札幌新幹線ホーム不足 旭川市の「本気度」に疑問符

 新幹線札幌駅の構造のために旭川延伸が極めて困難になるのではないかとの懸念を、本誌は過去にも取り上げてきた。一部読者からは「政界経済界が団結して努力しているのに冷や水をかけるような真似はするな」との批判もいただいた。最近、旭川市が、そういった問題がないことを確認したとの情報を得たため、改めて取材したところ、市の担当者は新幹線の線路が札幌で「どんづまり」にさえならなければ問題ないとの認識で、ホームの数には関心がない様子。当然、十分なホームの数を確保するための働きかけも行われていない。選挙のたびに公約に登場する新幹線旭川延伸の前に数々のハードルが立ちはだかっているのは周知の事実だが、これでは旭川市や政治家たちの「本気度」が疑われる。

札幌駅の在来線ホーム。混雑しており減少の余地はない

問い合わせで 不安解決?
 まず問題。次の地名と数字の意味は何か。東京4、名古屋4、広島4、博多6、鹿児島中央4、仙台4、新青森4、長万部4(予定)。正解は新幹線駅におけるホームの数。始発駅または終着駅になることがある大部分の新幹線駅には4本以上のホームがある。新幹線にはホームが2つしかない駅も数多く存在するが、その大半は比較的乗降客の少ない駅。例外は、地形の関係で十分なホームの数を確保できなかった熱海駅(ホーム2本)、新神戸駅(同)くらいのものだ。新函館北斗は現在2本だが、札幌延伸時に通過用の線路が追加される予定。
 完成後には多くの人が利用すると予想されているのに、新幹線ホームが2本しか用意されない異例の構造となるのが札幌駅。現在の札幌駅から創成川を越えて東側に伸びる新幹線駅は、北側に在来線のホームが並び、南側で新しい高層ビルの建設予定があるため、これ以上ホームを増やす空間がない。公開されている完成予想図によれば、新幹線ホームの南側には大きな吹き抜けが広がる。ホームが2本だと、札幌から本州に向けて出発する前にホームで列車が待機している際や、本州から札幌に到着した後、乗客が重い荷物を抱えて降りるまで列車が待機している際、旭川発着の列車が交わすための線路がない。このため現在計画されている「ホーム2本」の札幌駅が、新幹線旭川延伸の重大な障害になるのではないかとの懸念を、本誌は繰り返し伝えてきた。
 最近、本誌記者は今津寛介旭川市長から以下の情報を得た。「担当者が確認したが、そのような状況にはならないとの説明を受けた」。だとすれば、本誌記者の懸念は杞憂だったことになる。新幹線のプロたちは札幌駅の新幹線用ホーム2本をフル活用して、旭川延伸に影響を与えない術をちゃんと用意しているのだろうが、どう頭を絞ってもそのような方法が思いつかない記者は、念のため新幹線延伸を担当している総合政策部政策調整課に確認してみた。

線路伸びれば それで安心か
 政策調整課の担当者は意外なことに「ホーム2本」をめぐる問題を認識しておらず、札幌駅から東方向に線路が2本伸びれば、それで旭川延伸の余地は十分に残ると考えている。「運用上の問題はあるのかもしれないが、現時点では見込みを立てるのが難しい」。
 旭川市政策調整課が質問した相手は北海道と札幌市だった。本誌がまず北海道に電話取材したところ「(ホーム2本で運用できるのかについて)少なくとも北海道はシミュレーションをしていない。旭川延伸はまだ基本計画なので、まだそこまで行っていない」「旭川市から問い合わせはあったが、旭川市は駅周辺のビル開発のために札幌で線路がどんづまりになることを懸念していたので、(留置線を設置する)苗穂方向にも線路が伸びることを説明した。ホームの数については説明していない」(北海道総合政策部交通政策局交通企画課)。
 札幌市のまちづくり政策局政策企画部都心まちづくり推進室は「私たちは札幌駅周辺の整備を担当している部署。旭川市から、札幌駅の目の前で行われている市街地再開発地区については問い合わせがあった」と説明する。ここでも、ホーム数の不足という観点からの問い合わせは行われていなかった。
 北海道も札幌市も、「ホーム2本問題」が旭川延伸に影響を及ぼすとは認識していない。彼らにとっては札幌開業の計画通りの実現こそが至上命題であり、現状では基本計画でしかなく、いつ実現するのかわからない札幌から旭川までの新幹線のことなど気にしている余裕はなさそうだ。
 結局のところ、議員、首長、市の担当者が「ホーム2本問題」が旭川延伸に悪影響を及ぼすとの懸念を、道や札幌、JRなどに伝えた形跡は見つからなかった。
 なお、札幌駅の新幹線ホーム不足は道北以外にも影響する。北海道新幹線は小樽を経由する北回りルートで建設されているが、一時期まで検討されていた南ルートの周辺に並ぶ室蘭、苫小牧、千歳といった自治体、さらには帯広や釧路など道東方面にも新幹線への期待感がある。こうした新路線の建設の際にも、ホーム不足が足かせになるのは確実だ。

