道北エリア各店、道北アークスが展開するウエスタンパワーズと川端、スーパーアークス東光と西神楽などで販売されている。根強いファンが多く、市内在住の主婦は、「真っ赤でツヤのある大きな実に惹かれてよく購入します。カットしてサラダやお弁当に利用しています。地元産が品薄になる時期にも購入できるので重宝しています」と話す。
 トマト栽培の経験がなかった若き生産者の挑戦は、多くの人が支える中、30年という月日をかけて、堅調なビジネスとして確立された。コストに見合う品種変更拡大という新たな目標を掲げる矢萩社長の挑戦は今後も続いていく。

この記事は月刊北海道経済2025年2月号に掲載されています。
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