旭川市総合体育館(ネーミングライツの売却で現在の呼称は「リクルートスタッフィング リック&スー旭川体育館」)に代わる花咲スポーツ公園新アリーナの基本計画案がまとまった。ヴォレアス北海道のホームとして、また旭川市・道北の住民のスポーツの場として活用されるが、その整備には190億円もの費用が必要とされる。市の厳しい財政事情を考えれば、BOTなどによる民間の力の活用や、従来から計画されていた東光スポーツ公園での複合体育施設整備との重複の防止が必要だ。

SVリーグの条件満たす
「花咲スポーツ公園新アリーナ等基本計画(案)」と題された資料が、1月22日の旭川市議会建設常任委員会に提出された。「メインアリーナの収容人数は移動席を含め5000人」「多様なイベント等に対応できる照明設備や音響設備を設置」などの内容が盛り込まれており、スポーツ好きな市民なら実現に期待せずにはいられないはず。問題はこのアリーナ整備に関わる全体の事業費として約190億円が必要だということだ。市役所の立て替えに巨額の税金を投じ、老朽化する上下水道インフラ、市民文化会館の建て替えといった課題を抱える旭川市にとり、これほどの予算を確保するのは容易ではない。市は今年度末までに民間との連携の是非およびその形式を検討し、年度末までに結論を出すことになっている。
そもそも、なぜ総合体育館を建て替えて新アリーナとする必要があるのか。理由は大きく分けて2つある。まず、1979年、坂東徹市長の時代に完成した総合体育館の老朽化が進み、現行の新耐震基準を満たしていない。もう一つは、旭川に本拠を置くプロの男子バレーボールチーム、ヴォレアス北海道にとり、現在の総合体育館では観客数も音響・映像設備も貧弱すぎるということだ。
こうした状況を受けて旭川市では新アリーナ建設に向けた基本計画の策定に取り組んできた。市議会建設常任委に提出された案のなかで注目すべきはその規模。メインアリーナは57×35メートル(現総合体育館は47・1×37・7メートル) 、バレーボールなら2面、バドミントンなら12面分の面積とし、天井は日本バレーボール協会が定めた「12・5メートル以上」を確保する。
観客席は2階に固定席2700席、立見席500席、3階に固定席100席(個室含む)、アリーナフロアに移動式1700席を設けることで、SVリーグの基準を満たす。プロスポーツ興行に役立つ大型映像装置、照明・音響設備なども設置するとしている。
メインアリーナとは別に、35×19メートルのサブアリーナも設ける。他に、多目的運動室、トレーニングルーム、キッズルーム、会議室、飲食等関連施設を設ける考えも「案」には盛り込まれている。
新アリーナだけで市民1人6万円
これほどの規模の施設を新たに建てるのには、巨額の費用がかかる。新アリーナの整備にかかる建設費は140億円、全体の事業費は190億円に達する。旭川市の現在の人口約32万人で割れば、高齢者から幼児まで1人あたり約6万円を負担する計算となる(市は総務省が推進するデジタル田園都市構想の交付金を活用できないか検討している)。
現在の総合体育館も、基本計画案がまとまった新アリーナも、2つの役割を担っている。まず、市民に提供されるスポーツの場。市民の健康増進のためにも、旭川市民のみならず道北全体のスポーツ教育のためにも、体育館は必要であり、既存の施設で老朽化が進み、耐震基準もクリアーしていないとすれば、建て替えに異論は出ないと思われる。もう一つの役割は、プロスポーツ興行の会場としての役割。プロスポーツが民間企業の営利事業であれば、血税を投じて建設することには多様な意見がありそうだが、興行の主催者による一定のコスト負担、プロチームの活動が地域社会にどのような効果を及ぼすのかを検討して判断を下すことになる。
話がそう単純でないのは、旭川市内でもう一つの大規模な体育館の建設が以前から予定されていたためだ。
東光スポーツ公園体育館に100億
東光地区の奥、忠別川に面した広大な敷地で整備中の東光スポーツ公園。2020年には武道館の供用が始まった。周囲には3つの野球場、2つの球技場、パークゴルフ場、広大な緑地などが広がる。最後に残ったのが複合体育施設(体育館)の整備。基本計画によれば複合体育施設のアリーナ床面積は2860平方メートルで、固定席2000席、移動席を含めて合計5000席を確保するとしている。ただし、新アリーナ建設が浮上したことを受けて東光スポーツ公園の複合体育施設は内容や規模を見直し、市民利用や市民による大会の開催に適した規模とし観客席も削減するとするとの方針が、新アリーナ基本計画案に盛り込まれた。
2016年の時点で複合体育施設の建設費としては80億円が見込まれていた。その後の建設コスト高騰でこれが現在の見通しで100億円程度に増加していると旭川市スポーツ施設整備課ではみている。新アリーナに190億円、東光に100億円を単純に合計すれば290億円。さきほどの市民1人あたりの金額に換算すれば約9万円となる。
2館同時期に整備
