生活に困っている人、手助けを必要とする人が、救済制度の存在を知らず、アクセスの仕方が分からない、または利用をためらうという現実がある。地域内のそうした人たちのニーズを掘り起こし、「公」につなぐ民生委員・児童委員(民生委員)が旭川市において数年後に半数が退任する見通しであることが分かった。民生委員のなり手不足は全国的な傾向で、定年を迎えた高年者が担う役割という固定観念を打破し、いかに働き世代を取り込むかが課題となっている。改選を迎える12月までに旭川市は条例で定める定数を確保できるのか?

無給のボランティア
民生委員は、厚生労働大臣が委嘱する非常勤の地方公務員で、無給のボランティアとして活動する。任期は3年で再任も可能だ。厚労省が定める基準(170~360世帯に一人配置)を基に市町村ごとに人数を定める。
旭川市の現行定数は786人で、およそ250世帯に一人配置する。4月1日現在の民生委員は750人(男性325人、女性425人)で、定数に36人足りない。平均年齢は68歳で、全国平均に比べ2歳ほど高い。
市内を34地区に分け1地区につき10~38人の民生委員が身近な相談相手として活動している。民生委員自らも、その地で暮らす。
日常生活を営むのに困難を抱える高齢者やハンディを抱える人、食べるものにも事欠くなど経済的に苦しい家庭、児童虐待が疑われるケース、子どもが親の介護に追われるなどのヤングケアラーといった状況は、とかく「潜在」しがちだ。
地域に身を置く民生委員は、こうした潜在的状況をすくい取り、公的関係機関などへのつなぎ役を担うことになっているが、〝ミンセイイイン〟の言葉からもっと重い響き、例えば相談相手の抱える問題を主体的に解決する人といったイメージを感じ取る人も多い。
民生委員は解決者ではない
「民生委員は解決者ではありません。気づいてつないであげる、所管する公的機関へのつなぎ役なんです」(所管の旭川市福祉保険課)。さまざまな問題・課題を解決する人─。そんな民生委員のイメージが未だ社会に浸透していることが、なり手不足の要因のひとつと見る。
解決者の役割は「時間がない」「難しそう」といった理由から敬遠されがちで、旭川市では30~64歳の民生委員の比率が全体の3割弱にとどまる。
「解決者として頑張らなければならない、ということは一切ありません。地域で困りごとを抱えている人、課題のある家庭を関係機関に連絡してつなげてあげる役割にとどまります。民生委員がいなくなれば地域で困っている人が埋もれてしまう」(同)
日本では、核家族化が進展するとともに2005年に施行された個人情報保護法が地域社会にも浸透する中で、第三者・殊に「公」がプライバシーに介入することに委縮しがちだ。こうした社会状況下おいて、域内に住む民生委員が埋もれるニーズを掘り起こす役割の重要性が増す。
さらに2000年代以降、国内を覆う自己責任論によって「助けて!」と声を上げづらい社会状況が創られ、声はよりか細く、ニーズはより潜在化している。バブル崩壊以降、民生委員の役割の重要性がより増しているのが実情だ。
一方で、民生委員のなり手不足が全国的な課題ともなっている。
旭川市でもショッキングな数字が試算されている。
7年以内に半数384人が退任
「6、7年以内に今いる民生委員の半分ほどが退任する見通しです」(旭川市福祉保険課)。再任期基準日の年齢制限の内規があり、7年以内に半数にあたる384人が制度上続けられなくなる。
2022年度の旭川市の民生委員の年齢構成を見ると、75~79歳が11.1%(2022年度厚労省資料による全国平均は6.2%)、70~74歳が35.6%(同31.1%)、65~69歳が26.3%(同30.3%)、64歳以下が27.0%(同32.4%)となっている。国の平均に比べ旭川市の民生委員の高齢化は顕著だ。
「民生委員を務めている人は、真面目で誠実な人が多いです。後継者が不足している状況下で辞めることが難しくなり、頑張っているうちにベテランになられます。若い人が、なかなか育っていません」(同)
従前の60歳定年から65歳に延長したことに伴うライフスタイルの変化も民生委員のなり手不足に拍車をかけている、と見る有識者もいる。
ライフスタイルの変化に加え、従前からまとわりつく民生委員になるための「高い壁」のイメージの払拭も課題だ。具体的には、辞退理由に挙げられる▽時間がとれない▽事務が煩雑そう▽福祉に詳しくない▽難しそう─などにどう対応するかだ。
こうした課題は、旭川市に限らず全国共通のものだ。旭川市は、こうした課題解決に向け独自のアプローチを試みる。
全国に先駆けICTを活用
民生委員に対する固定観念を打破し、働き世代をターゲットに、なり手の裾野を広げ仕事・家事・育児・介護をしながらも充実した活動ができるようにするため、旭川市は環境整備が必要と判断し、全国に先駆け民生委員の活動にICTを活用する事業に取り組む。経験豊かな先輩民生委員が培ったノウハウを新任委員が承継・共有することも視野におく。
2023年度に民生委員専用の業務支援ポータルサイト「クローバー」を独自に開発し、タブレット(コンピュータ端末・ハードウェア)を貸し出し、今年1月時点で3地区・65人の民生委員が使う。「こんな場合は?」「どこに連絡したら?」「〇〇と相談されたけど?」─。サイト内の相談掲示板で先輩のベテラン民生委員からアドバイスをもらったりできる仕組みだ。活動記録の作成などの事務の軽減を図るほか、ペーパーレスで事務連絡や資料を共有でき、時間も短縮できる。
