道北最大の歓楽街、さんろく街の主役はスナック、ラウンジ、居酒屋といった業態が入居する飲食店ビル。そのうちひとつ、3条通6丁目の3条本通に面した「アークヒルズ」が、東京の不動産会社に売却されてから1年足らずのうちに、すすきのを中心に多くのビルを所有するLCグループに転売された。LCは隣接する「小杉ビル」もほぼ同時に購入した。さんろく街では2棟目・3棟目の取得となり、今後も「版図」拡大が続くのかどうかに注目が集まる。

今年1月名義移転
アークヒルズビルは1989(平成元)年完成。地下1階、地上8階建てで総床面積は1984・87平方メートル。通常、こうした建物は階ごとの床面積が上層に向かうにつれ減っていくものだが、アークヒルズで3階が最も狭いのは、1~3階が舞台や照明、音響を備えたフロアーとなっているため(現在はショーパブの咲楽屋が入居)。
建設以来、この建物の所有者はプリンス観光だった(2002年からはグループ企業のプリンス・ドリーム・カンパニー観光が所有)。ビルの内部にはプリンス観光と関係の深いスナックやクラブなどが今も入居している。
そのアークヒルズビルのオーナーが変わるとの情報が流れたのは昨年夏のこと。債権者からの競売申し立てなどがあり、一時は実現が危ぶまれたのだが、関係者間の交渉がまとまり申し立てが取り下げられ、今年1月26日に名義移転が完了した。
なお、本誌既報の通り、プリンス観光のもう一つの拠点だったプリコタワーⅡ(旭川市4条通6丁目3・4仲通側)も、今年6月に解体工事を主力とする札幌の企業、凌霄に転売されている。
今年1月にアークヒルズを手に入れたのは東京の池袋に本社を置く不動産会社、㈱ランドネット(榮章博社長)。「東京23区の中古ワンルームマンションを中心に不動産の売却・購入・投資・賃貸管理・リフォームの5つの事業を主に展開している」(同社ウェブページ)。
さんろく街2棟目
10月31日、ランドネットからすすきの街を中心に多くのビルを所有しているLCグループ(法人名は㈱リンクル)にアークヒルズが売却された。
本誌の電話取材に対してLCグループの関係者は以下のように答えた。
「契約を結び、すでに決済を終えている。今後、改装を行うが、外装については冬期間はできないので当面先になる。既存のテナントとの契約は今後も継続されるので、賃料を引き上げたり退去を求めることはありえない」
ランドネットによる取得価格は1億800万円と伝えられており、LCグループへの転売価格はそれにわずかに利益を載せた1億2000万円程度ではないかとの見方があるが「取得価格についてはノーコメント」(LCグループ)
LCグループでは取得した順番に「LC〇〇番館」という名前を付けている。すすきの地区で最後のビルが「LC拾八番館」(18)。その大半は飲食店が中心の雑居ビルだが、一部はオフィスビル。動物病院が入居しているビルもある。すすきの以外にも、札幌市内の他のエリア、函館にビルを多数所有している。
旭川にも進出して久しい。4条通8丁目で緑橋通に面した8階建てオフィスビルを取得して「LC1号館」としたのに続き、2021年10月には3条通6丁目の2・3仲通り、5丁目側に面したNASAユニバーサルビルを取得して大幅にリニューアルし、「LC旭川2号館」とした。
「この建物は住所こそサンロクだが、隅にあり、人通りも多くない。LCグループとしてはサンロクのど真ん中でのビル取得を目指していたのではないか」と、このエリアの不動産に詳しい人物が指摘する。
LC旭川2号館では、出店者の初期費用を抑える料金体系を導入した。アークヒルズビルは「やや高級な店を招くなど2号館との差別化を図る方針」だという。
アークヒルズの売買が成立したのは10月31日。その前日には、隣接する4階建ての「小杉ビル」もLCグループが取得した。こちらも価格は非公表。
小杉ビル1階のドアには「そば粉専門店」の文字が掲げられているものの、2階以上は活用されていなかった模様。この建物の今後について、LCグループでは「検討中」としている。
さらにLCグループでは「さんろくで他に物件があれば条件次第で購入を検討する」と説明する。
他にも交渉中案件
本誌にはさんろくエリア内で、飲食店ビルの転売に関する情報が流れている。多くのケースでは、地価が右肩上がりだった時期に取得した現オーナーの言い値と、購入希望者の想定する価格の間には開きがあるが、想定外の事態が起きない限りこのエリアの物件価格が上昇に転じるとは考えにくく、価格交渉がまとまったビルから順番にオーナーが替わりそうだ。
さんろく街の建物の中にはバブル期に建設されたものの、その後十分なメンテナンスやリフォームが行われず、タイルが脱落するなど外観がくたびれてきているものも一部ある。
市内の企業が建設し、これまで所有してきたビルの転売には寂しさを感じずにはいられないが、転売が避けられないなら、外部からの資金注入でこれらのビルが輝きを取り戻すことに期待するしかない。
