市民の台所として長い間親しまれてきた「銀座商店街」。恒久的歩行者道路となっている「銀座仲見世通り」の東側の15丁目で大規模な再開発の構想が浮上していることは本誌が何度か伝えてきたが、三番舘駐車場の一角にある建物が準備室として活動を開始する。「主役」の参画でプロジェクト実現に向け一歩進んだように見えるが、より多くの地権者の参画と、旭川市の協力が推進には欠かせない。
長い歴史 多くの権利者
記者が訪れた日、銀座商店街では「銀座七夕まつり」(8月中旬まで)に向けた飾りつけが行われ、色とりどりの吹き流しが夏の風に揺れていた。付近の高齢者施設の入居者と思われるお年寄りが見物を楽しんでいる。買物公園ともショッピングセンターとも違う独特の雰囲気が、この銀座商店街の魅力だ。
商圏の中心的な店舗である丸善三番舘は、マダム以上の年齢層の女性を中心に根強く支持されている。近く、その駐車場に「3条通15丁目地区再開発準備室」が開設される。三番舘の建物は早晩、建て替えの時期を迎える。周囲にも同様の状況の建物が多い。それなら一緒に建て替えてこの地域を商業ゾーン、住居ゾーンとして活性化すると同時に、防火、耐震の力も高めようというのが、「(仮称)旭川3条~4条通15丁目(案)地区 再開発プロジェクト」の趣旨だ。
この構想については過去に本誌が何度か伝えており、ゆっくりではあるが準備作業が続けられてきた。
長い歴史を持つ地区の再開発にはありがちなことだが、このあたりは商業地として発展してから100年以上の歳月を重ねており、何度も代替わりしている。権利者の数は膨大。常設の準備室が設置されたことで、今後、権利者にコンタクトし、プロジェクトへの賛同を得る動きが加速するとみられる。
このプロジェクトでは初めて、概要や目的をまとめたパンフレットも作成した。これも権利者とのコミュニケーション、そして再開発に向けた機運の醸成に役立ちそうだ。
足並み揃えて
丸善三番舘では前社長で夫の大蔵謙造氏の急逝を受けて、今年4月5日に大蔵真美氏が社長に就任した。プロジェクトの関係者は「地域全体にとり重要なプロジェクトであり、周辺の皆さんが足並みを揃えて推進することになるだろう」と予測する。
三番舘と並ぶこの市場の象徴的な存在が、第一市場。建物の老朽化が進んでいることから、戦前戦中戦後に至る栄華を取り戻すために本格的なリニューアルが必要なのは誰の目にも明らかだ。
この地域では防災面で不安を抱えている建物が少なくないと見られる。行政は地域の活性化だけでなく、安全性の確保のためにも、このエリアの再開発の必要性を直視する必要がありそうだ。
プロジェクト名のうち、再開発対象エリアを示す「旭川3条~4条通15丁目」に「案」がついているのは、まだどこまでが再開発対象か確定していないため。今後、広がる可能性もあり、多くの権利者や店舗に参加を呼びかけていく。
パンフレットには事業目的が「商業関係」と「住居関係」に分けて掲げられている。前者では▽老朽化した商業施設の更新▽公開空地およびイベント広場兼駐車場の整備▽個性ある商店街のにぎわい創出、後者では▽集合住宅の整備▽良好な居住環境の提供▽まちなか居住の促進をそれぞれ謳う。
魅力の立地条件
「第一市場はかつて、繁忙期には人が通れないほどの混雑ぶりだった」と、昔を知る人は語る。多くの観光客を引き寄せるまちには、昔からのマーケットを現代的にアレンジして買物と食が楽しめる場に仕立て、集客に役立てているところが少なくない。プロジェクトの下で第一市場や銀座商店街全体に新しい命が吹き込まれるかに注目が集まる。
住居環境についても、冬の除雪を負担と感じ、またクルマの運転が困難となる高齢者の中には、銀座通周辺でのマンション住まいを志向している人もいる。また、病院やクリニックが並ぶ4条通に近く、少し歩けば北彩都あさひかわ地区にも行ける立地は、高齢者にとっては魅力的だ。プロジェクトがこうした層に住まいの選択肢を提供するかもしれない。
銀座商店街に新しい命を吹き込むプロジェクトに、本誌は今後も長い目で注目していきたい。