㈱カワムラホームが新潟県妙高市の住宅メーカー、ヤマダコーポレーション㈱のすべての株式を取得して、完全子会社化した。カワムラホームは「北海道に住まいの相談窓口を作る」というミッション、2030年に北海道ナンバーワンの住宅新築・リフォーム・不動産会社になるとの目標を掲げるが、早くもその先にある全国展開に向けて一歩を踏み出した。

2月には札幌で15棟
新潟進出に触れる前に、昨年4月に「カワムラ」から社名変更したカワムラホームの最近の動きに注目したい。札幌市内で不動産事業と住宅の新築事業を強化しながら、「カウイエ」ブランドの中古住宅リノベーション専門店は4店舗まで増加。もう1店の開設が予定されている。注文住宅については昨年12月にマイホームセンター豊平でモデルハウスを開設。以来、業績は好調で、札幌圏では今年2月だけで分譲と注文を合計して15棟の契約が決まった。今年5月には札幌市東区でもモデルハウス2棟を併設するショールームを開く計画が進行中。旭川から出発した「北海道の住まいの相談窓口」が札幌でも順調に拡大している。
カワムラホームは昨年度(2024年2月~25年1月末)、180棟の住まいを受注した。昨年12月に進出したばかりの札幌市内がうち10棟を占めた。今年の目標は旭川が180棟、札幌は一気に100棟を目指す。大胆な目標だが、札幌進出以来の3ヵ月で注文住宅18棟、分譲住宅10棟、合計28棟の実績がすでにあることから、川村健太社長は達成に自信を見せる。
札幌の住宅市場は需要も多いが、しのぎを削る業者も多い。なぜ「新参者」のカワムラホームの業績は順調なのか。最大の強みはコスト。川村社長によれば「競合他社の同等性能商品に比べると約100万ほど安く商品を提供できている」。もちろん適正利益も載せている。
「建材店として出発した当社は、いまもメーカーと直接取引している。旭川市内での商売では気が付かなかったが、札幌で激しい競争にさらされながら、メーカーとの直接取引の強みを実感している」
途切れず仕事依頼
しかし、急速な事業規模の拡大には、人は足りるのかという不安がつきまとう。「仕事はあってもそれを担う社員、職人が見つからない」といった嘆きをよく耳にする。カワムラホームはどうなのか。川村社長は社内のスタッフと工事を担う大工や職人に分けて説明する。
「いま社員は約200人に達しているが、そのうち20代以下が65%を占める。30代以下に範囲を広げると比率は80%にまで高まる。若い人が集まっているが、給与水準は旭川市内の企業と比較すれば高いものの、それほど大きな差があるわけではない。世間で言われているほど人はお金で動かない。『住まいの相談窓口を作る』というミッションが共感を広げていること、育成制度やキャリアアップ制度の充実、現在3人いる専任スタッフによる入念な採用が効果を発揮している」。
人手不足は住宅産業が抱える最も深刻な問題だが、川村社長は意外な反応を見せた。「当社は年間を通して仕事をお願いしている。通年でしっかり工事があり、その合間にリフォーム工事を入れることができるので、他社に比べると業者・職人が集まりやすい形になっている」。
カワムラホームの「住まいの相談窓口」は、家に関するさまざまな局面で途切れずに顧客と関わっていくことを目指す。土地購入、住まいの新築や中古住宅購入、転売、また別の家の購入…。短期的には新築だけに集中したほうが利益は多く、本州の大手ハウスメーカーは新築に集中している。あえてリフォームや不動産も手掛けるビジネススタイルは珍しい。「いま、うちは旭川での新築棟数1位。リフォーム件数もうちが市内最大手。(旭川市内の不動産業者が運営する)不動産サイトIRIに登録している物件数はうちが最多。どの分野でも個別では道内にもっと大きな企業はあるが、中核市以上のまちで、住宅の新築・リフォーム・不動産の地域三冠王の企業は日本中探してもカワムラホームだけだ」
こうした強みを生かして、25年1月期決算の売上高は65億7000万円(速報値)。4年連続の過去最高売上、過去最高営業利益を記録した。
全国展開の第一歩
話をヤマダコーポレーションに戻そう。同じ寒冷地でノウハウが共有できること、山田孝一前社長の経営理念に共感したことなどがきっかけとなり、カワムラホームは2月5日で同社の全株式を取得して完全子会社とした(譲渡価格は非公表)。まずはPMI(M&Aによる統合効果を確実にするための統合プロセスとマネジメント)を行っている。将来は新潟でも北海道と同様の「住まいの相談窓口」を作るのが目標だ。
ヤマダコーポレーションは青写真の一部に過ぎない。カワムラホームが2030年までの達成を目指す目標は「年間1000棟を建てて、北海道最大手となること」。そのためには、旭川から札幌だけでなく道内主要都市に進出する必要がある。
ただ、住宅産業の現状は厳しい。小規模な業者はコスト上昇、人手不足、地域経済の低迷による需要の減少でピンチに瀕している業者も少なくない。「幸い、当社は業績が好調。悩みを抱える他の地場住宅メーカーをお手伝いすることができる」。近く持ち株会社を設立して、その傘下に各地の地場住宅メーカーを社名を維持したまま迎えることで、経営改善のノウハウを共有していきたい」。
この構想の最初のモデルケースとなるのが新潟県ヤマダコーポレーションのM&Aだった。人生最大の買物は家。住宅産業が地域経済に及ぼす影響は大きく、各地の地場住宅メーカーを盛り上げることは、そのまま地域創生につながる。「それがユーザーにも、働く人にも、地域社会にも最も良い形。全国の地場住宅メーカーを『足し算』することで、日本で最も多く住まいを建て、リフォームを手掛け、不動産を売っている企業にする。それが私のビジョンです」と、川村氏は語る。
