旭川電気軌道の全株式取得 ファンドの狙いは?

 投資ファンドJWP(ジェイ・ウィル・パートナーズ)が管理運営する合同会社JGE(ジェイ・ジー・イー)が、旭川電気軌道の発行済み株式を取得する。資本業務提携により、乗務員確保や車両更新など直面する課題に札幌観光バス(札幌市)、北海道北見バス(北見市)と連携して取り組むとしているが、真の狙いは別のようだ…。

スポンサー就任
 「株式会社ジェイ・ウィル・パートナーズと共に旭川電気軌道株式会社の新スポンサー就任のお知らせ」とのタイトルのプレスリリースが、道内2社のバス会社─札幌観光バス㈱(札幌市清田区美しが丘、福村泰司代表)と北海道北見バス㈱(北見市南町、福村泰司代表)─のホームページにアップされたのは2月21日。文面は以下の通りだ。
 「北海道北見バスおよび札幌観光バスは今春を目途に、株式会社ジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)が管理運営する合同会社ジェイ・ジー・イー(JGE)と共に、旭川電気軌道の新スポンサーに就任する予定です。今後は旭川電気軌道および新スポンサーと共に以下の取り組みを推進してまいります。
 〇公共交通機関として持続可能な運営=旭川電気軌道および新スポンサーとの資本業務提携を通じて、グループ全体での運転士確保等の施策を推進し、路線バス利用者の減少や運転士不足などの業界課題に対応することで、公共交通機関として安心・安全なサービスを持続的に提供できる安定した運営を目指します。
 〇道内広域連携による観光インフラの強化=旭川電気軌道との資本業務提携により、グループ全体の車両保有台数が道内有数の規模になる見込みです。道内の観光産業は本格的な需要回復の兆が見えつつある中、グループ全体の経営資源を活かした広域事業連携を実現し、観光地ルートの最適化・アクセスの向上を目指すことで、道内観光インフラの強化と更なる需要回復に貢献します。
 続いてこのプレスリリースには、旭川電気軌道とJWPの会社概要も掲載している。
 「旭川電気軌道は1926年創業。旭川を中心とした路線バス事業を主体とし、新千歳空港─旭川を結ぶ都市間高速バス事業と旭川地域を中心とした貸切バス事業も運営」「JWPは2003年に設立された投資ファンド運営会社。日本国内の機関投資家等からの資金により、全国各地の中堅、中小企業の成長、再生、事業継承等において豊富な投資実績を有する」
 バス会社2社がホームページにこのプレスリリースをアップした翌日「旭川電気軌道、北見バス、ファンドなど4社、4月にも資本提携」との新聞報道があり、その後視点をかえた報道が続いた。
 利用者減や運転手不足でバス事業者の経営環境は厳しく路線廃止や減便が続いている。旭川電気軌道も23年に大幅な減便を実施している。ファンドの下での北見、札幌との同業者資本業務提携によって、安定した路線バス運営につながるのであれば歓迎すべきことだが、しかし道内バス業界の受け止めは極めて懐疑的だ。各社は「この資本業務提携がバス事業者が抱える利用者減と運転手不足の解決策になるとは思えない。提携の狙いは別にあるのだろう」と口をそろえる。

