客急減のスナック 虚偽「廃業」情報にママ驚愕

 長く繁盛しているスナック。今年6月に入ってから明らかに客足が遠のいた。コロナが明けてさんろく全体では人の流れが活発になっている。「なぜ私の店だけが…」。理由を見つけられずに悩んでいたママに、客がスマホを見せた。「ネットでは、この店が廃業したことになっているぞ」。スマホを使わないママが、嘘の情報が伝播するネット社会の怖い一面を突き付けられた。

客のスマホに衝撃の情報
 6月下旬の夕刻、スナック「よしえ」(ヨシタケ3号館3階&0166・22・9981)を訪ねた。店内は高齢者の団体でいっぱい。それほど遅い時間ではないが、店内は大盛り上がり。すっかり出来上がっているように見える人もいる。これではママから到底話は聞けないと判断し、後日、出直した。
 エルムビルで自らの名前を掲げた店を約20年経営してきた。現住所に移ってから約4年。料亭や結婚式場で調理師として経験を積んだママの手作りチャームやにこやかな接客が支持され、これまで多くのなじみ客に支持されてきた。高齢者の団体が訪れ、この店が好きになり、別の団体を連れてきてくれることも多い。「今週も何件か、予約が入っているから忙しいの」と言いながらも、ママはこの仕事に楽しさとやりがいを感じている様子だ。
 ところが、最近異変があった。店には団体客のほか、少人数の個人客もいるのだが、6月に入ってから個人客だけが明らかに減った。一晩に1~2人の日もあり、客が途切れてママが寂しく店を守る時間も多かった。
 6月下旬、なじみの客から電話が入った。
 「今日、行くけどいいか」
 「予約入れていただいていますよね。お待ちしていますよ」
 「でも、ネットには『よしえ』が廃業したって書いてあるぞ」
 電話では理解できなかった。ママは完全なアナログ派で、ガラケーさえもできれば持ち歩きたくないと考えていた。家族に説得されて仕方なく持ったのも、他の人に比べればかなり遅かった。ガラケーはもっぱら電話用。スマホは持ったことがなく、メールも飲食店情報の検索も経験がなかった。
 その客は予約通りに来店した。「ほら、こうなってるよ」。客が見せたスマホには、たしかに「よしえ 廃業」との記述があった。「いまも変わらず営業しているのに。なんでこんなウソを…」。ママは理解できなかった。なぜ、このような営業妨害を受けなければならないのか、誰が悪いのか、誰に不満をぶつけていいのか、今もわからない。

「一切の責任を負いかねます」
 「さんろく スナック」と検索すると、本誌の開設した「旭川グルメマップ」をはじめ、多くのスナック関連サイトが表示される。が、大半は役に立たない。まずその多くは店名、住所、電話番号など最低限の情報しか出ていない。サイトの運営者はおそらく旭川を訪れたことがなく、ネット上や電話帳などの既存データをもとにスナック情報を列挙し、閲覧した人から受け付けたデータを付け加えているのだろう。
 他に大手企業が運営しているサイトもあるが、やはり利用者からの情報提供がベースとなっており、主体的に取材・編集・確認しているわけではないようだ。あるサイトにはこんな但し書きがある。「株式会社○○は本ウェブサイト上のコンテンツの内容について保証するものではなく一切の責任を負いかねます」。本誌が発行している「旭川美瑛グルメマップ」は記者が実際にその飲食店や物販店に取材しているが、ネットではこうした情報はむしろ少数派だ。
 最近、問題になっているのが悪意に満ちた口コミ。店員の外観上の特徴を挙げて「態度が悪い」「上から目線」などと一方的な批判を列挙する口コミ情報がある。「お客様は神様です」と考える風潮が一部残る日本社会では、正面から反論しにくい。
 一方、スナックに関する情報を集積したサイトで「廃業」とのウソの情報を掲載したとすれば、影響はそれ以上に深刻だ。少なくとも複数の手段で店舗に事実かどうか確認するなどの手続きが必要だろう。

検索サイトに残る誤認の「痕跡」?
 よしえママからの連絡を受けた記者は早速、ネットで店の情報を調べた。同名の居酒屋が廃業しているが、こちらには「居酒屋」と明示されており、明らかに別の店の情報だ。記者が調べた時点で「スナックよしえ」が閉店したとの情報そのものは見つからなかった。唯一、気になったのが、あるスナック情報サイト。「よしえ」のページに「廃業」の情報は見当たらないのが、グーグルで検索するとサイトの概要欄に「営業確認中」との文字がある。ページの概要がサイト運営者から提供されたたとすれば、誤情報の発信源なのではないか。
 同名・異業態の「よしえ」が廃業したことを受け、このスナック情報サイトの利用者が誤って「すなっくよしえの廃業」を連絡、サイトが確認することなくそのまま「廃業」と掲載したが、誤りに気が付いた善意の人物が連絡してサイトは修正された。しかし概要情報だけ更新が遅れている─こうした仮説が成り立つと考えた本誌は、このスナック情報サイトの運営者に取材を申し込んだ。すぐに以下の回答があった。
「当サイトはインターネット上より機械的に店舗情報を吸い上げて掲出している。廃業したとの認識は全く持ち合わせていない。『営業確認中』については表示していない要素をグーグルが勝手に表示させているため、その要因に関して、現時点で当社ではわかりかねる」(摘要)
 結局真相は闇の中。ママの疑問はまだ解決していない。
 軽い気持ちで画面上のボタンを押しただけで、大きな損害を被るのがネット社会の怖さだが、それだけではない。スマホもパソコンも持っていないスナックのママが、誰かのミスで営業活動を邪魔され、しかも抗議する相手が見つからないケースがあることも、このネット社会の現実だ。

この記事は月刊北海道経済2024年08月号に掲載されています。
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