過疎化に悩む東旭川ペーパンの米原瑞穂地区で、空き家を活用して移住者を呼び込む活動がスタートした。米原瑞穂地区市民委員会と地区の有志が立ち上げた「ペーパンの未来を育てる会」の挑戦。空き家の持ち主と移住希望者の橋渡しを行う取り組みだ。すでに2組の移住が決まっており、同会では「かつての農村コミュニティを復活させたい」と期待をかけている。

70歳以上が55%
旭川市東旭川ペーパン地区は、牛朱別川支流のペーパン川によって作られた原野に広がるエリア。米原、瑞穂、豊田という3つの地区で構成されている。ペーパンとは、アイヌ語で「甘い水」という意味で、瑞穂エリアにある「上南部水神宮」では、年間を通じて湧き水を汲むことができ、多くの人が訪れる名水のひとつに数えられている。
豊かな自然に恵まれたペーパン地区は、古くから農業が盛んで、コメや野菜の生産が行われてきた。しかし、急速な高齢化とともに人口減少が顕著で、わずか3年間で70戸減少した時期もあったほど。現在の世帯数は145戸で、住民数は262名。70歳以上の高齢者が55%以上を占めている。
このペースで人口減が進めば、10年後には住民の数は半減し、地域としての機能維持はもちろん、存続も危ぶまれる事態になりかねない。憂慮した住民が集まり、昨年8月に立ち上げたのが「ペーパンの未来を育てる会」。瑞穂地区で米と野菜の生産に従事し、米原瑞穂地区市民委員会会長の中村肇さんが代表を務め、31年前に名古屋からペーパン地区に移住してきた石井満さんが事務局、中村さんの長男の悠さんが広報を担当し、現在は6名の会員で活動を行っている。
持ち主と移住者を橋渡し
同会の目的は、ペーパン地区の過疎化に歯止めをかけ、かつての農業コミュニティを再構築することだ。そのために着目したのが、人口減とともに増え続ける空き家の活用で、空き家の持ち主と移住希望者の橋渡しを行い、全国各地から移住者を誘致する取り組み。
同会によると現在、ペーパン地区には同会が把握しているだけで25件の空き家があり、そのうち再活用できそうな物件は12件だという。
空き家の増加は全国的な問題で、無人の家屋を放置しておくと倒壊のリスクが高まり、不法侵入や放火などの犯罪の温床にもなりかねない。また、家屋に置き去りになった家具などの整理や処分には手間がかかり、家屋の解体や廃棄処分ともなると、数百万円という高額な費用がかかりかねない。同会の活動は、こうした空き家問題の解消も視野に入れたもので、「居住・空き家班」「催し・イベント班」「広報班」「移住者の会」「会計」という5つの班に分かれて活動を行っている。
空き家の確保や移住者の誘致を行うのが「居住・空き家班」だ。会員は、ペーパン地区に散在する空き家の情報を収集し、持ち主に対し、空き家を移住者に提供する意思があるかどうかの確認を行う。さらに移住の希望者についての情報も収集し、入居が決まった際には、屋内の片づけや廃棄などを入居者とともに行う。また、「水が出ない」など水道設備に不備があった場合には、旭川市の補助金を活用して対応するのが主な活動だ。
空き家を移住者に提供する場合には、様々なパターンがある。
一つ目が無償での提供で、入居者の負担は名義変更などの費用のみとなる。二つ目が賃貸での提供で、この場合は、移住者は持ち主に対して月に5000円から1万円の家賃を支払うことになる。このほかにも、土地や建物を持ち主から譲り受けて、新居を建てたり、空き家を売買するケースも想定している。
2組の移住が決定
空き家の持ち主と移住希望者をマッチングさせる取り組みは、時間と労力を要するものだが、同会の活動は、当初の予想を超えるペースで進んでいる。すでに瑞穂地区にあった2件の空き家への入居が決まり、そのうちの1件は札幌からの移住で、今年12月に民泊施設としてオープンする。この空き家は、持ち主が近郊の町へ転居したために空き家となっていた物件で、40代の夫婦が3度ほど内覧をしてから移住を決めた。夫婦はスノーボードが趣味で、民泊施設を開設するためにニセコや富良野で物件を探していたが、物件価格が高額だったために断念し、ほかのエリアで探していたという。
このカップルの移住は、同会にとって明るいニュースで、事務局の石井さんは「20代から40代の若い世代の移住者を誘致することが地域活性化のカギとなります。かつてのような農業コミュニティを再構築するには、5年から10年のスパンを要します。ペーパン地区の存続と活性化をはかり、次世代の手助けをしたいという思いで活動をしています」と期待を込めて話す。
同会では移住者へ提供する空き家を確保するために、住民からの情報を広く求めている。「『空き家になって困っている』『この先、空き家になるので管理に困っている』など家の問題に悩んでいる方や、知り合いに空き家の管理で困っている方がおりましたら、当会へ連絡をお願いします」と中村会長は呼びかける。
また、移住者を確保するために、同会の公式ホームページで空き家情報を掲載するほか、旭川市の移住情報サイト「あさっくる」への会の情報を掲載する考えだ。
SNSによる情報発信や収集も行い、中村さんの長男の悠さんが広報班のリーダーとして担当する。悠さんは、21世紀の森や、文化財の養蚕民家などの観光スポット、雄大な大雪山の撮影スポットなどを紹介したマップを作成するなど、ペーパンエリアの魅力を積極的に発信している。「同世代から、『ペーパンには、観光資源が何もない』と言われてショックを受け、エリアを見直してマップを作りました。ペーパンの魅力は雄大な自然。移住誘致のかぎになると思います」と話す。
豊かな自然に恵まれたペーパン地区で本格始動した移住誘致作戦。活動が軌道に乗り、人口減に伴う空き家増加に悩む多くのエリアのモデルケースになることが望まれる。