さらに、2024年度には、FAQ(業務質問のデータベース化)システムを開発・導入した。民生委員がシステム上で、分からないことや疑問と思ったことを質問すると、AI(人工知能)が自動で回答を生成し、内容が表示される仕組みだ。民生委員77人がモニターとして事業展開している。AIが学習を深めることで、今後より広範囲に精度の高い回答生成が期待される。
こうしたICTを活用することで、▽活動に対する不安感と負担感の軽減▽活動の不明点の解消▽経験豊富な先輩民生委員のノウハウの共有─が可能になる、と旭川市は期待を寄せる。
「民生委員の欠員は増加傾向にあります。その対策としてICTを活用し、新任や経験の浅い民生委員を側面からサポートしていきたいと考えています。ICTを活用することで『自分にもやれるかな』と思っていただければ」(旭川市福祉保険課)
一般的に抱かれがちな「難しそう」「とてもとても私には……」といった民生委員へのイメージをICTを活用すことで払拭し、なり手の裾野を広げたい考えだ。かしこまらず、もっと緩く─のイメージの創造を願う。
「踏み出し良かった」
民生委員のなり手の選出は市内各地区の市民委員会・町内会に委ねている。これは、旭川市に限ったことではない。
旭川市の場合、市内の福祉関係者や有識者らで構成する「民生委員推薦会」が厚労大臣に推薦する手順を踏む。
課題として横たわるのは、この前段階の推薦会に推薦者を内申する市内各34地区の推薦準備会(市民委のメンバーらで構成)が推薦者選出に難渋することだ。
実際は、退任する予定の現任民生委員や町内会の役員がシンプルに言えばめぼしい人にアプローチし、口説くのが実態だ。
「頼むわ!」。30年ほど前、旭川市内のある地区の民生委員の男性は、当時の民生委員から後継者として乞われたと明かす。「当時は民生委員イコール生活保護世帯との関係が中心の業務という印象しかなかった」。ためらっているとこう言われた。「この地域が住みやすいように、一生楽しく住むことができるような場所になるよう活動することだから」。やってみて気づいた。「地域が元気になるようにイベントを企画してわりと自由に動けます」。こうも言った。「サロン活動を通して地域の人が互いに助け合う共生社会を目指して動いています。互いに助け合うことで住民に生きがいが生まれます」。この民生委員の男性は、やりがいを感じている、と話してくれた。
別の地区の民生委員の女性も、自ら進んで引き受けたわけではない。他の住民に断わられ続けた町内会・市民委員会の有志らが次々と訪れ、繰り返し説得された。12年前のことだ。転勤族で故郷・旭川に戻って数年経った頃だった。当時家族の介護を担っていた。「そのころは隣近所誰も知らない人ばかり。自分のためにもなるし、親の介護のためにもなると考えました」。依頼が舞い込んだときは悩んだが、引き受けることにした。
「民生委員イコール生活保護のイメージがありましたが、そればかりでないことがわかってきました」。自宅の庭仕事をしていると声をかけてもらえるようになった。「私も気軽に庭仕事をしている人に声をかけます。こうした人間関係ができると、『ちょっと、〇〇〇の所のカーテンずっと開いてないよ』って連絡をくれたりします」
この民生委員の女性は、担当区域の独居のお年寄りを65~74歳と75歳以上に分け巡回する。「今は、ご夫婦で75歳以上の世帯がとても増えていると感じています」。老老介護で地域から孤立するケースは少なくない。さらに、高齢の一人暮らしの男性は社会とのつながりが淡いのも昨今の課題として立ちはだかる。
「俺はいい」「俺には、そういうのは関係ない」。一人暮らしの高齢者の男性宅を訪ねるとそんな感じで門前払いを食らう。「だけどね、3回、4回も行くと『家にあがってくれ』って。そして昔の若いころの話をしてくれます。心をちょっとずつ開いてくれるんです」
感慨深く感じ入るようにこの民生委員の女性はこうも言った。「たくさんの人生の生き方を見ることができます。ちょっと勇気を出して一歩を踏み出して私は良かったな、と思っています」
11月末70数人が退任
今年12月1日、全国一律に民生委員の一斉改選がある。旭川市の次期改選の定数は現行から3人減の783人だ。年齢のために退任する人のかわりだけで、旭川市は70数人確保する必要がある。そのほか、諸事情に伴う退任者もいるはずだ。
5月下旬以降、順次、旭川市から委嘱を受けた市民委・町内会の役員らで構成する「民生委員推薦準備会」が各34地区に立ち上がり、推薦者選考の協議に入る。8月中旬までに市に推薦者を報告・提出しなければならない。初夏~盛夏にかけヤマ場を迎える。
12月に改選を控え、退任予定民生委員のいる各地区ではすでに人選に向けた模索が始まっている。各地区から寄せられる情報などから、旭川市は現行と比べ多大な欠員が生じる不測の事態にはならない、と見ているようだ。「各地区のみなさんと一緒に共に定数の充足を目指していきたいと考えています」(旭川市福祉保険課)
旭川市が2023年度から始めたICTの活用は、民生委員制度が内包するなり手不足の古典的課題に対し、欠員増を緩やかにしてくれる、との期待が寄せられている。今後芽吹き、功を奏すると思われる。
「ICTを活用して2ヵ年で土台ができました。使われている民生委員の声からも手応えを感じています。中長期的なスパンで、なり手不足の課題解決に取り組みます」(旭川市福祉保険課)

