26億円投じ美瑛に新リゾート

台湾ラベンダーフォレスト 王会長に聞く

 2011年にオープンした台湾資本のペンション「アダージョ」(美瑛町みどり、中国語名は「緩慢」)。2019年にはヴィラを併設。最近は台湾人や日本人以外の宿泊客が増えている。そして現在グループ企業が進めているのが、美瑛町内でのホテル、ヴィラなどからなる大型複合施設「十勝岳リゾート」(仮称)の建設。運営会社ラベンダー・フォレストの王村煌会長にインタビューした。

本国でも規模拡大
 ──本国の台湾では複数のブランドを掲げ、ヒーリング、ペンション、ホテルなどの事業を展開していますね。
 王会長 2001年、最初に立ち上げたのはラベンダーフォレスト(薫衣草森林)です。2人の創業者女性(銀行に勤務していた詹慧君氏とピアノ講師だった林庭妃氏)が夢を実現し、ラベンダー農場兼レストランを開いて創業しました。ラベンダーフォレストは現在台湾に2つの拠点(台中、新竹)があります。北海道でいえば上野ファームのような郊外の2~3ヘクタールのエリアで、森林体験、飲食、ハーブ採取、エキスの抽出、蛍の森の散策などさまざまな日帰り体験コースを用意しています。来年、台湾中部の南投に三番目のラベンダーフォレストを開く予定です。
 アダージョ(緩慢)は、ヒーリングやスローライフを重視した宿泊施設で、この美瑛のほか、台湾でも著名な観光地の九に近い金瓜石など3ヵ所に展開しています。桐花村は台湾中部、苗栗県にある客家料理のレストラン、心之芳庭は南投にある結婚式会場、レインディア(尋路)は森林体験のできる宿泊施設で台中、苗栗、(台湾中部の湖)日月潭に展開しています。他に各地でセレクトショップも開いています。これら台湾国内の施設の利用者は8割が台湾人で、残り2割は香港、シンガポール、マレーシアなどの華人が大半です。
 ──美瑛では2011年からアダージョを経営してきましたね。
 ラベンダーフォレストで創業した私たちは、ラベンダーで有名な富良野や美瑛を訪問し、このエリアが大好きになりました。2011年、既存のペンションを高齢で引退する前経営者から購入して改装、美瑛アダージョとして再出発しました。当時私たちの企業規模は現在よりも小さく、また国際的な経験もなかったため、日本でのペンション取得は非常に大きな決断でした。
 2019年には、隣接する敷地に5棟の高級コテージ「白樺庵ヴィラ」を建設しました。設計は伊東豊雄事務所から独立した建築家の佐野健太さんにお願いしました。
 コロナ禍が明け、日本の観光業はインバウンド客で盛況であり、私たちの日本における事業も順調です。美瑛での業績はコロナ前を30%程度上回っています。日本の地方はインバウンド客にとり魅力的になっており、アダージョでも、もともとの台湾人や日本人宿泊客に加えて、他の国からの旅行者も増えています。従来の中国語、日本語だけでなく、英語での接客が重要になっています。


「魂が追いつける」
 ──台湾でも美瑛でも、施設内ではテレビを観ないよう勧めていますね。
 このアダージョでは、テレビの放送を視聴できません。旅行に出た時には、非日常の時間のなかで家族や友人と、さらには自分自身とも仲良く過ごしてほしいというのが私たちの哲学です。台湾の人もテレビが好きですが、テレビをつけたままで交流するのは難しい。私たちのスローガンは、「スローダウンすれば、魂が追い付ける」。これほど美しい場所で非日常の時間を過ごすのなら、テレビより、楽しく話をしたり、自分と対話したほうがいいでしょう?
 代わりに本を読んでもらえるよう、良い本を多くそろえています。台湾には大手書店チェーンに属しない「独立書店」があるのですが、彼らと協力し、拠点のある場所の文化や歴史に関する本や、その地域の作家の作品を集めています。例えば海の近くの宿では海洋文化に関する本を増やすといった具合です。
 館内で流れる音楽も選んでいます。「アダージョ」はもともと楽譜上でゆるやかな演奏を指示する音楽用語です。現代人の生活は「アレグロ」(速く)で、何時に起きるか、何時に出勤するかがすべて決まっています。ここではアダージョで生活してほしいですね。
 ──美瑛のアダージョでは、夏と冬どちらが繁忙期ですか。
 もともとは夏が繁忙期でしたが、コロナ禍が終わってからは、冬のお客様が増えています。4月と11月以外は年間を通して繁忙期です。私たちだけでなく、他の宿泊施設も同じでしょう。道民にとって冬の生活は大変でしょうが、台湾人も東南アジアの人も、スキーだけでなく、北海道の冬の静かで穏やかな雰囲気にあこがれがあります。
 
