食材の高騰で学校給食が大ピンチ。肉料理の部位の変更や規格外野菜の活用、安価な食材でボリュームを確保するなどの工夫を続けてきたが「もう限界!」との声が聞こえてくる。万策尽きて給食費値上げに踏み切る市町村続出!

6万円超え
市場調査会社によると、2024年の飲食料品値上げは累計で1万2000 品目を超えた。
食品分野ごとに値上げ率をみると、加工食品が14%、調味料16%、酒類・飲料23%、菓子18%、乳製品10%、パン8%などとなっている。米は地域によって変動があるが、北海道では昨秋の新米で5キログラム1袋の価格は税込みで3000円を超え、前年と比べて3~5割も高くなった。
25年に入っても1月2月と引き続き値上げ品目が数多く、年間通して値上げラッシュは継続するものと見られている。
過去に経験したことのない値上げラッシュは家計をダイレクトに苦しめているが、学校給食を取り巻く環境も深刻なもの。
道北で旭川に次いで人口規模の大きな名寄市では、食材高騰を受けて昨年に引き続き25年度も1食当たりの学校給食費を小学校で40円、中学校で42円引き上げることを決めた。これにより年間の給食費は小学校低学年で6万822円(昨年は5万3382円)、小学校中学年で6万1194万円(同5万3754円)、小学校高学年で6万1566円(同5万4126円)となり、年額6万円を超える。また中学校の年間給食費は7万680円(同6万2868円)で7万円台だ。
様々な工夫も…
士別市もまた25年4月から1食当たり小学校で251円から301円へ50円、中学校では295円から354円へ59円をそれぞれ引き上げることを決めた。20%の値上げで、新年度の給食費年額は小学生が5万5986円(同4万6686円)、中学生が6万5844円(同5万4870円)となる。
両市とも、肉料理に使う部位を鶏むね肉に変えたり、規格外野菜を活用したり様々な工夫を重ねているが、食材の軒並みな高騰、予想外の米価の高値止まりで「現行の給食費ではこれまでと同様の献立は提供できない状況となった」として保護者負担への理解を求めている。
旭川市も25年4月から給食費を値上げする。
値上げ幅は年額で小学生が7800円、中学校1・2年生が9000円、中学校3年生が8700円。これにより小学生は年額6万6000円、中学1・2年生は7万7400円、中学3年生は7万3800円とかなりの高額となる。
カレー7・3%
旭川では一昨年、23年度にも給食費を値上げしている。
その時のアップ額は、小学生が5400円で年額にして5万8200円となった。中学1・2年生も5400円アップで6万8400円、中学3年生は5100円アップで6万5100円。
2度の値上げを合わせると、小学生で1万3200円、中学1・2年生1万4400円、中学3年生1万3800円もの〝増額〟だ。
事業を担当する学校教育部学校保健課は「たとえば豚肉を使用する場合でも、上肉ではなく単価の低い並肉にするとか、マヨネーズやソースなどはポーションタイプのものを止めるとか様々な工夫をしているが、食材の高騰に追いつかないのが実情」と話す。
23年よりも24年の方が1人1食の単価がどれだけ上がっているのか、児童生徒に人気のカレーライスと石狩豆乳鍋で比較してみると─
【カレーライス】
〇23年カレーライス=白米72・02円、牛乳50・03円、副食(カレー・福神漬け・フルーツ盛り合わせ)94・92円。合計216・97円税込み234・42円。
〇24年カレーライス=白米76・26円、牛乳53・62円、副食(カレー・福神漬け・フルーツ盛り合わせ)103・04円。合計232・92円税込み251・63円。
1年で単価が17・2円アップ。率にすると7・3%だ。
消えるジンギスカン
石狩豆乳鍋も数値を出してもらった。
それによると、23年は白米72・02円、牛乳50・03円。副食(フルーツ盛り合わせではなくひじき入り厚焼き卵となめ筍)173・30円。24年は白米76・26円、牛乳53・62円。副食183・03円。1年で単価が20・39円アップ。率にすると6・4%だった。
「カレーライスは給食としては単価が安い方。単価が高くなるジンギスカンなどは提供できる機会が減ってきています」と学校保健課。
食材軒並み高騰の状況下、「学校給食の値上げはやむを得ない」と理解を示す保護者がいる一方で「義務教育の一環なのだから無料にすべきだ」と反発する父母の方が多いのが実情だ。
小学生と中学生の子を持つ市内の主婦も「値上げラッシュも年末で一段落するかと思ったが、年が明けても調味料、お菓子などが上がり、主食の米は下がらず高値のまま。光熱費の負担も半端でなく、日用品は可能な限り100円ショップですませるなど節約に努めている。そんな窮状で給食費が年額小学生7800円、中学生9000円上がればわが家は1万8000円近くの負担増となる。絶対にやめて」と訴える。
学校給食法では「給食を提供する施設の設置や維持管理費と人件費は市町村など設置者の負担。食材費は保護者の負担で給食費として納める」と明記されており、法の決まりをそのまま適応するとすれば、食材高騰による値上げ分は保護者負担ということになる。しかし旭川市は新年度の値上げ分は公費負担によって保護者の負担を極力少なくする考えでいる。
無償化30%
「子育て安心都市」を打ち出している今津寛介市長としては「そのまま保護者負担としては父母の不満が爆発する。財政は厳しいが何とかねん出して…」との考えのようだ。ほぼすべてといっていいほどどこの市町村も「子育て支援」を政策の一つの柱としており、値上げ分をそのまま保護者負担としては子育て世代の反発を買うことは必至。旭川市と同様の立場にあり、25年4月給食費値上げの市町村の多くが、値上げ分全額公費負担、あるいは一部を公費負担とする動きとなっている。ただ、食材高騰は今後も続くものと予想されており、市町村の身銭を切った公費負担にも限界がありそうだ。
東川町、紋別市
一方で、給食費無償の市町村も増えてきている。文部科学省の調査では23年度時点で無償化している自治体は全体の3割。17年の調査では約4%だったのと比較すると大幅に増えている。
旭川近郊では、東川町、美瑛町、上川町など。ふるさと納税が好調の道北の紋別市や道東の根室市なども給食費は無料だ。
東川町では「子育て世帯の経済的負担を軽減し、安心して子育てできる環境の充実を図る」として23年4月に小中学校の給食を無料とした。同町には小学校4校、中学校1校があり約770人の児童生徒がいるが、提供される給食費の保護者負担は無い。同町では地下水を生活水として使用しており、水道料が不要なマチということでも知られているが、そうした住環境、子育て環境の良さが移住者増につながっている。
ちなみに給食費に充当させるための町の支出はおよそ6800万円とのこと。漁獲量・金額が好調でふるさと納税寄付額が多額な紋別市同様、豊かなマチだからこそ出来る施策なのかもしれない。
実現するか無償化
「小中学校の給食は本来、無償であるべきだ」との考えがある。児童生徒一人当たり年6万円7万円の負担がかかる自治体がある一方で、負担がない無償化のマチがあることは「教育の地域格差」を助長しているとも言える。
立憲民主党が主導し、日本維新の会、国民民主党がこれに賛同する形で国会に提出された「学校給食無償化法案」は、食材高騰が続く状況下で注目度が高く、児童生徒を持つ父母は、国による完全無償化実現に大きな期待を抱いている。
無償化のための財源4900億円のねん出など課題は少なくないが、この問題の経緯をしっかりと見守っていきたい。
