立ち上がった「旭川医大正常化求める会」

 全国的な注目を集めている旭川医科大学の混乱が新たな局面を迎えた。附属病院長の解任を言い渡され、その撤回を求めている古川博之教授を含む合計22人の教授・名誉教授を発起人とする「旭川医科大学の正常化を求める会」が立ち上げられたのだ。まだ教授会の過半数を占めるには至っていないが、今後、さらに勢力が拡大する可能性もある。

「大学をこのままにしておけない」
 2月1日午後、旭川市役所4階の市政記者クラブに、全国的な関心を反映して「密」が心配になるほど多くの記者やテレビ局のクルーが集まった。落ち着いた口調で語り始めたのは、旭川医大から病院長解任を通告された古川博之教授。処分撤回を求めるとともに、昨年11月の時点で吉田病院からの患者を旭川医大病院で受け入れる準備はできていたなどと主張した。
 記者会見に出席したのは古川氏一人。まったく孤独な戦いを強いられているようにも見えた。しかし、この時点で吉田学長に「ノー」を突き付ける動きは水面下で慎重に進められていた。多くの医大関係者は以前から心の奥底に学長への不信感を秘めていたようだ。1月下旬の時点で、ある教授は本誌にこう語っている。
 「吉田学長にはもう正常な判断力が残っていない。大学をこのままにしておいてはいけないという思いがある」

部下の生活にも大きな影響
 当初、この教授は迷っていた。その時点で、吉田学長に反旗を翻したところでトップ交代に追い込める確信はまるでなかった。反学長派が負けた場合、自分たちは旭川医科大学を追放される。そんな前歴を持つ人材に新しい活躍の場を与える研究機関はない。学者人生は終わり。家族の運命も激変する。

記者会見を開いた古川氏
 部下の将来ものしかかる。医局トップの教授が交代した医局に後任が部下と一緒に乗り込めば、前任者の下で研究していた人は他に働き口を探さなければならないかもしれない。
 旭川医大では近年、教授や、教授への出世を確実視されていた人物が突然大学を去る事態が相次いだ。中には金銭をめぐる不正など、本人の行状が原因のケースもあるが、吉田学長の不興を買って旭川にいられなくなった人物もいる。
 耳をふさぎ、自分の研究と日々の医療に没頭するという選択肢もあった。「騒動と距離を置き、吉田学長と関係を良好にしておいたほうが、自分の医局の予算と人員は増えるかもしれない。しかし、もう座視しているわけにはいかない」と、この教授は覚悟を決めた様子で本誌に心情を語った。

中立守った大学の役員
 反学長派にとり明るい兆しもある。吉田学長が記者会見を開き、古川病院長の解任を発表したのは1月26日のこと。古川氏が反論のため記者会見を開いたのは2月1日だった。同日には旭川医大で学長選考会議が開かれ、病院長解任が適切だったかどうかを調べる調査委員会を、外部有識者も交えて開くことが全会一致で決まった。早急な結論を避けた形だ。「学長選考会議は学長に近い人物で固められている。早々に学長の主張に沿った決定が行われる」との一部関係者の予想は外れた。
 調査委がどんな結論を出すのか予想するのは難しいが、ひとつ確かなのは、反学長派が仲間を増やすための時間的猶予を獲得したということだ。1月末の時点で片手にも満たなかった賛同者は急増し、2月10日に会の公式サイトが開かれた時点では発起人は古川氏を含む22人となっていた。教授会で過半数を占めるには至っていないが、学長選考会議も無視できない勢力にはなった(すべての発起人は横並びで、代表は決められていない)。
 なお、今回「正常化を求める会」に加わった現役教授の中には、かつて学長の手腕を高く評価していた人や、学長に評価されてポストを得た人も含まれているが、彼らもどうしても黙っているわけにはいかなくなったということだろう。そもそも、古川氏も1年前までは吉田学長と蜜月関係にあった。

さらなる賛同募る
 「正常化を求める会」は吉田学長の何を問題視しているのか。趣意書には、①新型コロナウイルス医療の中で起きた学長の不適切発言②古川病院長に対する不当な解任ならびにパワハラ③滝川市立病院からの勤務実態を伴わない不適切な収入④長期政権と大学の私物化、ガバナンスの崩壊、教職員に対するパワハラ、が列挙されている。
 趣意書は最後にこう呼びかけている。「私たち教職員は建学の精神に立ち返り、力を合わせて旭川医科大学をもう一度立て直さなければいけません。そのための第一歩は、現学長にただちに辞任していただくか、解任することです。本学を開学以来最大の危機から救い、再び自由で希望に満ちた大学にするため、今こそ皆で声を上げるべき時です。署名活動へのご協力をお願いいたします」
 旭川医大で積極的に吉田体制の継続を求めている人はいまや少数派。今回「決起」した人以外も、学長の怒りを買わないよう、様子見を決め込んでいる人が大半だ。今後、彼らが雪崩を打つように反学長派に加わる可能性もある。

表紙2103
この記事は月刊北海道経済2021年03月号に掲載されています。