コロナ明けからの好調な旅行客の出足はいまも続く。主要な観光地でレンタカー、道外ナンバーの乗用車を多数見かける。いたるところで耳にするのが観光客同士が交わす韓国語だ。旺盛な需要に注目して、今年12月から韓国アシアナ航空が旭川─仁川(インチョン)間で週4往復を運航することになった。関係者に7年ぶりの復活までの経緯を尋ねた。

寂しかった国際線
2006年6月8日は旭川空港にとり記念すべき日となった。この日、初の国際定期便として韓国のアシアナ航空便が乗り入れた。それまで旭川空港から外国に向けて飛んでいたのはチャーター便。安定した利用客が望める定期便は関係者の念願だった。
その後は台湾、中国からも定期便が来た。増便や減便、新規就航や撤退はあったが、これらの便に乗って多くのツアー客、個人客が旭川や道北エリアを訪れた。受け入れ態勢の拡充を目指して旭川空港ビルの拡充が行われたのは2019年のこと。その矢先に世界中がコロナ禍に包まれ、国際便は完全に途絶えた。
コロナ禍の沈静化を受けて、昨年5月には台湾のLCC、タイガー航空の旭川─台北(桃園)便が復活し、現在は週2往復を運航。韓国からのチャーター便も始まった。しかし、ジェットスター・ジャパンの成田便の就航もあって活況を呈している国内線と対照的に、運航のない日の国際線ゾーンでは人影もまばらだ。
大きなニュースが飛び込んできたのは10月11日のこと。韓国アシアナ航空が12月19日から旭川─仁川間で週4往復(火・木・土・日曜日)を運航すると発表した(この路線については16ページの記事参照)。
昨年のジェットスター・ジャパンの乗り入れに続き、旭川空港にとっては2年続けての大きな動きとなるが、アシアナ誘致が実現した背景には、ジェットスタージャパンの時と同様、旭川市による誘致活動や北海道エアポート(HAP)によるサポートがあった。
チャーター便多数
いま札幌など道央の観光地に行けば、韓国語、中国語、タイ語などが飛び交っている。円安を追い風にインバウンド客の観光需要はコロナ前の水準を回復するどころか、それを上回る勢い。各国の航空会社には、新千歳への便を増やしたいとの思いがある。しかし、新千歳の発着枠拡大は当面困難な状況。旭川空港から見れば、誘致のチャンスが到来していた。
韓国からはティーウェイ航空(LCC)とアシアナが国際チャーター便で旭川に乗り入れていた。その数はティーウェイが23年7月からこの10月までで27往復、アシアナが23往復に達する。順調な運航状況に注目して、7月2日にアシアナのアシアナ航空の日本地域本部長が旭川を訪問した際、今津寛介市長が定期便就航を働き掛けて誘致に向けた動きがスタートした。もっとも、最初からアシアナに狙いを絞っていたわけではなく、韓国勢では大韓航空やティーウェイにも並行して働きかけていた。
道内主要7空港の運営を一括して受託している北海道エアポート(HAP)は、過去に運航実績のあるアシアナに対して、事実上の「新規就航」として扱い、就航1年目は着陸料10割減額の優遇策を適用することを決めた。アシアナに限らず、他の航空会社への適用も想定して、旭川市は就航開始に伴う初期費用や、翼に付いた雪や氷を溶かす作業(デアイシング)の費用等への支援を補正予算に計上。9月13日の市議会第3回定例会で可決された。内外の航空会社は約3年間にわたるコロナ禍で深刻な打撃を受けており、資金面にゆとりがないことから、こうした支援策は誘致に大きな効果を発揮したとみられる。一方で、旭川市の担当部局が連日、アシアナへ就航を働き掛け続けた。その結果、12月19日からの運航が決まった。
06年には旭川からアシアナ便を盛り上げるべく、市民有志により「アシアナ友の会」が設立され、直航便で韓国を訪れたり、日韓の民間交流に従事するなどした。中心的な役割を担った和田徳久さんは当時を振り返り「直航便は新千歳を経由するよりも大幅にラク。仁川直航便が復活すると聞き、今後に期待している」と語る。アシアナ便の復活で民間による同様の動きが再び盛り上がるかどうかが注目される。
海外への直航便の最大の利点は、荷物を一度預けてしまえば、目的地の空港まで気に留める必要がなくなること。重いスーツケースを抱えて駅の階段を上り下りしたり、空港での乗り換えのため長い距離を歩かなければならないのは地方の住民に特有の悩みだが、最寄りの空港からの直航便があればこうした問題から逃れられる。
注目は仁川の先
アシアナ便が就航すれば、旭川空港では国際定期便の便数が一挙に3倍に増える。LCCではニーズが低いとしてこれまで休止していた国際線のビジネスラウンジも、アシアナ便の運航がある日は復活する見込み。
地上業務は全日空(ANA)と道北バスが出資する道北航空サービスが担う。週4往復の運航で、国内便の地上業務と時間が重複するなどの影響が出る可能性もあるが、HAPからの働きかけの結果、エアドゥ(ANAと共同運航)、日本航空(JAL)なども含め、旭川空港全体で協力するとの機運が醸成された。
いまのところアシアナ便の運航が確定しているのは今年冬から来年春にかけての冬ダイヤだが、旭川市は通年運航を期待している。一方で、他の海外の航空会社の旭川就航のほか、現在は季節運航となっている旭川─大阪(伊丹)便(JAL)、旭川─セントレア便(ANA)の通年運航も働き掛けていく方針だ。
