旭川農業高校地域資源活用班と、旭川最古の醤油蔵・日本醬油工業株式会社がコラボする「三升漬プロジェクト」が順調だ。2年目となる今年度は、トマトとキュウリを素材とした新商品を開発し、2月1日の販売会で初披露。旭川の発酵醸造文化を若い世代が継承する試みとして注目を集めている。

20軒以上から数軒へ
旭川はかつて、道北の産業・経済の中心地として発酵醸造業が盛んだった。明治時代の第七師団移駐を機に発展し、豊かな水と農産物を背景に醸造業が栄えた。しかし、生活様式の変化により、20軒を超えていた醸造業は一桁へと減少。現在の工場数は、旭川市内で清酒3社、ビール1社、しょうゆ2社、味噌1社の他、小さな事業主が数社あるに過ぎない。
この発酵醸造文化に注目したのが旭川農業高校地域資源活用班。プロジェクトを始めるにあたり、旭川で醤油製造を行う日本醬油工業株式会社を訪れた。茂木浩介社長からは、「旭川には酒や醤油の発酵の歴史がある一方で、豊富な農産物を活用した新しい発酵食品が誕生していない」という課題を示された。
三升漬を知らない世代
プロジェクトは「何を作るか」から始まった。地域性があり、さらには意外性のある商品開発を目指す中で着目したのが、三升漬だった。
三升漬は、青唐辛子(ナンバン)、醤油、麹を同じ比率で漬け込んだ北海道の伝統的な漬物。明治時代から北海道の各家庭で親しまれてきた郷土料理だが、生徒たちのほとんどは三升漬を知らなかった。
生徒たちは「伝統の味が現代的な価値として提案されていないことが本質的な課題」と分析し、同世代である「Z世代」をターゲットに設定。自分たちが知らない文化だからこそ、若い世代の視点で新しい価値を加えられることを強みと考えた。
オール旭川産
プロジェクトは24年春から本格始動。原材料すべてを旭川産で調達することを目指し、ナンバンは有機質肥料と総合的病害虫防除を導入して生徒たちが学校の畑で栽培。醤油は日本醬油工業の特級醤油、麹は旭川産の米を使ったいとげん伊藤元三郎商店の米麹を使用した。
さらに差別化を図るため「旭川や近郊で採れる何か有名なものをプラスで入れることで、独自性を出そう」と考えた。昔ながらの三升漬を、新しい感覚の食品にするための工夫だった。
試行錯誤の結果、旭川のジャパチーズのフロマージュブランを加えた「チーズ味」、旭川農業高校産のニンニク・タマネギ・ネギを使った「にんにく・玉ねぎ・長ねぎ味」を開発。デザインは、旭川市在住のデザイナー佐藤公哉氏と協働し、高校生の斬新な価値観をイメージしたゴールド、対照的にシルバーを採用した。
販売会までの1カ月間、SNSで製造プロセスやおすすめレシピを発信することで、販売会ではSNSを見た中高生の来場が全体の約2割を占めた。限定525本で製造した商品は25年6月までに完売し、秋の販売会のために新たに製造を追加した。
トマトとキュウリ
プロジェクト2年目の25年度は、新たな素材としてミニトマトとキュウリを選んだ。
トマトは、3年生の加賀陽葵さんが初年度の試作で挑戦した素材だった。一カ月間という短い試作期間では十分にトマトの旨味を引き出すことができず、商品化を見送った経緯があった。
今年度も加賀さんはトマトを使用した三升漬に挑戦。最初はドライトマトを試したが、果肉の食感の改善とトマトの瑞々しさを残すことを考え、水分量の少ない品種のアイコトマトをカットして投入。仕上がった試作品は、フレッシュ感のあるもので、2年越しの採用となった。「最初に口に入れた時、トマトの果肉のジューシーさがあり、あとからホットな感じがします。4つの商品の中でも一番辛いものが出来ました」と加賀さんは笑顔で話す。
一方のキュウリは、初年度にオクラ入りの三升漬を試作した小日向花衣さんの案から誕生した。当初はオクラとキュウリを合わせることで夏らしいさわやかさを目指したが、オクラの粘りが充填作業の際にネックとなり、オクラを抜いて試作したところ、キュウリの食感が際立ち、さらっとした口当たりの仕上がりとなり、トマトと並んで採用となった。
デザインは昨年度のゴールドとシルバーに対し、ミニトマトの赤色、キュウリの緑色の特徴を生かした、くすみ感のあるカラーを採用した。
「冷奴に合いそう」
今年度初となる販売会は2月1日に日本醬油工業の直売店で行われた。3年生が対面販売を担当し、買物客に4種類すべてを試食してもらい、丁寧に特徴を説明した。
千葉から旅行で旭川を訪れた女性は2種類を購入。「三升漬は初めて食べましたが、美味しいですね。冷奴に合いそう」と笑顔を見せた。
辛さにも特徴がある。トマトとキュウリは一番辛い時期のナンバンを使っているために辛みが強いが、チーズと、にんにく・玉ねぎ・長ねぎは6月の初採りのナンバンを使用しているため辛味が少なく、とてもまろやかだ。
担当の國井愛教諭によると、トマトを使用した三升漬は洋風で、キュウリは和食に合うそう。今後、様々なレシピを同班のインスタグラムで発信していくという。
この日の販売会では、茂木社長も生徒たちと一緒にブースに立ち、商品の特徴について熱心に説明した。生徒たちが元気に販売する様子を目を細めて見守っていた茂木社長は次のように語った。「初年度のメンバーが3年生になってリーダーシップを発揮し、販売会でも元気に接客をしてくれています。今春に現在の2年生が3年生になり、またプロジェクトをけん引していくという、良い循環が生まれていると思います。
しかし、こうしたプロジェクトでは、次第に選択肢が狭くなってくる傾向があります。生徒さんたちにどれだけ発想の広がりを持ってもらえるかが鍵。様々な発酵食品が農業高校さんが手がける原料でできれば面白いと思います」
食育として次世代へ
このプロジェクトは、地域の発酵醸造文化を、食育を通じて次世代に継承するという大きな意義を持つ。前述のように三升漬は明治時代から北海道の各家庭で造られてきた郷土料理で、生徒たちはこの伝統を、高校生ならではのアイデアを盛り込むことで、若い世代に伝えようとしている。
2年目を迎え、その成果が見え始めている。加賀さんは同世代の間で醸造発酵文化への理解が少しずつ広がっていることを実感している様子で、「友人から『三升漬を食べてみて美味しかった』と言われ、とても嬉しい気持ちになりました」と笑顔で話す。
また、國井教諭はプロジェクトを通じ、生徒たちの成長を実感している。「旭川の発酵醸造文化の歴史を学び、自分たちも新しい形でその文化を継承していることを認識し、自信につながってると思います」と話す。
プロジェクトは地産地消、伝統継承、価値創造、持続可能性という4つの柱で展開されている。今後は「SAVOR JAPAN(農泊食文化海外発信地域)」認定への挑戦も視野に入れており、産業・官公庁・学校が連携する地域ビジネスモデルとしての発展を目指す。
旭川では24年10月に、「旭川醸造発酵会」が発足し、日本酒、ビール、醤油、味噌、麹、チーズなど、市内で発酵・醸造に携わる事業所が参画し、発酵醸造をテーマにツーリズムを確立させることを目指し、積極的に活動している。三升漬という〝ニッチ〟なアイテムに着目したプロジェクトは、旭川の醸造発酵文化に新たな息吹を確実に吹き込んでいる。

