風の子館撤去に一部から疑問の声

 国内で初めて構想された木製屋根付き遊具で、1996(平成8)年度旭川市都市景観賞(優良景観認定施設)に輝いた春光台公園・「風の子館」の老朽化を踏まえた市の撤去方針について、市民の一部から疑問の声が上がる。「全体の構造は十分に使用できる状態で、学校では子どもたちにSDGs(持続可能な開発目標)を教えているなかで、全廃棄はエコロジーな観点からも時代にそぐわない」。有識者からもそんな意見が寄せられている

多くの子どもに愛された
 旭川市中心街から5キロほど離れたところに広がる旭川市春光台公園は、52ヘクタールと広大な面積を誇る。広葉樹に囲まれた豊かな自然環境に恵まれ、旭川っ子をはじめ、市内外の親子連れに親しまれている。
 「風の子館」のある宝くじ遊園は、春光台公園の東側8000平方メートル部分にある。日本宝くじ協会が1994(平成6)年、宝くじ遊園地造成事業として風の子館を設置し、寄付した。大きな屋根を設けた建築的な立体性のある遊具で、季節を問わず遊べるように工夫されている。
 日本建築学会会長や日本建築家協会会長を歴任した東京工業大学名誉教授・仙田満氏(環境デザイン研究所)が設計した。仙田氏が提唱する、子どもの意欲をかきたて夢中になって遊べる環境を創造する「遊環構造」を色濃く反映し、探索的な遊びや多様な身体活動を伴う遊びができるように工夫されている。
 温かみを宿す木製遊具は、近くに住む子どもたちのみならず近隣市町村の家族連れにも愛され、地元の小学生と市内の業者が手を携え、ボランティア塗装をするなどして〝かわいがってきた〟。

腐食し老朽著しく市が解体・更新意向
 ところがいま、閑散とした空間に廃屋と見まがう建造物をオレンジのネットが囲う。風の子館は、2023年5月から使用が禁止された。2024年秋、現地を訪れると「立入禁止」の札が木枯しに揺れていた。
 「春光台公園の指定管理者である旭川市公園緑地協会が専門業者に委託して毎年遊具の点検を実施しています。風の子館は、令和5年度の定期点検で老朽化のため危険と判断され、子どもたちの安全を第一に考え、使用禁止の措置を取りました」。所管する旭川市土木部は、2024年9月の市議会定例会で品田ときえ議員(民主・市民連合)の質問に答えた。
 さらに、「部材の老朽化が進み、基礎以外の部材のほとんどを新材に入れ替える必要があります」と述べた上で、現行の遊具の安全基準に合致しないことにも言及し、「遊具本体の安全性の確保や修復コストに課題がありますことから修繕を行わず更新することにしました」。
 風の子館の解体撤去・新遊具更新の旭川市の判断は拙速とのスタンスをとる品田議員は「風の子館は多くの市民に愛され、利用された遊具です。ですが、解体・撤去されることを知らない市民は多いと思います。地元の町内会の役員すら知らない状況ですよ。しかもデザイン性に優れ、工夫した遊びができる風の子館には思い出・思い入れの多い人もいる。あれだけの大型遊具の解体撤去について地元住民も知らないうちに進められていいのでしょうか」と述べ、市の方針に疑義を呈した。

運営協議会に説明 一定の理解を得た?
 旭川市土木部公園みどり課によると、2023年夏に学識経験者・地元市民委・地元商工会・自然保護団体・公募市民ら9人で構成する「春光台公園運営協議会」を立ち上げ、2024年1月までに計3回、風の子館に関する協議を重ねてきた。
 「風の子館の使用禁止の措置と修復整備は困難であることを説明し、参加者からは、安全に遊べて冒険心をくすぐる遊具への更新(あたらしい遊具の導入)が妥当であるとの意見が出された」。市議会定例会で市土木部はそう答弁している。一定のコンセンサスを得た、との認識を示したものだ。
 撤去して新しい遊具を整備することに一定の理解を得た、とする旭川市だが、狭い合意形成との指摘もある。「運営協議会の協議結果をその都度ホームページで公表し、SNSなどを通じて広く市民の意見を募集してきた」。旭川市は、運営協議会に限らず広く一定のコンセンサス得たとの認識だが、風の子館の撤去・遊具更新の計画を知る地元・春光台地区住民はそう多くはない。
 「随分前から閉鎖しているのは知っていました。老朽化しているな、と見ていました」。毎日の通勤で風の子館を見ていた男性は、市の撤去方針に驚きこう言う。「有名な方が設計した遊具ですから……、リフォームできると思うのですが、価値あるものがなくなるのは残念です」

この続きは月刊北海道経済2025年1月号でお読みください。
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