類似した2つの公共施設が必要な場合、建設の時期をずらして財政負担を平準化するのが常識的だが、旭川市は新アリーナと東光複合体育施設をいずれも2030年までに整備することを目指している。新アリーナについてはSVリーグが定めた「30~31年シーズンまでに5000人以上が収容できるホームアリーナの確保」とのタイムリミットがあり、新アリーナができたとしても、バレーボールシーズン中の週末はヴォレアスとアマチュアスポーツの大会日程が重なるなどの理由で、もう一つの体育館が必要となるためだ。
東光複合体育館については、旭川市が事業費を負担して建設する従来の手法を用いる(事業費の一部に国交省の社会資本総合整備交付金を充てる)。
一方、新アリーナについては、市からの出費を抑えるために、PFIなどの手法を用いた民間との協力が検討されている。
従来、こうした公共施設に用いられてきた手法は「公設公営」(次頁の図参照)。つまり資金の調達から運営にいたるまで行政が行う(実際には運営段階では指定管理者への委託が行われることが多い)。
その対極にあるのが「民設民営」。資金の調達から運営まで民間が行う。その中間には、「DB」「DBO」(以上2つがPFI的手法)、「BTO」「BOT」「BOO」(以上3つがPFI手法)といった5段階があり、どのタイミングで公共と民間の分担が変わるのかに違いがある。たとえばBOT方式であれば、資金調達から運営まで民間が担い、一定の契約期間が過ぎれば施設の所有権が公共に移ることになる。次頁の図では最も上にある従来手法で民間の参画度が最小(財政負担が大)で、下に行けば行くほど民間が自主性を発揮できるようになり、財政負担が減る。ただし、一般市民が利用する公共施設としての性格もあるため、民間の参画度が大きいほど良いとは限らない。旭川市では今後、PFIなどの手法を採用すべきかどうか、具体的にどの方法がベストなのかを検討することにしている。
旭川市では2007年度に建て直された市立高台小学校についてPFI方式を導入したことがある。このときは荒井建設が請け負ったものの、他に手を上げる事業者がなく、コスト削減効果に限りがあったため、その後は実績がひとつもない。
新アリーナについては、民間事業者から市への働きかけがすでに始まっている。昨年10月にはコンサドーレ北海道系の企業、「まちのミライ」がヴォレアスの本拠地を想定した「旭川スポーツパーク・アリーナプロジェクト」構想を発表している。民設民営方式で5000席以上の施設を整備する構想だ。旭川市もこの構想を把握しているものの、まだ正式な提案が行われたわけではない。ただし、旭川市では全国的にこうした実例が乏しいことから、新アリーナの民設民営による整備には慎重な姿勢を示している。
民間事業者からは、まちのミライ以外にもいくつか旭川市への接触があったという。また、旭川市が行った建設業者などへの意向調査でも、多くの企業が参加に前向きな姿勢を示している。PFIなどの採用が決まれば、募集要項を定めた上で公募が始まり、業者の選定が行われることになる。
予定通り2030年に新アリーナをオープンさせるまでのスケジュールは、▽来年度中の業者選定▽26~27年に設計▽27~30年に建設工事と想定されている。
道内では札幌圏のほか、函館、帯広、釧路などでアリーナ・体育館の整備が相次いだ。このうち帯広の「よつ葉アリーナ十勝」(2020年供用開始、メインアリーナは5464人収容)がBTO方式で運営されている。建設と運営を請け負ったのは、ガソリンスタンドやフィットネスジムなどを展開するオカモトを中心とする特別目的会社「とかちウェルネスファーム」。事業期間は2017年から2040年まで。契約上の事業費は施設整備費が62億円、運営維持管理費が41億円となっている。他には大津市、堺市、鳥取市などで、BTO方式によるアリーナ整備の実例がある。
「北見化」防げ
旭川市の財政状況が厳しいのはいまに始まったことではないが、市の関係者が危機感を改めて感じている理由が、北見市における財政の危機的な状況。2025年度以降、毎年30億円の財源不足が発生すると予測されていることから、昨年11月に年約23億円の歳出削減、約7億円の歳入増加を目指す財政健全化計画をまとめた。歳出削減は敬老事業廃止、一部公共施設の廃止、支所・出張所の廃止など行政サービスの縮小につながる内容だ。
北見市の財政危機は、平成の大合併の時期に周囲の自治体を3つ合併して市域が拡大、道路や下水道などのインフラ、プールなどの公共施設が増えたのが原因であり、平成の大合併でとくに動きのなかった旭川市とは事情が異なるが、旭川市でも財政状況が今以上に悪化すれば、新アリーナや複合体育施設の整備のしわ寄せが市民サービスに及ぶ可能性がある。下水道や廃棄物処理施設を使わない市民はいないが、新アリーナについてはすべての市民が使うわけではない。大型スポーツ施設の整備方法を決定する前に、市や市議会は慎重にそろばんを弾き、財政負担を軽減する必要がある。

