旭川ゴルフ倶楽部再建 アイ・グループが主導へ

 経営が悪化している旭川ゴルフ倶楽部が2月22日に開いた株主総会で、大野謹慶社長に代わる新しい経営者として紹介されたのは土木・舗装・解体・福祉など幅広い事業を経営するアイ・グループの池生秀美会長だった。土木工事のノウハウという、ゴルフ場の経営に直接的に役立つ強みを持つ池生氏は、名門・旭川ゴルフ倶楽部の再建は十分に可能との見方を示すが、前提条件となるのが所有権が多くの株主に分散している現在のメンバーシップ制から、オーナーが強力に改革を主導できるオーナシップ制への移行。3月15日に開催される株主総会で従来の株主から同意を取り付けられることができるかどうかが、旭川ゴルフ倶楽部の命運を左右する。

土木工事のノウハウ
 予定通り2月22日に開催された㈱旭川ゴルフ倶楽部の定期株主総会。「株式譲渡先・事業継承者」としてアイ・グループ会長、池生秀美氏(64歳)が紹介された。
 池生氏は土木業・舗装業・解体業から事業を興し、その後高齢者福祉事業、マンション管理業、障がい者福祉事業などに次々と参入。東日本大震災の発生以降は、旭川での事業経営を息子の圭輔氏・大貴氏に任せ、福島県を本拠に復興関連の事業に注力。近年はカンボジア関連の事業にも参入している。ちなみに池生氏に記者が前回取材したのは、キャンピングカーを提供してチャングンソク主演の韓国ドラマの旭川ロケに全面協力した2012年3月のことだ。
 その池生氏に旭川ゴルフ倶楽部から打診があったのは今年に入ってから。複数の相手との交渉はいずれもまとまらず、池生氏が最終的に経営再建を引き受ける決断を下した。
 池生氏や子息はゴルフ好きであり、道内で3番目に開場した旭川ゴルフ倶楽部を存続させたいという気持ちがあった。ゴルフコースの整備には土木工事や芝の管理が不可欠だが、アイ・グループが持つノウハウや人員、設備が直接的に生きる。運営面についても、冬期間のレジャー関連の営業など「のびしろ」が残っているとの感触を得た。一方で損益状況は厳しく、2024年12月期の当期損失は2281万円。資産内容も厳しく、現経営陣はすでに債務超過の状態にあることを率直に認めている。

権限集中が条件
 こうした状況の下での再建には、前提条件が存在する。現在の株主や株式を持たない会員が、権利のすべてまたは大部分を放棄することで、所有権と経営権をアイ・グループに集中し、強力な改革に道を拓くこと。前号でも触れた、多くのメンバーがゴルフ場を共有する「メンバーシップ」から、オーナー企業がゴルフ場を所有して大胆な経営判断を迅速に下せる「オーナーシップ」への転換だ。
 池生氏は本誌の取材に対して「なんとかして再建を成し遂げたいという思いはあるが、そのためにも株主や会員の皆様にご理解ご協力をいただきたい」と語る。
 2月の定期株主総会では池生氏は紹介されただけだが、オーナーシップへの転換を核とする改革の大枠に表だって反対する声は出なかった。3月15日に開催される臨時株主総会では、オーナーシップ化が了承され、大野氏以外の取締役が辞任し、池生氏などアイ・グループ関係者が新たに取締役となる見通しだ。
 オーナーシップ化で、株主や会員にはどんな利点があるのか。それはゴルフ場が継続するということ。旭川ゴルフ倶楽部から会員に3月上旬に郵送された書面の中で、預託金はカットされるが引き続きメンバー料金でのプレー権利が確保されると強調し、賛同を求めている。では株主らの反対でオーナーシップ化がとん挫すればどうなるのか。他に経営を引き受ける人物が今から現れるとは考えにくく、現在の財務状況から考えて、短期間のうちに経営が破たんし、プレーができなくなる可能性が高い。
 そもそも、現在道内のゴルフ場では、会員権相場が道央圏の一部高級コースを除いてあってないようなもの。仲介業者のサイトには買い取り希望価格として「1万円」といった数字が並んでおり、会員が権利を放棄したとしても大きな損失を被るわけではない。むしろ経営が破たんしてプレーができなくなる方が影響が大きい。
 一部の株主のなかには、「旭川ゴルフ倶楽部の敷地の一部は宅地開発が可能であり、ゴルフ事業を断念したとしても、宅地として売却すれば良い。株式をタダで手放す必要はない」との見方もあるが、これは画に描いた餅。まず、敷地の多くは市街化調整区域に入っており、宅地化は事実上不可能。コースの下にトンネルがあるゾーンではボーリング調査もできない。開発可能なゾーンもあるが、起伏に富むコースを敷地にするには、大がかりな土木工事で平坦化する必要があり、これも現実的な話ではない。

既定の日程通り
 旭川ゴルフ倶楽部がこれまでに交渉した相手の中には、過去にM&Aで取得したコースに太陽光パネルを並べて発電所にしていたことがわかり、破談となったところもある。現在の経営陣は、ゴルフ場として存続することを経営承継の条件としてり、池生氏も「息子たちやその子どもの代までゴルフ場として継続するつもり」と強調する。
 旭川ゴルフ倶楽部には春以降のコンペの予約がかなり入っている。公式競技の日程も組まれている。アイ・グループの傘下に入ったあとも、これら既定のスケジュールは変更しない方針。25年シーズンの料金体系もすでに決まっているため、手をつけないという。運営面で大規模な改革に着手するとすれば、26年シーズン以降のことになりそうだ。
 存続の希望が見えてきた旭川ゴルフ倶楽部。3月15日の臨時株主総会に注目だ。

この記事は月刊北海道経済2024年04月号に掲載されています。
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