十分か不十分か 永遠の疑問
 記者が前述した懸念は、綿密な検討に基づくものではない。北海道新幹線の列車が1日に何本運転されるのかなどはまったくの未定であり、十分なデータがない以上、外部の人間にはシミュレーションもできない。が、延長の余地が残されていない鹿児島中央駅でさえ4本のホームがあり、ほかの主要な駅でも大半は4本以上のホームが確保されていることから判断して、ホーム2本の札幌駅はもともとキャパシティが不足している。札幌駅ではたくさんの荷物を持った長期の観光客、外国人が多く利用すると予想され、乗り降りに長い時間がかかるとの事情も重なる。臨時列車が運転される繁忙期や災害などでダイヤが乱れた際には一段と複雑な運用が必要になる。ましてや、旭川延伸のためにホームを確保する余裕があるとは考えにくい。
 解決策が二つある。まず、旭川と札幌を結ぶ新幹線の列車の数を、札幌以南の運行に影響しないレベルまで絞り込むということだ。しかし、そんな新幹線の建設に巨額の費用を投じる価値はあるのかという矛盾が生じることになる。もう一つは、北海道新幹線すべての列車を旭川始発、旭川終着にする方法だが、ニーズを考えればこちらのほうが非現実的だ。
 記者も、本気で新幹線の鉄路が旭川までいつの日か伸びるとは考えていない。どうやって建設費用を確保するのか、地元負担分をどうねん出するのか、延伸後に採算ベースはとれるのか、並行するJR在来線が廃止されて影響を受ける空知の沿線自治体をどう説得するのか、新幹線に投資することでこれまで旭川空港に行ってきた投資は無駄にならないのかなど、課題は山積みだ(空知管内自治体への働きかけについて、旭川市では今年度中に事務レベルで情報交換を始めると説明している)。旭川と札幌の間の在来線は直線区間やトンネルが多く、在来線としては運転のスピードが速いことも、新幹線導入の必要性を低くしている。「ホームが2本しかないことが旭川延伸の足かせになるのか、ならないのか」。この問いへの答えは、他の問題が解決しないまま、うやむやになってしまう可能性が大きい。

旭川市民も負担 綿密な確認必要
 しかし、選挙のたびに候補者からは「北海道新幹線の旭川延伸を」といった公約が飛び出す。有権者に堂々と公約するからには、単なる思い付きやホラ話ではないはず。札幌までの延伸費用の一部を道北の住民も負担している以上、国土交通省や北海道や札幌市、JR北海道などに「ホーム2本の札幌駅の運用にまつわる不安があるので、綿密なシュミレーションで不安が解消するまで札幌駅の工事を少々待っていただけませんか」と頼んでも、バチは当たらないのではないか。
 札幌駅では工事の本格化を前に一部の在来線ホームの廃止、新設といった動きが昨秋にあり、札幌市内でもトンネル工事が本格化している。2030年度末(予定)の札幌延伸が着実に近づいている。一方、旭川延伸は単なるファンタジーなのだろうか。だとすれば、札幌駅のホームが足りず旭川延伸は難しいと指摘するのは、サンタクロースなど存在しないと子供の前で力説するような無粋な真似だったかもしれない。

この記事は月刊北海道経済2023年2月号に掲載されています
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