有休制度に違い
 ──宿泊者はどのように時間を過ごしますか?
 ここまでレンタカーで来る場合や、私たちが美瑛駅まで迎えに行く場合があります。到着後は館内でゆっくり時間を過ごしたり、青い池をはじめとする観光スポットを訪れたりします。スタッフは東川、美瑛、富良野エリアのカフェやレストランなど50ヵ所以上のオススメ情報をまとめてお客様に提案しています。
 台湾人の旅行需要の最近の傾向として、景色を見るだけの観光よりも深い、「生活感」を求める人が増えています。この地でより長い時間、生活する感覚です。以前は1泊だけのお客様が中心でしたが、最近は2泊、3泊する方が増えています。この地に滞在しながら、美瑛や富良野を楽しむスタイルであり、風景の美しさだけでなく、歴史や文化、生活感、現地の方との交流も含めた楽しみ方です。こうした思い出があれば、帰国した後でこの地のことを思う気持ちが強まるでしょう。
 もう一つの傾向が「ヒーリング」志向です。とくに女性に、旅行を通じて心身ともに癒されたいと願う人が増えています。仲間とともに旅先でヨガや園芸などを楽しむ旅行が増えているのも、癒しを求めてのことでしょう。
 ──そうしたスローな旅行の前提になるのが、長期休暇の取得ですね。
 日本にも台湾にも有給休暇の制度がありますが、台湾の場合、「有休を使わないまま無駄にする」ことが制度上できません。使われなかった有休は、雇用者がお金で買い取ることになっています。台湾では、個人と団体(会社)の地位は平等という観念が定着しています。
 台湾の人口はいま2340万人ですが、1年にのべ1684万人が海外旅行に出かけました(2024年)。日本の人口は約1億2450万人で、海外旅行に出かけたのはのべ1300万人(同)です。一方で、台湾では少し前まで、ツアーに参加したり、大家族が7~8人で一緒に海外に出かける傾向がありましたが、最近ではツアーや大人数の旅行だけでなく、少人数や一人旅も増え、多元化しています。スマホの普及で個人旅行が容易になったことも影響しているのでしょう。
 
新拠点続々と
 ──美瑛駅前でも新しい拠点の計画がありますね。
 美瑛町の駅に近いエリアでも今年8月に宿泊施設を2つ開きます。レインディアは、1階がレストラン、2階は4室のペンションです。もう一つがGIO(中国語名は「就」)です。美瑛ではレストランや食堂の数が十分ではなく、「ランチ難民」が生じていると聞きました。また、いま美瑛エリアで最も多いインバウンド客は韓国人です。町民の方、韓国人観光客の方に来ていただきたいですね。
 ──大規模なリゾート施設の計画があるそうですね。
 ここから車で約9分程度の場所にある1万3500坪の土地(旧オルテの丘)で、「十勝岳リゾート」(仮称)を建設中で、来年7~8月にプレオープンしたいと考えています。17室規模のホテル、ヴィラ16棟、レストラン、カフェ、サウナ、藍染を体験できるワークショップを建設します。藍染については、台湾の著名な藍染工房と協力します。投資額は26億円です。台湾で上がった収益を美瑛に投資しています。
 ──日本の金融機関から借り入れるのですか?
 すべて台湾からの投資です。この地域の発展に貢献しているのに、日本の金融機関は貸してくれません。率直に言って、理解しがたいですね(笑)。
 建設工事はこの地の業者と協力して進めます。例えば設計は中原建築設計事務所(旭川市)にお願いしました。地域の発展に貢献したいとの思いからです。付近の住民の皆さん向けに2回、説明会を開き、私が計画の概要を自ら説明して、賛同を得ました。敷地内にある大半の樹木は今のまま残します。オープン後には町民をスタッフとして迎える予定です。
 美瑛アダージョの位置づけがペンションであるのに対して、十勝岳リゾートは文字通りリゾートであり、コンセプトが大きく異なります。十勝岳連峰の山並みが見渡せ、藍染ワークショップやガーデンも設置することから、十勝岳リゾートでは滞在時間がより長くなり、「美瑛ライフ」の魅力を存分に味わっていただけると期待しています。
 ──王会長は正式な美瑛町民だそうですね。
 今年、住民登録を済ませて正式な町民となりました。十勝岳リゾートではなく、14年前からアダージョを運営してきた実績を評価していただいた結果です。私たちが大好きな美瑛を、十勝岳リゾートの事業を通じてさらに発展させたいですね。
 ──仕事とは別に、世界各国を私的な旅行で訪れているそうですね。
 今回の訪日の前にオランダやイギリスに行ってゴッホ美術館やチューリップ畑などを見てきました。私的な旅行ですが、私のビジネスのインスピレーションはこうした旅行の中で湧いてきます。もちろん、最も頻繁に訪れているのは日本で、昨年は9回来ました。これまでに47都道府県のうち40ほどは訪れました。

交通充実に期待
 ──北海道民のインバウンド客への対応について、何か感じることは?
 皆さん親切にしてくれますね。道民の大半は先祖が道外から渡ってきて150年も経っていません。台湾でも、大半の人は先祖が中国本土から渡ってきました。オープンな移民社会という共通点があります。
 ──改善が必要だと感じる点はありますか?
 交通機関ですね。美瑛だけでも観光スポットは数多くあるのに、その多くはレンタカーなど自分で交通機関を用意しなければ訪れることができません。短距離なら自転車で移動できますが、長距離だと困難です。いいカフェやレストランはあるのに、山奥であるためにレンタカー以外ではアクセスできません。個人旅行や少人数の旅行に適した交通機関がほしいと感じています。
 もう一つ、体験活動や野外活動の幅を広げてほしいですね。たとえば上川には家具や木工の工房が多いのですが、観光客に開放されれば、人気を集めるでしょう。いま私は経営者ですが、若いころには木工職人になりたいと思ったこともあります。美瑛に来て、3日間だけでも木工を体験できれば、ある意味、夢を実現することができます。農業、ガーデニングなど、幅広い分野で体験の機会があれば、先ほど申し上げた「生活の機会」になるでしょう。
 ──本日はありがとうございました。「十勝岳リゾート」を含む今後の美瑛での事業展開に注目しています。

この記事は2025年07月号に掲載されています。
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