親会社は札幌
 北海道北見バスは、北見市や近郊での路線バス運行のほか、札幌や旭川と北見を結ぶ都市間バスを運行。24年9月時点のバス保有数は108台。
 同社の〝生い立ち〟は曲折を経ている。
 前身は1942年創業の北見乗合自動車㈱。その後、北見バス㈱に組織と名称を変更し事業を続けていたが、乗客の減少、バブル崩壊による関連事業の不振が続き経営破綻。オホーツクエリアで様々な事業を展開していた東京急行電鉄㈱(現・東急㈱)がバス事業継承を目的に1998年に北海道北見バスを設立した。その後東急の事業再編により、投資ファンドJWPの子会社ジェイ・エル・ディー(東京、のちに解散)の100%子会社となった。しかし2011年7月に北海道北見バスの経営陣が株式を買い戻し再出発した。しかしそれも長続きせずまた体制がかわる。北海道北見バス経営陣の高齢化と後継者不在から、過去に非常勤役員を務めた経歴がある福村氏が経営する貸切バス事業者・札幌観光バス㈱の子会社となるのだ。5年前、20年8月のこと。
 北海道北見バスを100%出資子会社とした札幌観光バスは2008年の創業。創業時の代表は神田光彦氏で、2013年に福村泰司氏に代表が代わっている。バス保有数は38台。
 企業規模が小さい札幌観光バスが北海道北見バスの親会社で、2社の代表者は福村氏が務めている。JWPとの間の資本関係は不明だが、「東京在住の福村氏はファンドの人間で、実質的に2社の経営権はファンドが握っている」というのが道内バス業界の〝認識〟。
 北海道北見バスが運行する多くの路線が赤字となっており、国・道・市の公共交通機関維持を目的とした「生活交通路線維持費補助金」が不可避で、経営は決して楽ではない。親会社の札幌観光バスはコロナ禍が緩和されたことで24年3月期は増収となったが、4期連続赤字。
 路線バス140台、貸切りバス16台を所有する旭川電気軌道㈱も、規模こそ大きいが補助金を得て経営が継続している厳しい状況は北海道北見バスと同じ。コロナ禍が去って売上高は20億円台を回復し、24年3月期は21億9600万円を計上したものの、経常利益、当期純利益は引き続いてマイナス。6期連続の赤字決算となっている。
 ただ、旭川電気軌道は優良な不動産を数多く所有している。
 豊岡3条2丁目の「アモールショッピングセンター」、4条西の「旭川4条通商業施設(ツルハほか)」、旭町2条4丁目の「貸店舗(はま寿司)」、神楽4条12丁目の「貸店舗(トライアル)」などなど。これらの不動産賃貸収入が旭川電気軌道の経営をどうにか支えている。仮にこれがなければ旭川電気軌道の決算は大赤字で経営存続は難しいのが現実だ。

リターンを求め
 バス業界、また旭川の経済人は「補助金頼みのバス事業を再建するための株式取得・資本業務提携とは思えない。他に狙いがある」ととらえているが、その狙いとは「旭川電気軌道が所有する優良不動産」なのだという。
 旭川エリアの不動産物件の動静に詳しい経済人のK氏の話─
 「投資家から集めた資金を用いて稼ぎ、そのリターンを分配するのがファンド。補助金頼みのバス事業に興味はないだろう。あるのは、旭川電気軌道が所有す賃貸物件・商業施設。私の聞いている話では、大半の株を所有する創業家・豊島家との間で昨年秋ころまでに株式譲渡の話はまとまった。その後、主要な賃貸物件の買い手をあたっていて、メインの物件の一つはすでに売却相手と話が進んでいるとも言われる。仮の話だが、旭川電気軌道所有の不動産を売りぬいたならば数十億円の売却額となる。3月28日に臨時株主総会が開催され、ここで株主変更の承認を求める手筈(てはず)となっている」
 旭川電気軌道の発行済み株式は714万株で株主は740名余り(法人を含む)。1株の額面は50円だが、28日の臨時株主総会では額面3倍の150円への変更も提案される模様。
 また3月28日には旭川電気軌道の優良子会社・株コンピューター・ビジネスの臨時株式総会も予定されている。議案は「株式併合」で、旭川電気軌道の完全子会社への承認を求める。こちらも、額面500円の株が8900円に変更となる。
 ファンドのJWP、そこが管理運営しているといわれるJGEの旭川電気軌道全株取得は、スケジュール通りすすむものとみられる。バス業界などの見方が正しいとすれば、旭川電気軌道が所有する優良不動産は次々に切り売りされていくことになるのだろう。株式を所有したものが会社を支配する。
 旭川市民としては、路線バスの運行だけは継続してもらいたいと願うばかりだ。補助金を支出し経営を支えてきた旭川市とともに旭川電気軌道の動静を見守っていきたいと思う。

この記事は月刊北海道経済2025年04月号に掲載されています。
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